北総鉄道沿線住民が国土交通省による北総線運賃認可の取消しを求めた行政訴訟について、昨年11月11日、第1回口頭弁論の毎日の記事を紹介した。被告(国)は原告(住民)に訴えの利益がないと却下を主張したが、裁判長は認可の適法性を立証するよう国側に求め、原告側にも訴えの利益があることを立証するよう求めたとのことであった。しかし、その後の経過についてメディアによる報道がない。
北総線値下げ裁判の会によると、その後、2月9日と5月18日に口頭弁論が行われていた。裁判の会のページには、訴状(骨子)や各口頭弁論における原告・被告の準備書面のpdfファイルが掲載されている。難しい法律文書であるが、対象が鉄道事業法であり、京成の旅客営業規則等も引用されていて、興味深い。第1回口頭弁論時に提出されたはずの被告の答弁書が掲載されておらず、第2回口頭弁論時の原告の準備書面が全文でなく概要であるが、一通り目を通して、双方の主張が理解できた。
まず、訴状に基づく原告の主張を紹介する。京成・北総・千葉ニュータウン鉄道間に締結された北総線における京成電鉄株式会社の旅客運輸営業及び線路の使用等に関する基本協定に基づく旅客運賃の配分及び線路使用料は、独立の対等当事者間取引で行われる合理的な経済計算によるものでなく、京成がその支配する子会社におしつけたものであるから、国土交通省による線路使用条件の認可及びこれに基づく上限運賃の認可は違法であるというものであり、以下を請求している。
- 国土交通大臣による、京成電鉄(第2種事業者)と北総鉄道(第1種事業者、京成高砂・小室間)の線路の使用条件の認可処分(平成22年2月19日付)の取り消し
- 国土交通大臣による、京成電鉄(第2種事業者)と千葉ニュータウン鉄道(第3種事業者、小室・印旛日本医大間)の線路の使用条件の認可処分(平成22年2月19日付)の取り消し
- 上記の線路使用条件を、北総の営業区間(京成高砂・印旛日本医大間)における京成の運賃・特急料金収入の全額を線路使用料として北総に支払い、京成が要した経費を北総が京成に支払う方式に変更する、鉄道事業法第23条第1項第4号に基づく国土交通大臣による命令
- 国土交通大臣による、北総鉄道の旅客運賃変更認可処分(平成10年9月4日付)の無効確認
- 第4項の認可処分の取り消し
- 北総の上限運賃を第3項の線路使用料収入を基準に、適正原価・適正利潤に基づく運賃に変更する、鉄道事業法第23条第1項第1号に基づく国土交通大臣による命令
- 国土交通大臣による、京成電鉄成田空港線の鉄道上限運賃設定認可処分(平成22年2月19日付)の取り消し
問題となっている三社間の基本協定による運賃配分については、訴状に添付された運賃配分の仕組みにまとめられている。
京成が北総及び千葉ニュータウン鉄道に支払う線路使用料は、資本費相当額、租税相当額、管理費相当額の京成が使用する割合に応じた額(固定額)に加え、上記B、C、Dの京成の運賃収入が線路使用料の固定額を上回る場合はその差額を支払うというものである。
原告は、北総営業区間の京成の運賃収入を京成に帰属させることを京成のただ乗りであると批判する。空港線開業以前も京成の車両は北総鉄道に乗り入れ、北総が運賃収入を得ていた。現在も京成が乗り入れている都営地下鉄線及び京急線内の運賃は、線路の所有者である両者が取得している。この運行形態は成田空港線開業以前と変わらないのだから、北総線内の京成の運賃収入は、北総に帰属すべきだと主張する。なお、請求の趣旨第3項の線路使用条件は、北総にとって都合がよすぎると思われるが、千葉ニュータウン鉄道の第3種事業者区間において、北総が第2種事業者として支払う線路使用料がこの方式になっているようである(原告準備書面(2))。
第4項の平成10年の北総鉄道の運賃認可は、線路使用条件が変更になったため後発的に違法になったと主張し、第7項の京成成田空港線運賃については、需要予測を故意に少なく見積もって申請されており適正ではないとの主張である。
なお、ウェブに掲載の訴状は、原告の氏名及び法人名をすべて塗りつぶしている。原告のうち個人は、白井市在住が12名、印西市が3名、鎌ヶ谷市が1名である。注目していた法人は、白井市の従業員51名の企業とのことである。従業員の通勤手当が他の沿線と比較して高いため、北総線利用者を雇用するのを意図的に避けていて、北総鉄道を利用する社員は51名のうち1名しか採用していないという。
原告の主張に対する被告の反論については、稿を改める。