鉄道事業者運賃比較2015年版

消費税率アップによる運賃改定から1年経過してしまったが、鉄道事業者の運賃比較を2015年4月版として更新した。3月14日北陸新幹線開業により経営分離された並行在来線の各事業者及び4月1日近鉄内部・八王子線を継承した四日市あすなろう鉄道を追加し、認可された上限運賃に実施運賃をあわせた、近江鉄道京福電鉄の4月1日運賃改定に対応している。
旧版と同様、二つの事業者・路線の運賃の高低を相互に比較しうるキロ範囲で比較し、175事業者・路線について総当たりリーグ戦を行い、得点順と勝率順でランキングした。長距離路線の運賃を短距離事業者の区間にあわせて比較するのが乱暴なうえに、擬制キロによる割増運賃や、加算運賃・特定割引運賃は考慮していない。あくまでも余興としてご覧いただきたい。
結構時間がかかったが、3月14日及び4月1日関連の更新はこれで一段落した。
追記(4月20日):本日「鉄道事業者の運賃比較」と、別表 事業者(路線)別データを更新した。コメントがあった黒部峡谷鉄道の2キロまでの初乗り運賃と、運賃データに間違いを見つけたあいの風とやま鉄道の運賃表を訂正し、再計算した結果を掲載した。
JTBの「私鉄時刻表」を閲覧しようと、ウェブで蔵書検索を行ったが、国会図書館にも東京都の都立・区立図書館にもなく、見つけたのは長崎県立図書館所蔵の2006年西日本版だけだった。長崎まで出かける余裕はなく、以前東京駅八重洲口にJTBの図書館があったのを思い出し、旅の図書館に出かけた。所蔵されていたのは、2006年版から2009年版までで、それ以降はなかった。JTBは各事業者の対キロ運賃を掲載した「運賃表」を発行していたが、その休刊後に発行した「私鉄時刻表」も短命に終わったようだ。

3月14日の旅規改定

そろそろ出るころではと、JR九州のサイトを覗いてみたら、昨日付で掲載されていた。3月14日施行の旅規改正公告である。変更される条は28個(うち新設1)、別表は2個(うち新設1)の大改定で、昨年4月1日の消費税増税に伴う運賃・料金改定時には及ばないが、2011年3月5日の東北新幹線はやぶさ」運転開始・グランクラス新設時、3月12日の九州新幹線全通開業時の変更条項を上回る。旅規ポータルJR東日本旅規改訂履歴は、週末に作業を行い、更新しようと思う。
「ひたち」・「ときわ」などの指定席特急料金で発売され、座席の指定をしない新特急券は、「未指定特急券」として、第3条第9号の2で

指定急行券のうち旅客(団体旅客又は貸切旅客を除く。)が希望する場合に、乗車日、有効区間及び全車両指定制の1個以上の特別急行列車(以下「列車群」という。)を指定し、座席の使用を条件としないで発売する特別急行券をいう。

と定義され、「列車群」は別表第1の2で、ひたち・ときわ、スワローあかぎ成田エクスプレスが記載された。これらの列車に繁忙期・閑散期特急料金を適用しないことは、第57条の3に明記された。
北陸新幹線の特急料金と特別車両料金は、JR東日本JR西日本の境界である上越妙高駅をまたぐと割高になっている。別表第2号のムに三角表で記載されている通常期指定席特急料金は、上田・上越妙高間(92.7キロ)、上越妙高・黒部宇奈月温泉間(76.2キロ)が2,360円であるのに、同じ100キロ未満の飯山・糸魚川間(66.6キロ)は3,010円である。
両社にまたがる区間の特別車両料金は、第130条第1項第1号イ(ハ)に定められた。JR西日本JR九州をまたがって運転する「みずほ」、「さくら」の例に倣って、JR東日本JR西日本のそれぞれの区間の料金を合算する。その結果、飯山・糸魚川間は、100キロまでの料金1,030円を2倍した、200キロまでの料金に相当する2,060円と、甚だしく割高になる。山陽新幹線九州新幹線は名称も異なり、一方が財政基盤の弱い三島会社であるが、本州二社の同じ名称の北陸新幹線で、東海道・山陽新幹線にはないこのような割高な特別車両料金を課すことに理解が得られるだろうか。

JR運賃表の最長キロ

10月25日の記事のコメント(10月31日)で

電車特定区間は400キロまで記載されていますが、ざっと計算したところ、最長経路が300キロを超えることはなさそうです。エクセル・ソルバーで最長ルートを計算して、Table 3とTable 4を最長キロまで表示するように変更します。

と書いたが、結果の報告が遅れてしまった。初めて使ったExcel2013のソルバーがうまく動かないのである。変数セルと制約条件の数は、従来使っていたExcel97では全く問題ないレベルであるが、「問題が大きすぎるため、ソルバーで処理できません。」と、計算してくれない。エクセル・ソルバーの師匠にメールで相談したが解決できなかった。
東京附近の電車特定区間の最長運賃経路は師匠が計算してくれ、久里浜・千葉みなと間の368.7キロであった。400キロには達しなかったが、300キロを大きく超えた。ルートは、

久里浜(横須賀)大船(根岸)横浜(東海道)東神奈川(横浜)八王子(中央)立川(南武)武蔵小杉(東海道)鶴見(鶴見)浜川崎(南武)尻手(南武)川崎(東海道)品川(山手)代々木(中央)神田(東北・尾久経由)赤羽(東北)田端(山手)新宿(中央)西国分寺(武蔵野)武蔵浦和(東北・埼京)大宮(東北)南浦和(武蔵野)西船橋(総武)東京(京葉)千葉みなと

である。一方、大阪の電車特定区間の最長経路はExcel2013のソルバーで計算でき、京都・和歌山間(尼崎・放出・久宝寺経由)の143.8キロとなった。
IC運賃は、最低廉運賃計算経路で算出するから、久里浜・取手間の113.6キロ、1,836円が最長だろう。久里浜奥多摩間の電車特定区間内の経路は121.7キロ(2,160円)であるが、最低廉運賃は区間外の相模・八高線経由(運賃計算キロ119.3キロ)の1,944円(乗車券運賃は1,940円)となる。
ついでに幹線運賃と地方交通線運賃についても、それぞれの運賃表の最長キロを調べてみた。電車特定区間内及び山手線・大阪環状線内とともに下表に記す。なお、運賃表最長は、4月の運賃改定に際しJR各社から発表された運賃表の最長キロ帯である。

運賃表最長最長キロ区間経由
本州幹2961-300011574.8 枕崎→肥前山口最長片道切符
JR北幹1161-12001734.4 稚内⇔様似長万部まで全国最長、室蘭・日高線
JR四幹961-1000687.3 窪川⇔若井土讃・徳島・高徳・予讃・予土線
JR九幹1961-20001395.5 枕崎→肥前山口新八代・隼人・大分・熊本・久留米
・夜明・城野・吉塚、以下全国最長
JR東幹IC2961-3000444.9 いわき⇔松本常磐・武蔵野・中央線
本州地交838-873*1323.3 花巻⇔大曲釜石・山田・田沢湖線
JR北地交656-691655.9 稚内東釧路宗谷・石北・釧網
JR東地交IC838-87392.0 八王子⇔倉賀野
JR東電特381-400368.7 久里浜⇔千葉みなと上記
JR東電特IC381-400113.6 久里浜⇔取手
JR西電特381-400143.8 京都⇔和歌山尼崎・放出・久宝寺
JR東山手31-3542.3 新宿→御茶ノ水外回り・秋葉原・代々木・内回り・神田
JR西大環31-3525.8 桜島→西九条
JR東山手IC31-3517.2 品川⇔大塚*2
本州3社の幹線運賃の最長キロは、最長片道切符の基準額として使用される運賃計算キロである。したがって、姫路・岡山間は赤穂線経由とした。不通区間代行バスのない山田線・常磐線も含めているが、気仙沼線BRTは鉄道の乗車券が発売されないので、柳津・気仙沼間の60.8キロを差し引いた11514.0キロが、不通承知で発売されうる最長片道切符の鉄道区間の運賃計算キロとなる。
本州3社の地方交通線の連続最長区間は、不通の釜石・宮古間を含む花巻・大曲間323.3キロである。不通区間を除くと、和田山・総社間(播但・姫新・津山・吉備線経由)の237.3キロが最長だろう。JR北海道地方交通線の連続最長区間は、稚内東釧路間の655.9キロで、唯一運賃表の最長キロ帯と一致した。
JR東日本Suicaエリアの最長運賃区間はいわき・松本間の444.9キロだろう。新松戸・西国分寺間は武蔵野線経由で計算され、常磐・中央線経由より0.9キロ短い。またSuicaエリアの地方交通線連続最長区間は、八王子・倉賀野間の92.0キロである。これに対し、JR東日本が発表した運賃表は、乗車券運賃と同じ、幹線が3,000キロ*3、地交線が873キロまでとなっている。
この結果に基づき、「JRの運賃計算ルールは複雑すぎる」の別表Fare Table 2014(運賃表2014)のTable 1からTable 4を、それぞれの最長キロ帯まで表示するように改訂した。例によって間違いがあれば、ご教示願いたい。

*1:地方交通線JR東日本のリリース。JR東海JR西日本は、292-310キロ

*2:目黒⇔西日暮里も17.2キロ

*3:2,001キロ以上の幹線運賃は、最大チャージ額20,000円を超える

「ひたち」・「ときわ」の新特急料金体系

JR東日本から上野東京ラインの運行計画が発表された。常磐線特急「スーパーひたち」と「フレッシュひたち」は「ひたち」と「ときわ」に再編され一部を除き品川発着となる。JR東日本10月30日付リリースで発表された特急料金体系は、以下のとおり従来の制度を大きく変更するものである。3月15日のダイヤ改正で平日通勤時間帯に登場した「スワローあかぎ」のスワローあかぎ料金券を発展させたものだが、1年間の試行を経て、いよいよ本格的に導入される。

  • 自由席の廃止(指定席特急券と座席未指定券が同額)
  • 年間同一料金
  • 車内購入料金と事前購入料金の格差

現行の特急料金と比較すると、次のようになる。

営業キロ-50-100-150-200-300
新料金事前7501,0001,5502,2002,500
車内1,0101,2601,8102,4602,760
現行料金通常期指定席A1,2701,7002,3502,6802,900
通常期指定席B1,0301,4501,860
自由席A7501,1801,8302,1602,380
自由席B5109301,340

表の現行料金は上段がA料金、下段がB料金である。B料金の適用区間は勝田までなので、勝田以北の各駅相互間及び勝田以南と以北にまたがる区間の特急料金は、上段の料金になる。
新料金は、現行の指定席料金や150キロまでの自由席A料金より安くなるが、大半を占めるB料金区間の利用者にとっては、それほどメリットがなく、デメリットが大きい。指定席特急料金は、通常期で13.2%から26.5%、閑散期では5.9%から17.2%の値下げにすぎない。一方自由席利用者にとって自由席廃止の影響は大きく、とくにB料金の50キロまでの区間は47%という大幅な値上げとなる*1。トクトクきっぷのひたち回数券フレッシュひたち料金回数券定期券用月間料金券も廃止される。
車内購入料金と事前購入料金の格差は、首都圏の普通列車グリーン料金に続くものである。「スワローあかぎ」の場合は、通常の指定席特急券を残しており、料金券は車内で発売せず、車内で購入すると指定席特急料金となる。常磐特急はこれを一本化し、車内購入料金は事前料金の一律260円増しとしている。なお、グリーン車の特急料金には車内料金がなく、事前料金から520円減額する。車内料金を事前料金より高くすること自体は合理的であるが、「すいているから、特急で座って帰ろうか」という途中駅からの利用者を逃すことにならないか。
この新料金体系が旅規にどのように反映されるのか興味深い。これだけの本格的な制度改定であるから、「スワローあかぎ」のように基準規程や通達で済ますわけにはいかないだろう。
一つだけはっきりしている旅規の改定がある。水戸・勝田での乗継通算制度*2の廃止で、旅規57条2項から7号が削除される。リリースは、特急料金だけで、グリーン料金の通算については触れていないが、おそらく58条2項7号も削除されるのだろう。

追記1(11月5日):乗継通算制度に関しコメントをもらったが、自由席であれば通算するよりも、分割購入したほうが安上がりのケースが多い。例をあげると、通算料金1,830円の柏・高萩間は、水戸または勝田で分割すると、930円+750円の1,680円で済む。同じく石岡・いわき間も、510円+1,180円の1,690円。自由席特急料金が指定席料金から一律520円引きであることと、運転区間がA料金区間とB料金区間にまたがっていることが原因である。
新料金体系では、このような特急券分割によるメリットはなくなる。乗継通算の廃止により、いわきから石岡まで乗車するとき、水戸まで速達タイプの「ひたち」を利用することができず、停車タイプの「ときわ」で行くしかないというのは改悪だろう。

追記2(11月6日):追記1で「新料金体系では、このような特急券分割によるメリットはなくなる。」と書いたが間違っていた。料金表をよく見ると、100キロまでが1,000円で、200キロまでの2,200円と釣り合いが取れていない。現実に柏・いわき間は、水戸で分割すると200円安くなり、「ひたち」と「ときわ」の乗継も可能になる。
100キロまでを1,000円と特に安くしているためだが、牛久、土浦、石岡などからの通勤利用者に対する激変緩和措置だろうか。不自然な料金体系である。

追記3(12月25日):JR東日本12月22日付リリースで、7日間で10回(5往復)利用できる「定期券用ウィークリー料金券」の発売が発表になった。コメントでも評判が悪かった「定期券用月間料金券」廃止の代替措置だが、「定期券用月間料金券」及び「フレッシュひたち料金回数券」と、1回当たりの料金を比較すると次のとおり。現行の月間料金券には使用回数の制限がないが、22日間44回利用するものとして計算した。

ウィークリー月間料金券回数券(自)回数券(指)
石岡814436570770
勝田1,0468317201,130
日立1,0469301,290
現行の上野⇒牛久〜石岡の436円は、品川・東京も同額となるが814円と87%の値上げ。4枚つづりで1ヶ月間有効の自由席回数券に対しても43%の値上げとなる。これに対し、100キロ超の上野⇒友部〜勝田は品川・東京・上野⇒友部〜日立となって、831円が1,046円と25%程度の値上げにとどまる。通勤利用者はほとんどいないと思うが、月間料金券の設定がなかった日立のウィークリー料金券は、現行の指定席回数券よりも安くなる。遠距離の料金を抑え、取りやすい近距離の値上げ幅を大きくする営業政策は、新特急料金と変わらない。

*1:現行の自由席特急料金が通常期の指定席特急料金の一律520円引きということに問題があるのだが

*2:いわき以遠の特急が運行休止となっているので、現実に適用されることはない

東京附近の電車特定区間・山手線内の運賃計算

JRの運賃計算ルールは複雑すぎるとその別表Fare Table 2014(運賃表2014)を更新した。表2 運賃計算の方法JR東日本(電特・山手)の運賃計算について「消費税10円単位切り上げ」と書いていたが、読者からメールで、これは旅規の規定を正確に反映していない、と指摘を受けたためである。
東京山手線内及び東京附近の電車特定区間内相互発着の運賃計算は、旅規78条1項1号及び2号のイに、

次に定める賃率によつて第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額

と規定している。読者の指摘は、

  • 「10円未満のは数を円位において切り上げた額」とは、1円未満のは数は切り捨て、1円以上を切り上げると読むべき
  • 「10円単位切り上げ」と「円位において切り上げ」による計算結果は、電車特定区間の31-35キロ帯の運賃で異なり、前者は560円、後者は550円
  • JR東日本の運賃表の31-35キロ帯運賃は後者の550円

というものである。
確かにそのとおりで、表2及び関連の記述を訂正した。また別表のTable 3A(JR東電車特定区間)とTable 4A(山手線)の運賃は、Excelで数式

=ROUNDUP(ROUNDUP(+キロ帯中央値*賃率,-1)*1.08,-1)

を使い計算していた。これを
=ROUNDUP(ROUNDUP(+キロ帯中央値*賃率,-1)*1.08-1,-1)

に変更して再計算し訂正した。電車特定区間の31-35キロ帯はJR東日本の運賃表と同じ550円になった。山手線の26-30キロ帯運賃も420円が410円と減額になった。
また前記事に対しコメントがあった「スーパービュー踊り子」の特急料金についても、表11(2)表Aの注記に「東京または池袋〜伊東間の停車駅相互間」を付け加えた。

ゆいレールがICカード乗車券導入

沖縄のゆいレールが10月20日からICカード乗車券OKICAを導入する(IC乗車券システム導入のお知らせ)。
画期的なのは、同時に日本の鉄軌道事業者ではじめて、QRコードを改札式にかざして入出場するQR乗車券を導入すること。30日以降は磁気乗車券を完全に廃止、自動改札機が全機非接触式に交換される。回数券も廃止され、OKICAのポイントサービスにに置き換わるというが、OKICAのサイトの「ポイントについて」は「只今準備中」で詳細が分からない*1
1日・2日乗車券も磁気券からQR乗車券となり、有効期間が暦日ではなく購入時から24時間または48時間となる。ヨーロッパと同じ方式で使い勝手がよくなる。これも日本では初めてだろう。

追記(10月18日):コメントで教示を受けたページによると、OKICAポイントは、月間利用額3,000円未満なし、6,000円未満10%、9,000円未満13%、9,000円以上15%である。リリースでは回数券の廃止の代わりとして「OKICAによる同割引程度のポイントサービスを行います」と書いているが、割引率は大幅に低下する。
現行の回数券は金額式、10券片で片道運賃の8.5倍程度(回数券の発売額を10円単位に四捨五入しているので、端数がでる)、有効期間は無期限という、日本の鉄軌道事業者中もっともお買い得な回数券である。9,000円以上(最長の330円区間を月間28回)利用して、ほぼ現行の割引率である。学生用OKICAは、一般のポイントの2倍つくが、こちらも現行の通学割引回数券(有効期間6箇月、7.5倍程度)にくらべ見劣りする。1箇月通学定期券の最高額が7,900円だから、30%のポイントが付く9,000円以上の利用は考えられない。リリースは回数券について

10月30日以降に未使用の回数券をお持ちのお客様については、旧券と引き換えに「回数券引換券」を、1回の乗車につき1枚発行いたします。
(当日限り有効の乗車券であるため、乗車日に引き換えます)

とあるので、10月29日までに有効期限なしの回数券を買いだめしておく方がよい。
ICカード乗車券の導入によって回数券を廃止し、ポイントサービスで代替する事業者が多いが、2012年2月28日の記事に書いたように、ポイントの付与率は回数券による割引率よりも低く、実質的な値上げとなっている。なお、全国の鉄軌道事業者の回数券について、2012年3月18日2012年4月3日2012年4月22日と3回にわたり紹介している。

追記2(10月21日):OKICAのサイトに利用規約が掲載された。

*1:利用規約」も「只今準備中」

公営バス事業者の運賃規定

前記事で予告した、公営バス事業者の運賃規定である。内容と構成は事業者によって異なり、ある意味で鉄道運賃の規定よりも興味深い。調査対象は、ウェブの例規集に掲載されている次の事業者の条例及び施行規程等である*1

事業者 条例 施行規程等
青森市 市営一般乗合自動車料金条例 市営一般乗合自動車料金条例施行規程
八戸市 自動車乗車運賃等条例 自動車乗車運賃等条例施行規程
花巻市 市営バス条例 市営バス条例施行規則
仙台市 乗合自動車運賃条例 乗合自動車運賃条例施行規程
東京都 乗合自動車条例 乗合自動車条例施行規程
八丈町 乗合自動車条例 一般乗合旅客自動車運送事業運送約款
三宅村 乗合自動車条例
横浜市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
川崎市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
南アルプス市 自動車運賃等徴収条例
伊那市 市営バス運賃及び料金等徴収条例 市営バス運賃及び料金等徴収規程
名古屋市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
京都市 乗合自動車旅客運賃条例 乗合自動車旅客運賃条例施行規程
大阪市 自動車運送乗車料条例 自動車運送乗車料条例施行規程
高槻市 自動車運送事業条例 自動車運送事業条例施行規程
神戸市 乗合自動車の乗車料金等に関する条例 乗合自動車の乗車料金等に関する条例施行規程
尼崎市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
伊丹市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
松江市 乗合旅客自動車運送条例 乗合旅客自動車運送条例施行規程
宇部市 市営旅客自動車運送条例]
岩国市 乗合自動車等使用料条例
徳島市 市営旅客自動車運送事業条例 市営旅客自動車運送事業条例施行規程
小松島市 市営乗合自動車使用条例 市営乗合自動車使用条例施行規程
北九州市 自動車事業使用料及び手数料条例 自動車事業使用料及び手数料条例施行規程
佐賀市 自動車運送事業自動車の運賃及び使用料条例 自動車運送事業自動車運賃及び旅客の取扱い規程
長崎県 県営バス運賃等条例 県営バス運賃等規則
佐世保市 市営自動車条例 市営自動車条例施行規則
熊本市 自動車運送条例 自動車運送条例施行規程
鹿児島市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程

上記の事業者のうち、横浜市川崎市名古屋市京都市大阪市尼崎市伊丹市の普通運賃は均一制である。このほか、東京都、仙台市高槻市、神戸市、松江市徳島市が都心路線の均一運賃と郊外路線の対キロ区間制運賃を併用している。対キロ区間制運賃はこのほか、青森市八戸市花巻市八丈町三宅村南アルプス市伊那市宇部市、岩国市、小松島市佐賀市長崎県佐世保市熊本市鹿児島市で採用され、うち長崎県鹿児島市都心部の特殊区間*2との併用である。

東京都乗合自動車条例第3条は、

(普通旅客運賃)
第三条 普通旅客運賃は、次に定めるとおりとする。
一 十二歳以上の者 一人一旅客運賃区間一乗車につき二百十円以内で管理者が定める額
二 十二歳未満の者 前号に定める額の五割の額(計算上十円未満の端数を生じた場合は、その端数を十円を単位として切り上げて得た額)
2 管理者は、特殊な需要に応ずるため必要があると認めたときは、前項の規定にかかわらず、普通旅客運賃を定めることができる。
3 前二項の規定にかかわらず、旅客の同伴する一歳未満の者の旅客運賃は、無料とし、旅客の同伴する一歳以上六歳未満の者の旅客運賃は、旅客一人につき、二人までは無料とする。

と定めている。このように条例で上限運賃を定め、施行規則で実施運賃(ほとんどの場合上限運賃と一致)を規定するのが一般的である。都営バスの均一運賃は4種類あり、東京都乗合自動車条例施行規程は第8条第1項で

(大人の普通旅客運賃)
第八条 大人の普通旅客運賃は、一運行系統につき二百十円とする。ただし、別表第一に掲げる運行系統(以下「学バス系統」という。)においては百八十円、別表第一の二に掲げる運行系統においては百九十円、別表第一の三に掲げる運行系統においては百円とする。

と定めている。別表第一の二はCH01系統(新宿駅西口・都庁第一本庁舎循環)、別表第一の三はAL01系統(東大島駅前・小松川さくらホール前循環) である。
対キロ区間制運賃は青梅営業所所管の路線で、施行規程第9条に

第九条 前条の規定にかかわらず、大人の普通旅客運賃は、別表第二に掲げる運行系統にあつては乗車区間に対応して同表に定める額とする。(後略)

と定め、運賃は別表第二の三角表に記載されている。

対キロ区間制の事業者・路線のうち、花巻市伊那市は条例の別表で運賃を定めている。鹿児島市は、東京都と同様施行規程の別表に記載している。南アルプス市は、条例本文で区間ごとの運賃を規定している。区数による運賃を規定しているのが北九州市。神戸市は、対キロ区間区間の運賃について施行規程で初乗り区間の運賃だけを規定し、その他は「別に定める」として記載していない。

青森市営バスの対キロ区間制運賃規定は、条例で

(料金制度の形態及び基準賃率)
第三条 料金制度の形態は、対キロ区間制とする。
2 基準賃率は、一人一キロメートル当たり四十一円九十銭の範囲内で管理規程で定めるものとし、料金計算の賃率は、二キロメートルまでの区間については基準賃率の二倍とし、二キロメートルを超え、十キロメートルまでの区間については基準賃率とし、十キロメートルを超え、二十キロメートルまでの区間については基準賃率を一割逓減した賃率とし、二十キロメートルを超え、三十キロメートルまでの区間については基準賃率を二割逓減した賃率とし、三十キロメートルを超える区間については基準賃率を三割逓減した賃率とする。

と定め、基準規程で

(基準賃率)
第二条 条例第三条第二項に規定する基準賃率は、一人一キロメートル当たり四十一円九十銭とする。

と上限運賃と同一の賃率を規定している。この方法を採用しているのが、次表の各事業者。賃率とキロ帯ごとの倍率を比較すると次のとおり*3

上限賃率 実施賃率 -2キロ -10キロ -20キロ -30キロ 31キロ- 最低運賃 三角表
青森市 41.9 41.9 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70
八戸市 37.7 37.7 2.00 1.00 0.70 0.60 0.50
仙台市 38.1 38.1 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 150
松江市 36.7 2.00 1.00 0.90 0.85 0.80 150 あり
宇部市 37.7 37.7*4 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70
岩国市 34.1 34.1 2.00 1.00 0.80 0.70 0.60
佐賀市 40.7 2.00 1.00 0.85 0.75 0.65 150 あり
長崎県*5 32.4 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 あり
佐世保市 33.7 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 あり
熊本市 32.5 2.00 1.00 0.90 0.80 0.80

鉄道事業者の旅規に規定されていない対キロ区間制運賃の算定根拠が示されていて興味深い。基準賃率に対する倍率は10キロまでは全市同一だが、10キロ超が異なり、八戸市がもっとも遠距離逓減運賃である。

*1:名称中の自治体名は省略した。リンクがないものは、各自治体の例規集のトップページからからログインして入れば読める。

*2:対キロ区間制との相違がよくわからない。ご存知の方ご教示願いたい。

*3:このほか、八丈町三宅村高槻市が条例で基準賃率を定めているが、キロ帯ごとの適用倍率を規定していない。

*4:「交通局長が定める普通運賃の基準賃率に係る告示」で規定

*5:施行規程(長崎県営バス運賃等規則)で規定