旅規第239条

2チャンネルの乗車券類・切符の規則(初級者用)第6条に大阪・京都間を10円で合法的に乗車できるという話が出ている(221項)。

(1)大阪で大阪市内→米原経由牛ノ谷\3,570の乗車券を購入
(2)車内で車掌に大阪市内→東海道経由三河三谷に変更依頼
(3)米原牛ノ谷米原三河三谷はどちらも\2,210と同額なので差額徴収なし
(4)京都で下車、精算窓口で旅行中止手続き
(5)払戻額=大阪市三河三谷\4,310−大阪京都\540−手数料\210=\3,560
(6)\3,570−\3,560=\10

2チャンネルの議論は中途半端に終わっているが、JRがこんな抜け道を見逃すはずがなく、当然旅規で手当されている。
(1)牛ノ谷は、福井県北陸線最北端の駅。山科・近江塩津間は旅規69条の特定区間だから、経路を指定せず、「米原経由」などという乗車券は発売されない。最初から間違っている。
(3)も間違い。旅規250条(特定区間等の途中駅が変更の開始又は終了となる区間変更の場合の旅客運賃の計算方)に、69条特定区間を含む区間変更は、特定区間内の分岐となる駅を旅客運賃計算の変更開始駅又は変更終了駅として旅客運賃の計算をする、と規定されている。したがって、山科・牛ノ谷(167.2キロ、\2,940)と山科・三河三谷(199.8キロ、\3,260円)の差額(\320)が徴収される。
(5)の払いもどし額の計算で、大阪市内・三河三谷間\4,310というのは、旅規240条(乗車変更をした乗車券類について旅客運賃・料金の収受又は払いもどしをする場合の既収額)の

乗車変更の取扱いをした乗車券類について、旅客運賃・料金の収受又は払いもどしをする場合は、旅客が現に所持する乗車券類を発駅で購入した場合の旅客運賃・料金額を収受しているものとして収受又は払いもどしの計算をする。

を根拠にしているようだ。しかし、旅規239条(旅客運賃・料金の払いもどしをする場合の限度額)に

旅客運賃・料金の払いもどしをする場合は、旅客の実際に支払つた旅客運賃・料金の額を限度として取り扱う。

とあるから、払いもどし額は、\3,890(\3,570+\320)が限度になる。したがって、
(5)\3,890−\540−\210=\3,140
(6)\3,890−\3,140=\750
と、手数料分の\210だけ損をする計算になる。
ところで、旅規239条は、今年3月12日の九州新幹線全線開業の旅規改定で登場したものである。国鉄時代の1958年10月1日に旅規が現行体系になって以来、この条項は前記240条の但書き

ただし、払いもどしの場合は、旅客の実際に支払つた旅客運賃・料金の額を限度として取り扱う。

として存在していた。
これをなぜ240条から削除して、239条に移したのだろうか。払いもどしの限度額の原則を定めようという意図かもしれないが、第7章第3節第4款の「任意による旅行の取りやめ」の各条項に、払いもどしの対象は「既に支払った(収受した)旅客運賃(料金)」と個別に規定されている。あえて239条を置く意味はない。
むしろ、条を分けたことによって240条との関係が不明確になった。239条として独立させるなら、240条は、収受(差額を追徴)する場合に適用することを明確にするために、

乗車変更の取扱いをした乗車券類について、旅客運賃・料金の収受又は払いもどしをする場合は、旅客が現に所持する乗車券類を発駅で購入した場合の旅客運賃・料金額を収受しているものとして収受又は払いもどしの計算をする。

とすべきだった。