貨物運賃計算キロ程(1)

国鉄・JRの旅客運賃は、実際に乗車する経路のキロ程による計算を原則とし、実乗経路と異なった経路で運賃計算する例外を定めている。これに対して、貨物運賃は、原則として2駅間の最短経路のキロ程により計算し、最短経路によらない例外を定めていた。この原則と例外は、貨物営業規則第52条(運賃計算キロ程)第3項で、次のとおり規定されていた。

3 経路が2途以上あるときは、運賃計算キロ程の最短となる経路のキロ程による。但し、次に掲げるものにあつては、その指定のキロ程による。
 (1)鉄道及び航路の外に自動車線経由の経路がある区間において、鉄道又は航路相互に発着するものにあつては、鉄道又は航路経由のキロ程
 (2)1自動車線内に発着するものにあつては、当該区間に鉄道経由の経路がある場合であつても、自動車線経由のキロ程
 (3)留萌を経由し、石狩沼田・幌延間通過となる経路が最短経路となるものにあつては、これ以外の経路のキロ程
 (4)田沢湖を経由し、盛岡・大曲間通過となる経路が最短経路となるものにあつては、これ以外の経路のキロ程
 (5)信濃大町を経由し、松本・糸魚川間通過となる経路が最短経路となるものにあつては、これ以外の経路のキロ程
 (6)播州赤穂を経由し、相生・東岡山間通過となる経路が最短経路となるものにあつては、これ以外の経路のキロ程
 (7)柘植を経由し、笹島・草津間通過(笹島及び草津発又は着を含む。)となる経路が最短経路となるものにあつては、笹島・米原草津をつなぐ経路のキロ程
 (8)周防高森を経由し、岩国・櫛ヶ浜間通過(岩国及び櫛ヶ浜発又は着を含む。)となる経路が最短経路となるものにあつては、岩国・柳井・櫛ヶ浜をつなぐ経路のキロ程
 (9)直方を経由し、折尾・原田間通過(折尾及び原田発又は着を含む。)となる経路が最短経路となるものにあつては、折尾・博多・原田をつなぐ経路のキロ程

第3号以下がその最短経路の原則に対する例外規定である。第3-6号は、短絡線が新設され、この経路が最短経路となる場合は、この経路を除く経路を運賃計算経路とする規定である。「貨物営業規則逐条解説」には、「輸送力の伴わない短絡線形成」によって「事実上幹線相互間の運賃計算キロ程が短縮され、実際の輸送経路と運賃計算経路の距離の差が大きくなり」、「これを調整するため」と解説されている。
それぞれの開業日は次の通り。

路線 開業日 最終開業区間 備考
羽幌線 1958/10/18 初山別 - 遠別 84/01/31限り貨物営業廃止、87/03/29限り旅客営業廃止
田沢湖線 1966/10/20 赤渕 - 田沢湖 82/03/31限り貨物営業廃止
大糸線 1957/08/15 中土 - 小滝 87/03/31限り信濃大町糸魚川の貨物営業廃止
赤穂線 1962/09/01 伊部 - 東岡山  

いずれも、新線営業開始の国鉄公示で、通過貨物の取扱いをしない旨公示されている。羽幌線全通時の国鉄公示は次のとおり。

日本国有鉄道公示第367号
 羽幌線初山別・天塩線遠別間鉄道開通し、次の各号により昭和33年10月18日から運輸営業を開始する。但し、初山別・遠別間新線を経由し、留萌本線石狩沼田・宗谷本線幌延間経路による通過小荷物及び貨物の取扱はしない。
  昭和33年10月13日
  日本国有鉄道総裁 十河 信二
(以下略)

田沢湖線は昭和41年10月15日第656号、大糸線昭和32年8月8日第303号、赤穂線は昭和37年8月28日第340号で、同様に公示された。
その後開業した盲腸線を解消する短絡線について、同様な取扱がされていないか調べてみた。しかし、篠栗線(68/05/25篠栗桂川)、只見線(71/08/29只見−大白川)、大隅線(72/09/09海潟温泉−国分)、三江線(75/08/31浜原−口羽)、気仙沼線(77/12/11柳津−本吉)などの新線は、すべて旅客営業のみで、貨物運賃計算キロ程は設定されなかった。
同様な公示がされたのは、1973年10月、根岸線磯子・大船間に貨物営業が開始されたとき*1である。

日本国有鉄道公示第166号
 根岸線磯子・大船間通過(磯子及び大船の各停車場発又は着を含む。)となる経路のキロ程が最短となる貨物の運賃計算キロ程については、昭和48年10月1日から当分の間、貨物営業規則(昭和24年9月日本国有鉄道公示第125号)第52条第3項及び連絡運輸規則(昭和33年9月日本国有鉄道公示第331号)第156条の規定にかかわらず、東海道本線鶴見経由となる経路のキロ程による。
  昭和48年9月28日
  日本国有鉄道総裁 藤井松太郎

磯子・大船間は12.6キロだが、桜木町・高島・鶴見・横浜羽沢経由の貨物キロ設定ルートは41.8キロ。実に3倍以上のう回ルートである。なお、同区間の貨物営業は1984年1月31日限りで廃止となり、公示第166号は、昭和59年1月27日付国鉄公示第164号をもって廃止された。

訂正(08/05):当時、SM分離の前で羽沢経由の貨物線は開業しておらず、磯子・大船間の貨物運賃計算キロは、桜木町・高島・鶴見・東海道経由の40.8キロだった。

*1:旅客営業は、磯子・洋光台間が1970年3月、洋光台・大船間が1973年4月それぞれ開業