貨物運賃計算キロ程(3)

国鉄時代の最短距離による貨物運賃計算キロの特例の紹介。間隔があいてしまったが、最後は貨物営業規則第52条第4項の特定の運賃計算キロ制度について。旅規の特定都区市内制度と似ているが、中身は異なる。

4 東京都区内所在駅と大阪市内所在駅との相互発着となるものの運賃計算キロ程は、前項の規定にかかわらず、次のキロ程による。
 (1)大森又は蒲田と大阪市内所在駅との相互間及び品川・梅田の相互間 550キロメートル
 (2)亀戸、新小岩操、小名木川又は越中島大阪市内所在駅との相互間 600キロメートル
 (3)前各号以外のもの 575キロメートル

まず、1971年当時の東京都区内と大阪市内の貨物取扱駅を示す。

種別東京都区内大阪市
旅+貨品川、大森、蒲田、荻窪秋葉原、王子、赤羽、板橋、池袋、目白、新宿、渋谷、恵比寿、大崎、大塚、巣鴨、北千住、金町、亀戸野田、安治川口桜島天王寺、湊町、放出
貨(+荷)汐留、芝浦、東京市場、飯田町、田端操、北王子、隅田川新小岩操、小名木川越中島梅田、大阪市場、浪速、大阪港、大阪東港、大阪北港百済、淀川
当時旅客駅と貨物駅が分離されつつあったが、旅客・貨物併営駅がまだかなり残っていた。その後貨物専用駅の廃止も進み、現時点のJR貨物の駅は、都区内が北王子、隅田川と東京貨物ターミナル、大阪市内が梅田、安治川口百済の各3駅だけである。このうち、東京貨物ターミナルは1973年に開設された。
「逐条解説」は、擬制キロ採用の理由を

東京都区内所在駅と大阪市内所在駅相互発着となる貨物について特定の運賃計算キロが設定されている。これは、笹島・草津間における実際輸送経路によるキロ程が運賃計算キロ程に指定されていることから、東京及び大阪の主要駅相互間において運賃計算キロ程に不均衡が生じ、しかもその影響が著しく大きいので、これを是正するために設けられたものである。

と解説している。これを検証するため、都区内と大阪市内からそれぞれ4駅を選び、各駅相互間の運賃計算キロ程を計算してみた。
「最短となる経路のキロ程」とは、あくまでも貨物運輸営業線区の最短経路である。当時の貨物営業公示線区は必ずしもはっきりしないが、秋葉原・浜松町間、飯田橋・亀戸間は貨物営業線区ではないと判断した。したがって、隅田川へは山手貨物線、田端操、三河島経由、越中島へはさらに常磐線、新金貨物線経由で計算している。なお「逐条解説」の「問答」に、熱海・汐留間102.7キロと、品鶴線経由ではなく大森経由のキロ程が記載されており、品川・大森間は貨物運輸営業線区の公示がされていたことになる。
「逐条解説」には同様に、梅田・熱海間451.8キロという東海道本線経由の営業キロも記載されており、梅田と大阪北港は、東海道本線経由で計算した。しかし、東京方面からは東海道本線経由よりも、関西本線片町線、城東貨物線経由のほうが3.6キロ短い。笹島・草津間のように実際輸送経路のキロ程と指定されていないのに、最短経路ではない東海道本線経由のキロ程となっている理由は不明である*1。なお、大阪環状線の西九条・大正間開業公示(昭和36年4月22日第201号)には、旅客運輸営業のみとされており、関西本線経由は最短経路とはならない。





蒲田 汐留 隅田川越中島
梅田542.0554.5575.0598.3
大阪北港551.3563.8585.1608.4
百済520.5533.0554.3577.6
大阪港533.5546.0567.3590.6
実キロのほうが特定キロよりも短い区間を赤字で、長い区間を青字で示した。このように、ばらつきはあるが、両都市の貨物ターミナルであった汐留・梅田間をはじめとして、特定キロは実際の営業キロよりも長く設定されている。特定キロが短いのは、大阪市内最遠貨物駅の大阪北港だけであるが、片町線経由が最短経路であれば、蒲田・大阪北港間は逆転する。
逐条解説の説明は、理由になっていないと思う。最短経路が関西本線経由の駅と東海道本線経由の駅との均衡をとったということか。

*1:木津・放出間には、津田、四條畷、住道、徳庵の貨物駅があるが、津田以東は貨物営業がなかったのだろうか