並行在来線の運賃比較

道南いさりび鉄道は、10月26日、北海道新幹線の開業後JR北海道から引き継ぐ江差線五稜郭木古内間の認可申請運賃を発表した。リリースには、二つの資料が添付されており、資料1は、申請した上限運賃(実施運賃と同額)、資料2は、JR北海道との乗継割引運賃である。ただし、資料2には函館・木古内間など4区間について60-130円割り引くことしか示されておらず、割引の基準が明確でない。
グラフは、並行在来線各社の38キロまでの運賃をプロットしたもの(18キロまでのIRいしかわ鉄道を除く)。点線は、各社の運賃を線形回帰した近似直線である。

鉄道事業者の運賃比較の手法で、道南いさりび鉄道の運賃を並行在来線各社と比較してみた。

事業者累計運賃対JR倍率
道南いさりび20,910 1.282
青い森19,270 1.367
IGRいわて銀河21,990 1.560
しなの17,340 1.230
えちごトキめき14,100 1.000
とやまあいの風15,860 1.125
肥薩おれんじ20,950 1.322

累計運賃は1キロから38キロまでの運賃を累計したもの。対JR倍率は同じキロ帯のJR運賃に対する倍率で、道南いさりび鉄道JR北海道地方交通線肥薩おれんじ鉄道JR九州、その他各社は本州幹線と比較した。JRの運賃を踏襲したえちごトキメキ鉄道を初め、北陸新幹線並行在来線の運賃が安く設定されている。道南いさりび鉄道の運賃は、絶対額では肥薩おれんじ鉄道IGRいわて銀河鉄道よりも低く、倍率ではこれに加えて青い森鉄道よりも低い。並行在来線としては初めての地方交通線の経営分離であるが、安く設定されている。
新幹線と並行在来線の運賃・料金を比較し、新幹線の利用による時間短縮のコスト(円/分)を調べてみた。

区間 並行在来線 運賃 時間(分) 新幹線 運賃+料金 時間(分) コスト
函館・木古内 JR北+道南 1,110 67 JR北 2,380 42 50.80
青森・八戸 青い森 1,340 80 JR東 3,330 38 47.38
二戸・盛岡 いわて 1,950 70 JR東 2,980 25 22.89
いわて沼宮内・盛岡 いわて   920 35 JR東 1,440 12 22.61
軽井沢・長野 しなの+JR東 1,640 75 JR東 3,160 31 34.55
上田・長野 しなの+JR東   770 35 JR東 1,440 12 29.13
長野・飯山 しなの+JR東   530 45 JR東 1,360 12 25.15
長野・上越妙高 しなの+えちご 1,330 87 JR東 2,810 19 21.76
上越妙高糸魚川 えちご   840 66 JR西 1,530 13 13.02
糸魚川・富山 えちご+とやま 1,520 87 JR西 3,160 27 27.33
高岡・金沢 とやま+いしかわ   820 38 JR西 1,620 26 66.67
八代・水俣 JR九+肥薩 1,250 65 JR九+肥薩 2,410 41 48.33
出水・川内 肥薩 1,450 60 JR九 1,880 11  8.78

在来線の運賃欄の斜体字は乗継割引運賃を示す。新幹線の特急料金は自由席・特定特急料金である*1。所要時間は平均的な列車による。新幹線駅が中心駅と離れている場合は、接続列車の所要時間を加算し、1回の乗継について一律10分を加えた。北海道新幹線と「はこだてライナー」のダイヤは発表されていないが、函館・木古内間の所要時間は新幹線12分、はこだてライナー20分と仮定し、乗継時間を加えて42分とした。並行在来線の67分、1,110円に対し、新幹線を利用すると42分、2,380円。25分短縮のための差額が1,270円、1分あたり50.8円となる。
比較した13区間のうち、新幹線利用による時間短縮コストが最小なのは、出水・川内間で8.78円/分である。在来線の営業キロ51.3キロに対し、新幹線は32.7キロと線形がよく、所要時間が在来線の1/5以下に短縮するためである。同じ九州新幹線でも、八代・水俣間は2度の乗換によって時間短縮は37%にしかならず、時間短縮コストは48.33円/分と、出水・川内間の5.5倍である。上越妙高糸魚川間も在来線の49.2キロに対し、新幹線は37.0キロで時間短縮効果が大きい。
時間短縮効果に加え、並行在来線の運賃が高く、特定特急料金が設定されるなど新幹線の特急料金が安い区間のコストパフォーマンスがよい。いわて沼宮内・盛岡間などがこれに該当する。函館・木古内間は、その逆で新幹線特急料金が高く、在来線運賃が比較的安い。さらに新函館北斗で乗り継ぐため時間短縮効果が小さく、高岡・金沢間に次いで、コストパフォーマンスが悪い。新幹線の利用は進まないと思われる。

*1:青森・八戸、二戸・盛岡、長野・上越妙高糸魚川・富山の4区間については、特急券を途中駅で分割すると特急料金が120円安くなり、時間短縮のコストが1.76-2.86円/分低下する

北海道新幹線の料金体系

JR北海道は13日、2016年3月開業する北海道新幹線新青森新函館北斗間の特急料金の上限額を国土交通省認可申請した。JR北海道リリースには、認可後届け出る特急料金等も記載しているが、JR東日本も同時に東北・北海道新幹線直通列車の特急料金及びグリーン料金を発表した(JR東日本リリース)。
北海道新幹線の特急料金は、次のとおりである。








区間営業キロ上限(自由席)指定席立席・特定
木古内新函館北斗35.51,9902,5101,310
新青森奥津軽いまべつ38.51,9902,5101,310
奥津軽いまべつ木古内74.81,9902,5101,490
奥津軽いまべつ新函館北斗110.33,9303,3202,800
新青森木古内113.33,9303,3202,800
新青森新函館北斗148.83,9304,4503,930

JR北海道認可申請した特急料金の上限額は自由席特急料金である。100キロまで1,990円、200キロまで3,930円の2地帯制で申請されている。指定席特急料金は、隣接駅間と新青森新函館北斗間が申請上限額に座席指定料金520円(通常期*1)を加えた額だが、110キロ台の2区間は自由席の上限額よりも安く設定された。立席・特定特急料金(北海道新幹線の「はやぶさ」、「はやて」は全車指定席)は、新青森新函館北斗間が申請上限額どおりだが、他の区間は上限額の25-35%引きとなっている。

北海道新幹線の特急料金は、他の新幹線と比べるとかなり高い。50キロまでの隣接駅間の特定特急料金1,310円は、東海道・山陽・東北・上越・北陸の860円、九州*2の850円の1.5倍である。51-100キロの隣接駅間についても、北海道の1,490円に対し、東海道は980円、山陽は970円である。150キロまでの指定席特急料金を比べると、東海道・山陽が3,000円(のぞみ・みずほは3,210円)、東北・上越・北陸が3,110円(はやぶさ・こまちは3,320円、北陸のJR東日本JR西日本区間2社区間は3,760円〜4,080円。以上いずれも200キロまで)、九州が3,000円に対し、北海道の新青森新函館北斗間は4,450円で1.1−1.5倍となっている。

青森・函館間の「スーパー白鳥」、「白鳥」の特急料金は、指定席が2,250円、自由席が1,730円である。青函トンネルの速度制限と新青森新函館北斗での2回の乗継ぎによって、青森・函館間ではほとんど時間短縮にならないのに、特急料金は現行の1.97−2.27倍になる。JR北海道は、この区間にインターネット購入で40%割り引く「早割」を設定するとのことだが、詳細は不明である(毎日新聞記事)。

東北新幹線北海道新幹線の相互間を利用する場合の特急料金は、東北新幹線北海道新幹線のそれぞれの特急料金の合算額である。東海道・山陽新幹線九州新幹線の相互間と同様であるが、指定席特急料金は、全区間通じて1席分の座席指定料金としている。また、七戸十和田北海道新幹線の各駅相互間及び東北新幹線の各駅と奥津軽いまべつ相互間の指定席特急料金は、それぞれの立席・特定特急料金の合算額に、座席指定料金を加えた金額である。

特急料金は指定席料金が基本で、自由席料金はこれから一定額を減額していた。今回JR北海道が上限運賃として自由席特急料金を認可申請し、自由席特急料金に座席指定料金を加えて指定席特急料金とすることは注目される。速達性の対価である特急料金として自由席料金を基本とすることは、特急券の分割購入問題の是正にも効果がある。上越妙高で自由席特急券を分割すると安くなる例が多いが、新青森分割ではないようだ。

グリーン料金も会社ごとの料金の合算額である。グランクラス料金については、北陸新幹線の2社区間と同様、JR東日本JR北海道を乗り継ぐ場合はそれぞれの料金が1,300円安くなる。

東京・函館間の特急料金を現行の航空料金と比べると次のとおり。

新幹線(東京・新函館北斗)航空機(羽田・函館)
グランクラス38,280プレミアムクラス(ANA)42,490
グリーン車30,060普通運賃(JALANA)35,490
普通車指定席22,690普通運賃(ADO)27,390
特割(最低額)17,990
特割21-28(最低額)14,990

北陸新幹線金沢延伸開業のように、航空会社が旅客を奪われることはなさそうだ。JRは種々のトクトクきっぷで対抗してゆくことになるのだろう。北関東・東北からの観光客に期待したいところだろうが、地元が要望している宇都宮駅の「はやぶさ」停車は実現するのだろうか。

追記(10月21日):青森・函館間の特急料金の比較をしたが、コメントにあったように地方交通線運賃から幹線運賃に変わるため、運賃と料金を併せて比較すべきだった。

現行新幹線
営業キロ160.4170.6
運賃計算キロ176.1170.6
うちJR北海道141.6166.7
運賃3,2403,240
運賃+料金(指)5,4906,050
運賃+料金(自)4,9705,530

JR北海道のリリースでは、新青森新函館北斗間148.8キロの運賃2,810円だけを記載しているが、青森・函館間では、これに青森・新青森間3.9キロと新函館北斗・函館間17.9キロが加算され、営業キロが増加する。地方交通線から幹線への変更で運賃計算キロは低下するが、161-180キロの同じキロ帯で運賃額は変わらない(JR北海道の加算額も、同一キロ帯でこれまでどおり220円)。

*1:JR北海道の繁忙期・閑散期ではなく、JR東日本等に一致させた

*2:新八代・川内間には設定なし

鉄道事業者の運賃比較更新

今日10月1日から銚子電鉄遠州鉄道名古屋臨海高速鉄道若桜鉄道及び北九州高速鉄道の運賃が改定されたのを受けて、鉄道事業者の運賃比較を2015年10月版として更新した。遠州鉄道名古屋臨海高速鉄道若桜鉄道の3社は、昨年4月の消費税増税時に認可された上限運賃の範囲内で実施運賃を届け出たもの。銚子電鉄も、消費税増税時に値上げをしていなかった。北九州高速鉄道は、昨年4月に続く値上げである。
運賃ランキングを昨年4月の増税前と比較すると、各社ともが順位が下がったが、各キロ帯で現行運賃を30円値上げした銚子電鉄が得点順で145位から166位、勝率順で141位から166位と大きく下げた。
5社の運賃改定とともに、4月11日記事のコメントで指摘があった、事業者ごとの運賃制度の比較表(脚注1)を更新した。記載は「数字で見る鉄道2014」(国土交通省鉄道局監修、運輸政策研究機構刊)にしたがった。この表はもともと、2006年JRの運賃計算ルールは複雑すぎるの公開時に、「数字で見る鉄道」の旧版により作成したものだが、2014年版ではアルピコ交通上田電鉄箱根登山鉄道熊本電気鉄道が対キロ制から対キロ区間制に変更になっている。JR東日本の運賃体系を踏襲した青い森鉄道IGRいわて銀河鉄道*1も対キロ区間制に分類されている。IGRいわて銀河鉄道旅客営業規則をみると、第42条で「大人の片道普通運賃は、別表第5号のとおりとする」しており、約款で対キロ賃率を定めているか否かによって、対キロ制と対キロ区間制を区別しているようだ。
「数字で見る鉄道2014」には、その後開業したえちごトキめき鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道四日市あすなろう鉄道が記載されていないが、近く発行される2015年版により、追加するつもりである。

*1:対キロ制のJR東日本の運賃に一定の倍率をかけて設定。いわて銀河はその後50キロ超のキロ刻みを10キロから5キロに変更

続・IC乗車券の運賃計算経路

8月15日の記事に関連して、読者がメールで興味深いブログ記事を教えてくれた。千葉ニュータウン中央・舞浜間(経由北総鉄道、東松戸、武蔵野・京葉線)のIC定期券を所持する筆者が、東松戸で乗換えず、そのまま北総、京成、都営地下鉄で都内まで乗車する「実験」を行い、そのとき減額された運賃について書いている。前記事で書いた西船橋からメトロ東西線経由の最低廉運賃が、都営地下鉄の駅で乗降したときにも、メトロ都営乗継割引運賃として適用されていることが判明した。

定期券併用によって本来の運賃から39%〜68%減額されている。筆者は、この実験を行うまで都内に行くときは、北総鉄道の高額運賃を回避するために西船橋からメトロに乗車していたが、実験の結果「東松戸から先の北総線に乗り、都内へ出ることへの恐怖心が、かなり薄れてきました。これからも北総線を使い倒す!」と書いている。筆者がこの実験を思い立ったのは、「できるだけ乗らずに済ます北総線」の記事だったという(「できるだけ 乗らずに済ます 北総線」がおしえてくれた、ICカードのカラクリ)。
できるだけ乗らずに済ます北総線同書は、このブログで何度か書いた北総線値下げ裁判の会の編著で、月刊千葉ニュータウンが発行したもの。裁判原告の座談会で、千葉ニュータウン・千葉中央間(経由北総、新鎌ヶ谷新京成京成津田沼、京成)の定期券で通学していた高校生が北総線で都内に行ったときの履歴が京成津田沼から都内だったという発言があり、北総線沿線では知られた運賃節約の手段だったらしい。ブログの筆者は千葉ニュータウン・都営浅草間の例を書いているが、北総・京成・都営の770円*2に対し、減算額京成津田沼(京成)押上(都営)浅草の544円である。
この高校生は新鎌ヶ谷の中間ラッチを通らなくても最安ルートの運賃が引かれることを知った後、千葉中央から新京成経由ではなく、京成高砂経由のノーラッチルートで帰ったことがある。このときは、千葉ニュータウン中央の改札で「定期券のルートと異なります」という表示がでて出場できず、結局京成津田沼京成高砂−新鎌ヶ谷の運賃を取られたという(pp196-198)。定期券の区間外へは、ラッチ通過にかかわらず低廉な運賃が減額されるのに、定期券の区間内駅相互間では経路中にあるラッチを通過しないと、実乗車ルートの運賃が課されるようだ。
IC乗車券の運賃減額ルールでは、乗客が利用しているのに運賃収入が得られない事業者や、逆に利用していなくても運賃の分け前に与る事業者がでてくるが、定期券が絡むと矛盾が一層拡大する。北総鉄道は未収運賃の補填を受けているのだろうか。

*1:原文の42円は間違い

*2:筆者は889円と書いているが、三社割引が反映されていない

新潟市BRTスタート

新潟市都心部の新たな交通システムとして導入したBRTが9月5日運行を開始したが、遅れや事故、運賃の過収受などのトラブルでさんざんなスタートだったようだ。新潟交通のサイトにはお詫びの記事が立て続けに掲載されている。

そしてICカードシステムの不具合が復旧しないため、【重要】本日(9月7日)一部路線を除き運賃収受を行ないません。という事態に至った。
新潟市のBRTは、気仙沼線大船渡線のBRTや鹿島鉄道廃線跡のBRTと異なり、専用の走行路をもたない。海外で普及している連接バスとバス専用車線による都市型BRTに近いが、道路中央部のバス専用車線は、今回開業した新潟駅〜古町〜新潟市役所〜越後線白山駅〜青山間のうち、新潟駅〜古町間に設けただけである。遅れは連接バスに乗客が殺到したためというが、専用車線の未整備は定時運行の障害になると思う。
新潟市がBRTを導入した意図は、新たな交通システム

BRTの導入と併せて乗り換え拠点などを整備し、まちなかのバス路線を効率的に再編・集約し、生じた余力を郊外路線の維持・拡充にあてながら、全市的なバス路線再編を図る「新バスシステム」により、将来にわたって持続する公共交通の実現を目指します。

というバス路線の再編にあるようだ。これまで都心部に多くの郊外路線が乗り入れ、がら空きのバスが団子運転していたが、これを結節点でBRTに集約し、効率化を図るというものである。このため、路線集約により乗換えが必要となる利用者に対しては、これまでと同額の運賃で利用できる「まち割60」という割引を導入した。バスICカード「りゅーと」または「のりかえ現金カード」で60分以内に乗換えた場合に適用され、東京メトロのラッチ外乗継時と同様、1回目の降車時に乗車区間の運賃を、2回目に既収額との差額を引き落とす。ICカード精算の不具合の一つは、バス停名が異なる乗り換えポイントで「まち割60」が適用されなかったことだという。日比谷駅からラッチ外で有楽町駅に乗継いだ時、改めて初乗り運賃を引き落としたようなもので、このシステムにバグがあったらしい。
なお「のりかえ現金カード」とは、SuicaなどのICカードや現金での利用者が交付を受けて使用するもの。現金カードはポイント付与がないため、多くの利用者はJR用とバス用の2種類のICカードをもつことになるのだろう。
新潟市の「市長への手紙」新潟市交通インフラBRT導入計画についてに、

新潟市BRT第1期導入計画」では、今後の進め方について、平成31年度ごろのBRT第1期完成型の実現に向けて段階的に取り組み、新潟駅高架下交通広場の供用する目処がつくころには、社会環境を十分に考慮し、LRTへの移行を判断することとしています。

という市からの回答が掲載されている。新潟駅の高架化が完了し、交通広場が供用されるは2022年とのことだが、2014年10月13日の記事で書いた、新幹線から羽越本線特急へのホーム対面乗り換えとともに、注目される。
追記(9月8日):新潟交通7日付お知らせによると、ICカードシステムの不具合は解消したが、システム検証のため本日8日も運賃収受を行わなかったらしい。
新潟在住の知人からメールで情報を得たので、昨日の記事を補訂する。
現在は暫定開業ということで、バス専用車線は新潟駅〜古町間にも設けられず、全区間一般道路を通行している。ただしこの区間は、もともと車の流れがよく、専用車線がなくとも定時運行への影響はほとんどないとのこと。今回の遅延は、降車時の運賃精算に手間取っていることと、バス停が集約され、朝のラッシュ時には同じバス停から短間隔でバスが発車するため(同時分に3本の発車もある)、後続のバスがつかえてしまうことの2点だという。
降車時の運賃精算が遅れの原因になるとはある程度予想していた。欧州では、このため信用乗車方式(購入した乗車券をチケットキャンセラーで刻印する自己改札と抜き打ちの検札による高額のペナルティ)を採用している。日本では、ICカードによる運賃収受がこれに代替すると思っていたが、現金支払いや運賃表示のトラブルもあり、うまくいかなかったようだ。知人によると、連接バスの降車口にはICカード読み取り機が左右に2台設置されていて、2列降車ができるようになっている(現在は不具合のため稼働していない)ので、この効果に期待しているという。また専用車線の完成後に主要停留所で運賃の車外精算を行うことが検討されているようだ。
運賃精算の不具合については、今回導入された「まち割60」に加え従来からの30分以内の乗継割引も残っており、かなり複雑なプログラムになっているようだ。3本のバスを乗り継ぐ場合は、往復の運賃が異なることもありそうだという。

IC乗車券の運賃計算経路

読者から2013年11月10日の記事IC定期乗車券の別途乗車について、メールでコメントと質問を受けた。
前記事は、IC定期乗車券の券面表示区間区間外とをまたがって乗車する場合は、別途乗車として、ラッチ通過にかかわらず定期券区間外の最低廉運賃を減算する取扱い(JR東日本ICカード乗車券取扱規則66条*11項)について、津田山・津田沼間を例に書いたもの。この記事に対しコメントがあり、定期券面区間外から乗車した場合のシステム設計上の制約があり、往復とも同一運賃を適用するための取扱いである、とのことだった。
今回の質問者がJR東日本に問い合わせて確認した例は、新鎌ヶ谷・新松戸間(東松戸接続)のpasmo定期券を所持する旅客が、都営浅草線三田、三田線白金高輪、メトロ南北線永田町、半蔵門線大手町、千代田線北千住と、ノーラッチで乗り継いだときの減算運賃は、券面外最低廉運賃のJR新松戸・北千住間のIC運賃302円であること。前記事の例で、武蔵小杉経由でノーラッチで、JRのみを利用したときに小田急、メトロ経由の最低廉運賃が減算されたと同じ取扱いである。「このルートを逆向きに乗った場合も同じか」という質問を受けたが、前記事のコメントからむしろ逆方向のための措置であり、同額と回答した。
もう一つの例は、定期券ではなくSF利用で、JR武蔵野線市川大野駅で入場し、新松戸、北千住、茅場町と乗り継いで西船橋で下車したときの運賃が市川大野・西船橋間のJRのIC運賃154円というもので、これはメトロに確認したという。西船橋駅はJRとメトロとの間に中間ラッチが設置されたが、メトロ側から出場してもノーラッチ最低廉運賃が適用されたことになる。これに関連して、「武蔵野線各駅から西船橋経由で京葉線各駅までの定期券において定期券区間内で乗車して新松戸駅乗換・北千住駅経由で東京メトロ線の駅で下車した場合において乗り越し計算の起点が新松戸駅でなく西船橋駅から地下鉄東西線に乗車したとみなして計算される可能性はあり得るのでしょうか」という質問。これもICカード乗車券取扱規則66条は連絡定期券に限定していないので、西船橋経由の低廉となる運賃が減算されるだろうと回答した。そういえば、2007年6月18日の記事で書いた、メトロ直通津田沼行きに乗り継ぐために中間ラッチを通過するとJRの運賃が打ち切りになるバグは解消されたのだろうか。
3番目の質問は、市川大野(武蔵野線)新松戸(常磐線)北千住(東京メトロ千代田線)表参道(東京メトロ半蔵門線)渋谷(東京メトロ副都心線)和光市(東武東上線)朝霞台とノーラッチで乗車した場合の運賃。西船橋を経路に含む定期券で乗車した場合は、市川大野(武蔵野線)西船橋(東京メトロ東西線)飯田橋(東京メトロ有楽町線)和光市(東武東上線)朝霞台の経路の低廉運賃が減算されるが、SFの場合は、乗車経路の、JR、メトロ(北千住・和光市間の最低廉経路)と東武の運賃の合算となるだろう。

追記1(8月20日):中野・西船橋間の運賃計算経路について多くのコメントを頂いたが、乗車区間別に整理すると次のようになる。

乗車区間 西船橋ラッチ IC運賃 運賃経路 Suica規則
高円寺―船橋 中間非通過 637円 JR 63条2号(38条)
高円寺―船橋 中間通過 574円 JR-メトロ-JR 63条1号
高円寺―西船橋 JR出場 550円 JR 38条
高円寺―西船橋 メトロ出場 441円 JR-メトロ 63条1号
中野―船橋 中間非通過 441円 メトロ-JR
中野―船橋 中間通過 441円 メトロ-JR 63条1号
中野―西船橋 JR出場 550円 JR 38条
中野―西船橋 メトロ出場 308円 メトロ メトロ規則

やまやまさんの

減額すべきIC運賃の計算経路上に「JR(西船橋接続)メトロ」を含む場合、運賃計算区間が「JR+メトロ」の2社(以内)完結ならば西船橋の連絡改札が存在しないものとして判定、「JR+メトロ+他社(再度JRの場合を含む」のように3社以上*2に跨る場合は西船橋の連絡改札を通ったか否かによって厳密に判定

がポイントで、中野・船橋間を西船橋駅の中間ラッチ非通過で乗車した場合もメトロとJR運賃の合算となるようだ。ところが、ジョルダンの乗換案内で中野→船橋を検索すると、御茶ノ水乗換え、中央・総武緩行線直通、東京乗換えのいずれも、全線JRのIC運賃550円で、東西線西船橋まで行き総武線に乗換えたケースのみがメトロ+JRの441円となっている。乗換案内のバグだろうか。
上記の「2社以内ならば連絡改札が存在しないものとして判定」を本文の3番目の質問「市川大野(武蔵野線)新松戸(常磐線)北千住(東京メトロ千代田線)表参道(東京メトロ半蔵門線)渋谷(東京メトロ副都心線)和光市(東武東上線)朝霞台」にあてはめると、和光市までのIC運賃は、SFのみの利用のときでも、西船橋経由の運賃462円(市川大野・西船橋間154円+西船橋和光市間308円)が減算されることになる。これも乗換案内では市川大野(西船橋)飯田橋間の464円と飯田橋和光市間の237円の合算額の701円になっている。なぜ飯田橋で打ち切るのだろう。
注:表にIC運賃を追加した(8月22日)
追記2(8月22日):紙の乗車券とIC乗車券は、基本的に運送契約が異なる。紙の乗車券は、あらかじめ乗車区間と経路を定めて所定の運賃を支払い、乗車券の交付を受けて契約が成立する。したがって、旅客営業規則に途中下車や選択乗車などの乗車券の効力や、購入後または乗車後の乗車変更の規定が必要になる。
一方IC乗車券は、自動改札から入場したときが契約成立時点であり、旅客が当初想定していた目的地とルートにかかわらず、下車駅の自動改札から出場した時点で、乗車区間の最低廉運賃を減算する。一乗車一契約である。このため、乗車変更という概念は存在しない。大都市近郊区間Suica区間はほぼ等しいが、大回り乗車において前者が最短ルートの乗車券でう回乗車を認める乗車券の効力(選択乗車)の規定であるのに対し、後者は最短ルートの運賃を減算している。Suica乗車券の効力規定は、第40条の「片道1回、環状線1周にならない」という非常にシンプルなものである。
だから、バスさんのコメントにあるような

ICの普及が進むと旅客営業規則のような分厚い本が、全く別のものとしてできるのでしょうか。(現在のIC規則が徐々にページ数が増していって、旅規の方が廃止になるのでしょうか?)

ということにはならないはずである。
相互乗り入れが進展している首都圏において、最低廉運賃ルートは、一事業者だけでなく、複数事業者間にまたがるノーラッチ・ルートに拡大した。これがIC乗車券の運賃計算ルールを複雑にしているが、その一つの要素としてJRの対キロ制運賃がある。300キロまで同一の賃率で遠距離逓減効果が働かないから、対キロ区間制運賃を採用している私鉄各社に比べ、中長距離の運賃が極めて割高になる。このため、「IC定期乗車券の別途乗車」で書いた津田山・津田沼間や、今回話題になった東西線経由など、JR一社だけの運賃が複数事業者を乗り継ぐ連絡運賃よりも高くなる区間が頻出している。
この問題を抜本的に解消するためには、ヨーロッパの大都市圏で行われているゾーン制による、鉄道、地下鉄、路面電車、バスなど各輸送モードをまたいだ共通運賃に移行するしかないと思う。しかし、首都圏は鉄道事業者が極めて多く、そのほとんどが株式を上場している民間事業者で、ゾーン制移行に伴う利害関係を調整することは不可能だろう。日本の大都市圏は、鉄道事業者が税金による補助を受けず旅客輸送で採算が取れる、世界でもきわめて稀な地域なのである。
そこで、次善の策として、JRがIC乗車券に限り、首都圏の100キロ圏(熱海、大月、高崎、宇都宮、友部、佐原、大原、君津)において対キロ区間制運賃を採用することはできないだろうか。ヨーロッパでもゾーン制の都市圏内運賃と、急行料金と一体化した都市間運賃との二重運賃になっているから、その応用である。すでに、IC運賃と乗車券の運賃とには、格差があるのだから。

*1:当時は54条

*2:のちに「JR+メトロ+JR」のみに限定と訂正

北陸新幹線の特急料金

本日データルームのJRの運賃計算ルールは複雑すぎるの「急行料金体系はもっと複雑だ」の項を更新した。
3月14日の北陸新幹線延伸区間は、上越妙高をはさんでJR東日本JR西日本に跨る区間の特急料金が割高になっている。三角表で定められている特急料金をキロ地帯別にプロットすると、次のとおり。飯山・糸魚川発着と長野・黒部宇奈月温泉発着の区間で緩和措置が施されている。なおカッコ内は東京発着の料金で、東北新幹線と同様、上野発着に比べて210円増し。

キロ地帯 JR東区間 飯山・糸魚川 長野・黒部 その他
1-100 2,360 3,010 - -
101-200 3,110 3,760 4,080 -
201-300 3,990 4,640 4,960 5,290
301-400 4,740 5,390(5,600) 5,710(5,920) 6,040(6,250)
401-500 5,270 - - 6,570(6,780)

緩和措置があるが、東北新幹線はやぶさ・こまち以外)と同一料金のJR東日本だけの区間と比べると割高なのは否めない。このため自由席特急券上越妙高で分割したほうが得をする区間が東京・糸魚川間など7区間ある。また、「ひたち」・「ときわ」の遠距離逓増料金体系により、初めて指定席特急料金で分割による逆転現象が生じたことも付記した。
本日の更新のメーンは、英語ページのJR's Rule on Passenger Ticketsである。英語のWikipediaJapan Railways Groupからリンクされていて訪問者が多いのだが、2011年3月の九州新幹線開業以降更新しておらず、気になっていた。昨年の消費税増税に伴う運賃改定を反映し、新たに急行料金の項を追加した。