道南いさりび鉄道は、10月26日、北海道新幹線の開業後JR北海道から引き継ぐ江差線五稜郭・木古内間の認可申請運賃を発表した。リリースには、二つの資料が添付されており、資料1は、申請した上限運賃(実施運賃と同額)、資料2は、JR北海道との乗継割引運賃である。ただし、資料2には函館・木古内間など4区間について60-130円割り引くことしか示されておらず、割引の基準が明確でない。
グラフは、並行在来線各社の38キロまでの運賃をプロットしたもの(18キロまでのIRいしかわ鉄道を除く)。点線は、各社の運賃を線形回帰した近似直線である。
鉄道事業者の運賃比較の手法で、道南いさりび鉄道の運賃を並行在来線各社と比較してみた。
事業者 | 累計運賃 | 対JR倍率 |
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道南いさりび | 20,910 | 1.282 |
青い森 | 19,270 | 1.367 |
IGRいわて銀河 | 21,990 | 1.560 |
しなの | 17,340 | 1.230 |
えちごトキめき | 14,100 | 1.000 |
とやまあいの風 | 15,860 | 1.125 |
肥薩おれんじ | 20,950 | 1.322 |
累計運賃は1キロから38キロまでの運賃を累計したもの。対JR倍率は同じキロ帯のJR運賃に対する倍率で、道南いさりび鉄道はJR北海道地方交通線、肥薩おれんじ鉄道はJR九州、その他各社は本州幹線と比較した。JRの運賃を踏襲したえちごトキメキ鉄道を初め、北陸新幹線の並行在来線の運賃が安く設定されている。道南いさりび鉄道の運賃は、絶対額では肥薩おれんじ鉄道やIGRいわて銀河鉄道よりも低く、倍率ではこれに加えて青い森鉄道よりも低い。並行在来線としては初めての地方交通線の経営分離であるが、安く設定されている。
新幹線と並行在来線の運賃・料金を比較し、新幹線の利用による時間短縮のコスト(円/分)を調べてみた。
区間 | 並行在来線 | 運賃 | 時間(分) | 新幹線 | 運賃+料金 | 時間(分) | コスト |
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函館・木古内 | JR北+道南 | 1,110 | 67 | JR北 | 2,380 | 42 | 50.80 |
青森・八戸 | 青い森 | 1,340 | 80 | JR東 | 3,330 | 38 | 47.38 |
二戸・盛岡 | いわて | 1,950 | 70 | JR東 | 2,980 | 25 | 22.89 |
いわて沼宮内・盛岡 | いわて | 920 | 35 | JR東 | 1,440 | 12 | 22.61 |
軽井沢・長野 | しなの+JR東 | 1,640 | 75 | JR東 | 3,160 | 31 | 34.55 |
上田・長野 | しなの+JR東 | 770 | 35 | JR東 | 1,440 | 12 | 29.13 |
長野・飯山 | しなの+JR東 | 530 | 45 | JR東 | 1,360 | 12 | 25.15 |
長野・上越妙高 | しなの+えちご | 1,330 | 87 | JR東 | 2,810 | 19 | 21.76 |
上越妙高・糸魚川 | えちご | 840 | 66 | JR西 | 1,530 | 13 | 13.02 |
糸魚川・富山 | えちご+とやま | 1,520 | 87 | JR西 | 3,160 | 27 | 27.33 |
高岡・金沢 | とやま+いしかわ | 820 | 38 | JR西 | 1,620 | 26 | 66.67 |
八代・水俣 | JR九+肥薩 | 1,250 | 65 | JR九+肥薩 | 2,410 | 41 | 48.33 |
出水・川内 | 肥薩 | 1,450 | 60 | JR九 | 1,880 | 11 | 8.78 |
在来線の運賃欄の斜体字は乗継割引運賃を示す。新幹線の特急料金は自由席・特定特急料金である*1。所要時間は平均的な列車による。新幹線駅が中心駅と離れている場合は、接続列車の所要時間を加算し、1回の乗継について一律10分を加えた。北海道新幹線と「はこだてライナー」のダイヤは発表されていないが、函館・木古内間の所要時間は新幹線12分、はこだてライナー20分と仮定し、乗継時間を加えて42分とした。並行在来線の67分、1,110円に対し、新幹線を利用すると42分、2,380円。25分短縮のための差額が1,270円、1分あたり50.8円となる。
比較した13区間のうち、新幹線利用による時間短縮コストが最小なのは、出水・川内間で8.78円/分である。在来線の営業キロ51.3キロに対し、新幹線は32.7キロと線形がよく、所要時間が在来線の1/5以下に短縮するためである。同じ九州新幹線でも、八代・水俣間は2度の乗換によって時間短縮は37%にしかならず、時間短縮コストは48.33円/分と、出水・川内間の5.5倍である。上越妙高・糸魚川間も在来線の49.2キロに対し、新幹線は37.0キロで時間短縮効果が大きい。
時間短縮効果に加え、並行在来線の運賃が高く、特定特急料金が設定されるなど新幹線の特急料金が安い区間のコストパフォーマンスがよい。いわて沼宮内・盛岡間などがこれに該当する。函館・木古内間は、その逆で新幹線特急料金が高く、在来線運賃が比較的安い。さらに新函館北斗で乗り継ぐため時間短縮効果が小さく、高岡・金沢間に次いで、コストパフォーマンスが悪い。新幹線の利用は進まないと思われる。