JR東海が旅客連絡運輸規則(連規)を別表を含めてウェブで公開した。連規は本文よりも連絡運輸機関等を定めた別表(赤表紙と呼ばれた)に意味があるのに、かつて日本鉄道図書などから刊行されていた「旅客関係単行規程集」には掲載されていなかった。赤表紙は、1987年の分割民営化直後に中央書院が「旅客連絡運輸規則別表・旅客連絡運輸取扱基準規程別表」を刊行したのを最後に、発行されていない。JR東海がこれをウェブで公開したことは評価できる。
しかしJR東海の連規別表の福岡市営地下鉄の項は、
連絡会社名 経由運輸機関名及び区間 接続駅 乗車券類の種別 特殊取扱事項 福岡市交通局高速鉄道線 東海・西日本・
九州旅客会社線鹿児島本線 博多
筑肥線 姪浜片、往、勤定、学定、団
同往は通過連絡に限る。
同
と記載しているだけで*1、連絡乗車券が発売される範囲や通過連絡運輸の取扱いについて書かれていない。これらは、連規の補完規程である旅客連絡運輸取扱基準規程の別表に委ねられている。前記の中央書院版の赤表紙によると、1987年当時の規程別表の福岡市交通局の項は次のとおりだった。
1 連絡運輸区域
(1) 普通旅客
ア 次の旅客会社線の各駅と福岡市交通局高速鉄道線の各駅相互間
接続駅 旅客会社線 福岡市交通局高速鉄道線 博多 東日本 東海道線 東京 姪浜 東海 東海道線 東京、名古屋、京都 西日本 東海道線 京都、大阪、神戸
山陽線 岡山、広島九州 山陽線 下関
鹿児島線 門司港・久留米間、香椎線、篠栗線各駅
筑豊線 直方・筑前山家間各駅姪浜 九州 筑肥線 唐津・下山門間各駅
唐津線 西唐津各駅 イ 福岡市交通局高速鉄道線を経由し、次の旅客会社線の左欄の各駅と右欄の各駅相互間
経由運輸機関名及び区間 旅客会社線 福岡市交通局高速鉄道線
地下鉄博多・姪浜間ア掲載の博多接続の旅客会社線各駅 ア掲載の姪浜接続の旅客会社線各駅 (2) 定期旅客
ア 次の旅客会社線の各駅と福岡市交通局高速鉄道線の各駅相互間
接続駅 旅客会社線 福岡市交通局高速鉄道線 博多 九州 鹿児島線 門司港・久留米間、香椎線、篠栗線各駅
筑豊線 直方・筑前山家間各駅姪浜 姪浜 九州 筑肥線 唐津・下山門間各駅
唐津線 西唐津各駅 イ 福岡市交通局高速鉄道線を経由し、次の旅客会社線の左欄の各駅と右欄の各駅相互間
経由運輸機関名及び区間 旅客会社線 福岡市交通局高速鉄道線
地下鉄博多・姪浜間ア掲載の博多接続の旅客会社線各駅 ア掲載の姪浜接続の旅客会社線各駅 2 旅客運賃及び営業キロ程(以下省略)
現在連絡運輸の範囲を知ることができるのは、個人の非公式サイトだけである。JR 連絡運輸 取扱会社線一覧表によると、JR各社と福岡市交通局との連絡運輸範囲は87年当時と大きく変わった。
博多接続の地下鉄姪浜駅とJR線との普通旅客の連絡運輸は26/4/1に廃止されました。博多接続となる普通旅客は通過連絡運輸に限定されています。なお、定期旅客につきましては引き続き博多接続の発売は継続しています。
とのことで、相互連絡運輸範囲の縮小はIC乗車券の普及によるところが大きいと思われる。また通過連絡運輸の範囲は、「東海会社線各駅(JR東海全駅)・西日本会社線各駅(JR西日本全駅)・四国会社線各駅(JR四国全駅)・ 九州会社線各駅(JR九州全駅)と唐津線、筑肥線 各駅との相互間」とある。JR東海サイトの規則別表にないJR四国が入っており、対象駅は1987年当時から拡大し、各社の全駅となっている。
福岡市高速鉄道連絡運輸規程を調べてみると、第2条に
(連絡運輸の範囲)
第2条 高速鉄道が連絡運輸を行う社は,九州旅客鉄道株式会社(以下「九州旅客会社」という。),四国旅客鉄道株式会社(以下「四国旅客会社」という。),西日本旅客鉄道株式会社(以下「西日本旅客会社」という。),東海旅客鉄道株式会社(以下「東海旅客会社」という。)及び西日本鉄道株式会社(以下「西鉄」という。)とする。
2 連絡運輸を行う区域(以下「連絡運輸区域」という。)及び連絡運輸における乗車券(以下「乗車券」という。)の種別は,別表第1のとおりとする。
と規定されている。JR四国も含まれているから、JR東海の連規別表が間違っているようだ。別表第1には、博多(定期券)、姪浜接続のJR九州との相互連絡、天神(定期券)、薬院(定期券)、貝塚接続の西鉄との相互連絡及び姪浜・博多間を介したJR九州との通過連絡(定期券)と、さらに「社の発売する乗車券による連絡運輸」としてJR4社各駅と筑肥線各駅及び唐津線西唐津・小城間各駅との通過連絡運輸が記載されている。このように、公営交通の連絡運輸規則には、JRの基準規程別表と同じ内容の連絡運輸の範囲が記載されており、その情報公開の姿勢は、高く評価できる。
JRの規程類は国鉄時代からの伝統を受け継いで、すべて約款とこれを補完する基準規程との二本立てである。いつも書いていることだが、連絡運輸の範囲という重要事項を、なぜ約款に規定せず、内規である基準規程に委ねるのだろう。公営交通以外の連絡運輸範囲は、個人の非公式サイトでしか知ることができないというのは問題である。
追記1(8月29日):基準規程別表の路線名表記についてコメントをもらった。たしかに前文の冒頭に「線名で表示ある場合は、その分岐駅はその線中に含む。」と書いてあった。したがって、姪浜接続の通過連絡運輸範囲が「唐津線」なら、久保田駅を含むことになる。
福岡市の規程に久保田駅が含まれていないのは、久保田なら福岡市営地下鉄を経由せずに、鹿児島本線・長崎本線経由で乗車するのが順路だからと考えた。1987年の赤表紙に記載されていた通過連絡運輸の範囲がさらに限定的で、筑肥線唐津までと西唐津だけだったこともある。しかし、1983年3月筑肥線の電化開業に際し、博多・姪浜間を廃止して、この区間は福岡市営地下鉄に乗り入れた歴史的経緯を考えると、通過連絡運輸の範囲はもっと広くあるべきだろう。1987年の範囲は国鉄時代を踏襲したものだと思うが、なぜこんなに限定的だったのかという疑問が生じた。
また、連規別表の「経由運輸機関名及び区間」に記載するのは、発駅と着駅との間に経由する別の運輸機関がある場合であるとのコメントももらった。所持する1987年の赤表紙は、特定の会社のものではないので、JR東日本、JR東海、JR西日本とJR九州の四社が記載されていたが、JR九州版は他の三社を記載していなかったということになる。
追記2(8月30日):追記1の最後の段落を削除。かじきさんのコメント訂正のほか、姪浜接続のJR九州各駅から福岡市営地下鉄通過のJR東日本、JR東海、JR西日本各駅への連絡運輸が存在した。