旅客運賃値上げのパブリックコメント

鉄道事業法第16条は、鉄道の旅客運賃と新幹線の特急料金*1について、上限額を定め国土交通大臣の認可を受けなければならず、認可にあたっては、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査すると規定している。同法第64条の2に基づき、上限運賃の認可は、運輸審議会に諮る必要があり、国土交通省は、案件ごとにパブリックコメントを実施し、運輸審議会の審議の際、報告している。

e-Govパブリック・コメントの「案件一覧」の「結果公示案件」で、旅客運賃値上げに関するパブリックコメントを検索したところ、ここ1-2年で認可を受けた次の案件がヒットした。公示日は上限運賃の認可日で、「意見募集結果」にリンクしている。

事業者 対象 実施主体 コメント数 公示日
JR四国 上限運賃変更 鉄道局 15 2022/12/09
相鉄・東急 横浜線加算運賃 鉄道局 30 2022/10/21
広島電鉄 軌道線上限運賃変更 鉄道局 6 2022/10/18
近鉄 上限運賃変更 鉄道局 38 2022/09/02
箱根登山鉄道 上限運賃変更 関東運輸局 1 2022/08/29
福岡市 七隈線上限運賃 九州運輸局 0 2022/08/02
JR九州 西九州新幹線上限運賃・料金 鉄道局 4 2022/05/27
東急 上限運賃変更 鉄道局 13 2022/04/08
嵯峨野観光鉄道 上限運賃変更 近畿運輸局 0 2022/03/10
遠州鉄道 上限運賃変更 中部運輸局 1 2021/12/27
伊予鉄道 上限運賃変更 四国運輸局 8 2021/09/29
長崎電気軌道 上限運賃変更 九州運輸局 0 2022/09/03
阿佐海岸鉄道 上限運賃変更 四国運輸局 8 2021/08/02

コメント数が関心の高さを示している。相鉄・東急の新横浜線加算運賃のパブリックコメントは、東急本体の上限運賃変更を上回る30件あった。新横浜までの運賃は現行の横浜・菊名乗換えの運賃と比べ妥当という意見とともに、現在加算運賃が設定されている相鉄いずみ野線と新横浜線を直通したときの割引運賃を求める意見があった。

近鉄の上限運賃変更に関するパブリックコメントは、国土交通省サイトにもあった。運輸審議会諮問関係事案の審議状況の「近畿日本鉄道株式会社からの鉄道及び軌道の旅客運賃の上限変更の認可申請事案」の第4回審議で配布されたご説明資料として、パブリックコメントとこれに対する鉄道局の考え方が記載されている*2。e-Gov資料の内容に加え、意見提出者の居住地と近鉄利用の有無が記載され(ともに不明あり)、38件のコメントのうち、賛成5件、条件付き賛成4件、反対22件、その他7件と明記されている。

その他の意見の6番(利用者、石川県居住、e-Gov資料の33番)がJRによる競合区間の特定運賃設定の影響について、データルームのJRの運賃計算ルールは複雑すぎるを参考資料に挙げてコメントしている。

近鉄名古屋-桑名間(23.8km)を含む 22-26km 区間が割安であり、その前の区間は上昇幅が小さく、またその後の区間は上昇幅が大きく、やや凹んだ形になっている(その後は逓減)。(中略)JR 東海が名古屋-桑名間、名古屋-四日市間に区間特定運賃を設定しているための、競争上の営業施策とおもわれる。(中略)本申請は近鉄のものであるが、今後JR東海による運賃上限認可申請の際には、適切な競争や他区間利用者との公平な運賃負担の観点から、区間特定運賃の設定区間や割引幅について、考慮・指摘が必要と思われる。

この指摘に対し鉄道局は、

今回の旅客運賃の上限変更認可申請では、原則として一定割合での改定となっていますが、短距離区間の普通旅客運賃については改定率を抑えており、日常的なご利用の多い旅客に対して配慮しています。 

とまともに答えていない。

*1:法律では単に料金だが、鉄道事業法施行規則32条で新幹線に係る「運送の速達性を役務の基本とする料金」に限定

*2:他の案件でも同じ。まだ「e-Govパブリック・コメント」に掲載されていない、JR東日本オフピーク定期運賃の審議も、第3回配布資料に記載