約款と不可分な基準規程の条項

JR東日本のきっぷに関するご案内のおとなとこどもは、

おとな 12歳以上(12歳でも小学生は「こども」です)
こども 6歳〜12歳未満(6歳でも小学校入学前は「幼児」です)

と記載している。このページからリンクしている旅規73条にはカッコ内の記載がないが、基準規程110条1項の

(旅客の区分による旅客運賃及び料金適用上の特例)
第111条 規則第73条第1項の規定にかかわらず、12才以上13才未満の小学校の児童は小児とし、また、6才以上7才未満の小学校入学前の小児は、幼児として取り扱うことができる。

という規定による。「取り扱うことができる」としているが、裁量の余地なく常に適用している。それなら、わざわざ基準規程に規定せずに本則の旅規73条1項に

(旅客の区分及びその旅客運賃・料金)
第73条 旅客運賃、急行料金又は座席指定料金は、次に掲げる年齢別の旅客の区分によって、この規則の定めるところにより、その旅客運賃・料金を収受する。
大人 12才以上の者(ただし、12才の小学生は「小児」とする)
小児 6才以上12才未満の者(ただし、6才の未就学児は「幼児」とする)
幼児 1才以上6才未満の者
乳児 1才未満の者

と、赤字部分を付け加えればよい。
基準規程は「規則に対応する部内命令」(佐々木健「Q&A JR旅客営業制度」)ということになっているが、このように約款と不可分な旅客の権利義務に関する条項がある。その中で多いのが111条のような「規則第○条の規定にかかわらず(〜のときは)〜ことができる」という条項である(これらの条項を「本則緩和条項」と呼ぶことにする)。
基準規程110条の列車特定区間の特例

(特定列車に対する旅客運賃及び料金の計算経路の特例)
第110条 次の各号に掲げる場合で、当該各号の末尾のかつこ内の上段の区間を乗車するときは、その区間内において途中下車しない限り、規則第67条の規定にかかわらず、○印の経路の営業キロによつて旅客運賃、急行料金及び特別車両料金を計算することができる。この場合、乗車券の券面の経路は、旅客運賃の計算の経路を表示する。(以下略)

はその一つで、旅規67条(旅客運賃・料金計算上の経路等)「旅客運賃・料金は、旅客の実際乗車する経路及び発着の順序によつて計算する。」の本則緩和条項である。110条で発売した乗車券によるう回乗車を認める規定が基準規程154条(特定列車によるう回乗車の取扱いの特例)にある。これも、旅規147条(乗車券類の使用条件)の「乗車券類は、その券面表示事項に従つて1回に限り使用することができる。」に対する特例であるが、154条には「規則147条の規定にかかわらず」という文言はない。149条(特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例)、151条(分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例)なども同様である。しかしこれらも本則緩和条項であり、きっぷに関するご案内や時刻表のピンクのページによって周知されている*1
あまり知られていない本則緩和条項を挙げると113条の3(新幹線の並行区間等における大人片道普通旅客運賃の特定)がある。並行在来線電車特定区間である「新幹線の区間相互間を乗車する場合又はこれらの区間と新幹線以外の線区を連続して乗車する場合」は、「規則第77条の規定にかかわらず(幹線運賃を適用せず)」電車特定区間の運賃とすることができる、という規定である。また並行在来線が基準規程113条の2(東京附近等特定区間における大人片道普通旅客運賃の特定)の区間であるときは、並行在来線区間特定運賃を「適用するものとする」としている。この条項は、きっぷに関するご案内や時刻表のピンクのページに記載されていないが、マルスに実装され運賃計算に使用されている*2
そのほか基準規程には、旅規で「別に定める」などとして委任された事項を定めた条項がある。例えば、旅規57条の3(特定の特別急行券の発売)2項の特定の特急料金によつて特急券を発売する「別に定める区間」は、基準規程97条の2(特定の特別急行券の発売区間)に規定されている*3。前述した基準規程113条の2の区間特定運賃(別表第5の3)も、旅規79条の委任を受けたものである。これらも、時刻表などに掲載されているが、なぜ旅規に直接ではなく基準規程を介して定める必要があるのか理解できない。
問題は、一般にはほとんど知られていない条項である。10月17日の記事にある354条の2(旅行中止による旅客運賃の払いもどし方の特例)は、記事を書くために基準規程を読み直していて初めて知った。約款に規定されていない旅客優遇措置があり、それを知っている旅客しか恩恵にあずかれないというのは公正の原則に反する。
旅客運送契約は、契約の内容があらかじめ事業者によって決定され、旅客はそれを受け入れる以外ない附合契約であるから、内容は一般に周知徹底されなければならない。旅客にとって有利に取扱う条項を含めて基準規程の契約条項は旅規に移すべきであるし、そうすると旅規があまりにも複雑になるというなら、その内容を公開すべきである。

*1:列車特定区間については、110条2号と4号の「成田エクスプレス」と「はまかぜ」の例しか記載されていない

*2:乗換案内で京都→新神戸を検索すると、運賃は京都・神戸間の特定額1,080円が表示される

*3:その内容はJRの運賃計算ルールの急行料金体系はもっと複雑だを参照