北総線運賃訴訟(2-被告の反論)

第1回口頭弁論で被告は、原告には行政事件訴訟法第9条の原告適格を有しないと主張した。裁判の会のサイトに被告の答弁書が掲載されていないが、近鉄特急の利用者が大阪陸運局長による特急料金認可の取り消しを求めた近鉄特急料金訴訟において鉄道利用者個人の原告適格を否定した最高裁第1小法廷判決判例としている。
原告は、裁判長の指示を受けて、第2回口頭弁論で原告適格についての被告の主張に反論したが、原告の準備書面(1)の概要では「純粋に法理論的な内容であり、超専門的で超難しい」と原文が省略され、次のように要約されている。

鉄道事業法のしくみは、独占事業から利用者の利益を保護する趣旨であり、それは利用者の利益を個別具体的に保護する趣旨と解しなければ意味をなさない。本件原告の経済的負担は家計に重圧となっているので、考慮事項に照らして、処分において考慮されるべき利益、害される利益を検討すれば、原告適格は肯定されるべきである。

原告適格の議論には立ち入らず、ここでは、第1回口頭弁論で裁判長が被告に立証を求めた認可の適法性についての被告の反論を準備書面(1)に基づき紹介する。まず、請求の趣旨第1項、第2項(京成電鉄北総鉄道の線路の使用条件の認可処分の取り消し)について

  • 基本協定に基づく運賃の配分は、基本的に、列車を運行する北総と京成がそれぞれの運賃・特急料金収入を取得するものであり、不合理とはいえず、むしろ合理的である。都営地下鉄京急が第1種事業者として運賃収入の全額を取得するのは当然で、北総の場合と異なる。
  • 北総線と印旛日本医大経由成田空港方面との相互発着の旅客及び北総線内通過旅客は、新線開業によって新たに発生する。それ以外の利用形態については、従来すべて北総に帰属していたため、北総の運賃収入が減少するが、京成が支払う線路使用料(鉄道事業用固定資産の使用割合に応じて京成が負担する固定額及び京成の運賃収入が固定額を超えた場合の加算額)で補填され、北総の収支に影響を及ぼさない。
  • 鉄道事業法15条3項は「鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすと認められる場合を除き」使用条件を認可しなければならないと定めている。申請された線路使用条件は、北総の収支に影響を及ぼさず、北総は引き続き線路の適切な維持管理が可能であると認められ、支障を及ぼすおそれはないから、適法である。

次に請求の趣旨第4項、第5項(北総の旅客運賃変更認可処分の無効確認及び取り消し)について

  • 北総の旅客運賃変更認可申請は、運輸審議会の答申を踏まえ、鉄道事業法の認可基準に適合するものとして認可されたものである。
  • 原告は、三社協定の線路使用料の認可(第1項、第2項)が違法であるから、運賃変更認可処分も違法であるとの主張であり、本来の処分の違法を主張していない。
  • 請求の趣旨第5項の取り消しは、出訴期間*1を途過して提起された不適法な訴えである。

請求の趣旨第7項(京成成田空港線の鉄道上限運賃設定認可処分の取り消し)については、

  • 京成の上限運賃認可申請は、運輸審議会の答申を踏まえ、鉄道事業法の認可基準に適合するものとして認可した。
  • 原告が指摘した京成の需要予測は、航空旅客需要と都市内旅客需要に分け、成田国際空港株式会社(NAA)の予測利用者数、沿線人口推計等をもとに四段階推計法*2により算出されており、不適切な点はない。

*1:行政事件訴訟法取消訴訟を提起することのできる期間

*2:発生・集中量の予測、分布交通量の予測、機関分担の予測、配分交通量の予測の4段階に分けて交通量を推定する手法