北総線運賃訴訟東京地裁判決

北総線運賃訴訟原告団長のブログに東京地裁判決要旨が掲載されていた*1。判決は、原告の請求を次のように整理している(表作成は筆者)。

分類請求原告適格判決
1.線路使用条件(1)北総鉄道京成電鉄の線路使用条件認可処分(平成22年2月19日)の取消し×却下
(2)千葉ニュータウン鉄道京成電鉄の線路使用条件認可処分(平成22年2月19日)の取消し×却下
(3)北総鉄道京成電鉄の線路使用条件変更の義務付け×却下
2.北総鉄道の運賃(4)北総鉄道の旅客運賃変更認可処分(平成10年9月4日)の無効確認棄却
(5)北総鉄道の旅客運賃変更認可処分(平成10年9月4日)の取消し却下
(6)北総鉄道の旅客運賃上限等変更の義務付け棄却
3.京成電鉄の運賃(7)京成電鉄の旅客運賃上限設定認可処分(平成22年2月19日)の取消し×却下
(8)京成電鉄の旅客運賃上限等変更の義務付け×却下
判決は、原告の請求のうち、1の線路使用条件と3の京成電鉄の運賃認可に関する請求について原告適格がないとして却下した。2の北総運賃に関する請求については原告適格を認めたが、そのうち請求(5)は出訴期間が経過していると却下し、(4)と(6)については「実体法上の判断として理由がない」と棄却した。
線路使用条件の認可について原告適格を認めなかった理由は、報道されているように

鉄道線路使用条件は、旅客運賃や鉄道施設の変更等のように、鉄道利用者に直接影響を及ぼすものではなく、飽くまでも鉄道事業者相互間の関係を規律するものであることから、鉄道事業の適正な運営を阻害しない限り、鉄道線路使用条件の内容を原則として鉄道事業者相互間の調整にゆだねたものと解される。

であるが、「鉄道事業法の関連法令において、国土交通大臣が鉄道線路使用条件設定認可処分を行うに当たり、鉄道利用者に何らかの手続関与の機会が付与されていることをうかがわせる規定は見当たらない」とつけ加えている。
京成運賃の認可について原告適格を認めなかったのは、単純に「原告らは、京成電鉄に旅客運賃を支払っているわけではないから」という理由である*2
北総運賃認可について原告適格を認めた理由は、

鉄道利用の対価である旅客運賃は鉄道事業者の約款により一方的に定められており、利用者としては、一方的に定められた旅客運賃を支払って鉄道を利用するか、それともそもそも鉄道を利用しないかの自由しか与えられていない。

から、「違法に高額な旅客運賃が設定された場合、通勤通学客は高額な旅客運賃を支払うか、または通勤通学が不可能になったり、住居をより職場や学校の近くに移転するなど、日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねない」として、

「利用者の利益の保護」を重要な理念として掲げ、その具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が、上記のような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者についてまで、違法な旅客運賃認可処分がされてもその違法性を争うことを許さず、これを甘受すべきことを強いているとは考えられないから、改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項は、これらの者の具体的利益を、もっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解すべきである。
したがって、改正前鉄道事業法16条1項及び鉄道事業法16条1項の運賃認可処分に関し、少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者が有する利益は、「法律上保護された利益」に該当するというべきであり、このような者は、旅客運賃認可処分の取消しまたは無効確認の訴えについて原告適格を有するものと解釈するのが相当である。

というものである。
そのうえで、(4)の北総運賃認可処分の無効確認について、

  • 原告は、違法な線路使用条件認可処分によって、平成10年の北総運賃変更認可処分は後発的に無効になったと主張するが、行政処分の無効確認の訴えにおいては、行政処分がされた時点において当該処分に重大かつ明白な瑕疵があったか否かを判断すべきもの
  • 原告が「メタボ運賃」という北総の遠距離逓減運賃は、全ての旅客に同様に適用され、特定の旅客によって異なるものではないから、「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」に該当しない
  • 北総線の旅客運賃が「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むもの」に該当すると判断し認可したと認められ、違法ではない

として退けた。
判決は北総と京成との線路使用条件について原告適格を否定したが、請求(6)の北総鉄道の旅客運賃上限等変更の義務付けの訴えを棄却する理由で、線路使用条件の有効性に言及している。判決は、原告の「違法な線路使用条件が変更されれば、北総鉄道の収入が増加するから、国土交通大臣はその線路使用料を基準に旅客運賃上限を変更するよう命ずる義務を負っている」という主張に反論し、まず線路使用条件が有効に存在している前提で

本件各線路使用条件においては、北総鉄道京成電鉄北総鉄道所有区間を貸し付けることによって、北総鉄道の収入が増加して北総鉄道の旅客運賃上限が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」(鉄道事業法16条2項)に該当しなくなるものではないから、国土交通大臣北総鉄道に対して旅客運賃上限の変更命令をすべき理由がない。

とし、さらに、線路使用条件が無効か否かについて次のようにいう。

京成電鉄北総線区間内で列車を運行することによる北総鉄道の収支に対する影響は可及的に排除されており、京成電鉄北総線区間内で列車を運行することによって、原則として北総鉄道に減収が生じることもなければ、線路使用料収入による増収が生じることもないから、北総鉄道による北総鉄道区間内の適切な維持管理に支障を及ぼすおそれが生じたり、北総線の利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの提供に支障が生じるような事態が生じるとはいえない。そうすると、本件各線路使用条件設定認可処分について、鉄道事業法15条3項の認可条件に違反する無効なものとは認められない。

要するに、北総が京成から受け取る線路使用料がトントンであれば、線路使用条件の認可は違法ではないという判断である。
判決の感想は、同じブログに掲載されている原告の控訴状の紹介とともに改めて書く。

*1:北総鉄道を北総電鉄と書く誤記がある。

*2:2011年9月13日の記事で書いたように、京成は北総線区間京成高砂・印旛日本医大間で乗車券の発売をしていないから、乗車する列車が京成電鉄運行の空港アクセス特急であっても京成に旅客運賃を支払うわけにいかないのだが。