北総線運賃訴訟(3-原告の再反論と感想)

[2-被告の反論]で紹介した第2回口頭弁論時の被告の反論に対し、原告は第3回口頭弁論に提出した準備書面(2)で、以下のとおり再反論した。
線路使用条件:

北総鉄道の運賃認可:原告は、北総の遠距離低減運賃体系をメタボ運賃と名づけ、これは違法との新たな主張を提起した。運賃は原価に基づき、距離比例的であるべきでなのに、初乗りから中間距離までの運賃が異常に高い北総の運賃は、北総の利用者にだけ著しく不利に作用し、運賃設定の裁量権の範囲を超え、違法であると主張する。
京成成田空港線の運賃認可:北総線の運賃にあわせて設定された成田空港線の運賃は、北総の運賃体系が無効・違法であるから、自動的に違法であるとの主張である。
双方の主張を読んだ若干の感想を記す。
京成高砂・小室間において、京成の収入をすべて第1種事業者の北総に帰属させるべきであるという原告の主張は、京成がこの区間の第2種事業者である以上無理な議論だろう。京成が支払う線路使用料の方を問題にすべきである。線路使用料が北総の運賃収入減少分を補填する金額に抑えられているというのは妥当だろうか。JR貨物が第2種事業者区間で旅客鉄道会社に支払う線路使用料はアボイダブルコスト方式*2で低く抑えられている。これは、国鉄分割民営化時に経営基盤が脆弱なJR貨物を支援するために定められたものであり、京成と北総の関係にはあてはまらない。第1種事業者と第2種事業者が並存する、目黒・白金高輪間や総社・清音間で、都営がメトロに、井原鉄道JR西日本に支払っている線路使用料も第1種事業者が利益を得られない仕組みになっているのだろうか。
千葉ニュータウン鉄道の第3種区間で、北総は運賃収入の全額を千葉ニュータウン鉄道に支払い、コストの補填だけを受けるのに対し、京成は運賃・料金収入の全額を収受して、京成使用の割合に応じたコストを線路使用料として支払う。同じ第2種事業者である北総と京成の線路使用条件が不平等であるのは確かにおかしい。
運賃は距離比例にすべきであり、北総と京成空港線の遠距離逓減運賃体系が違法であるという原告の主張は当を得ていないと思う。輸送コストは距離に比例しない出改札等のターミナルコストを含み、対キロ制を採用しているJRなども一定の初乗り運賃を設定し、原告が言うような完全に距離比例の運賃体系は存在しない。昨年6月9日の記事に書いたように、遠距離逓減運賃の議論は、北総線の運賃値下げを実現する会(北実会)と京成との公開質問で出ていた。京成が都営地下鉄、京阪、神戸電鉄の運賃カーブを例に挙げ、空港線の運賃だけが遠距離逓減運賃ではないと主張したのに対し、北実会は絶対額の議論にすりかえていた。同じ記事で近似関数(y = m * xn)の[n]で4社局の運賃カーブを比較したが、空港線は遠距離逓減度が最小であった。
今回も原告は、都営地下鉄、京阪、京王の運賃を北総・京成空港線と比較しているが、絶対額の高低を論じているだけで、遠距離逓減度の議論をしていない。運賃カーブが徐々に寝てゆく遠距離逓減運賃の指標としてより有効な、原点を通過しない指数関数(y = p + q * xr)の[r](7月31日の記事及び鉄道事業者の運賃比較参照)で比較すると、京阪は京成空港線よりも遠距離逓減度が高く、北総よりも神戸電鉄阪神秩父鉄道などのほうが遠距離逓減度が高い。
鉄道事業者の運賃比較」に書いているように、対キロ区間制を採用する事業者の中には、初乗り運賃以降ほぼ直線的に運賃が上昇する大多数のタイプと、運賃上昇勾配が屈曲し、遠距離逓減運賃となっているタイプとがある。これは事業者の裁量権の範囲であろう。北総は後者で、路線を延伸するつど運賃カーブを寝かせていった。「北総の利用者にだけ著しく不利に作用し」というのは、成田空港線への通過旅客と比較したときの話だろうが、北総線内でも長距離の運賃が相対的に低くなっており、京成高砂から遠距離の白井市印西市の住民が主体の原告がこのような主張をするのは理解できない。

*1:北総開発鉄道と旧住宅・都市整備公団との協定を引き継いだもので、同区間の累積欠損が解消するまで

*2:貨物列車が運行したことによる旅客会社の経費の増加分だけを支払う