続・北総線運賃訴訟東京地裁判決

既報の通り北総線運賃訴訟原告は、東京高裁に控訴した。原告団長のブログの控訴状によると、原告は一審判決の取消を求め、一審請求の8項目*1すべてを再度請求している。
東京地裁判決は、原告が「メタボ運賃」という北総の超遠距離逓減運賃について、全ての旅客に同様に適用されるから「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」に該当しないとして退けた。控訴状では、北総鉄道の旅客運賃上限等変更の義務付け(原請求6)について、「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをすることがないよう距離に比例した原則の下に変更するように命ぜよ」と同じ主張を繰り返している。京成電鉄の旅客運賃上限等変更の義務付け(同8)についても同様である。
距離比例運賃を採用するか、遠距離逓減制とするかは、鉄道事業者の裁量の範囲だろう。京阪や神戸電鉄のように北総以上の遠距離逓減運賃を採用している事業者がある。また、北総運賃は、延伸のつど遠距離区間の利用者の負担を軽減すべく遠距離逓減化してきた経緯(「鉄道事業者の運賃比較」図4参照)を見ても、北総の遠距離逓減運賃は非合理的とはいえない。北総の遠距離逓減運賃が「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものではない」という判決は妥当である。
原告の「メタボ運賃」の議論は、同じ北総沿線の住民間にも利害関係を生じる。白井市より遠方の印西市の利用者は、むしろ遠距離逓減運賃の恩恵を受けている。原告4名のうち、白井市在住が3名、印西市が1名(原告を4名に絞る前は、白井市13名、印西市3名、鎌ヶ谷市1名)と、白井市住民が圧倒的に多いことを見ると、居住地域によって北総運賃への不満に温度差があることがうかがえる。また、県と沿線六市が合意した北総線値下げのための補助金支払いを白井市議会だけが否決し、市長が専決処分するに至ったことも、これを示している。
原告は、北総線の運賃体系の延長にある京成空港線の遠距離逓減運賃によって、京成空港線利用者の運賃が低く抑えられていることにより、北総鉄道区間のみの利用者が高い運賃を支払っていると、主張したいのであろう。しかし、これは遠距離逓減運賃を距離比例運賃に変更するのではなく、一審で原告適格を否定された京成と北総の線路使用料の観点から主張すべき問題だろう。
このブログで何回か書いているように、第1種北総と第2種京成との関係は、他の1種・2種事業者の関係とかなり異なっている。

  • 京成は、第2種事業者として運賃収入を得ている、成田空港線のうち京成高砂〜印旛日本医大間について、独自に乗車券を発売していない。実質を欠いた第2種事業者である。
  • 北総と京成がともに第2種事業者である千葉ニュータウン鉄道の第3種区間において、京成と北総の線路使用条件は京成が有利な不平等な条件である。
  • 第1種北総、第2種京成の関係は、経営基盤が弱い北総に線路を保有させるという点で、JR旅客会社とJR貨物の関係などと異なる。

4月20日の記事に書いたように、一審判決は、北総が京成から受け取る線路使用料がトントンであれば、北総鉄道区間内の適切な維持管理に支障を及ぼすおそれが生じたり、北総線の利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障が生じるような事態が生じるとはいえないから、線路使用条件の認可は鉄道事業法15条3項の認可条件に違反しないとした。
控訴審において、線路使用条件が北総の運賃に影響を及ぼすことについて原告適格が認められたとしても、上記の線路使用条件が「鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼす」ことを立証するのはかなりハードルが高そうだ。

*1:うち、北総鉄道の旅客運賃変更認可処分(平成10年9月4日)の無効確認(原請求4)とその取消し(同5)については、前者を主位的請求、後者を予備的請求として、1項目とした