大阪メトロの旅客営業規則に他社の旅規にない条文を見つけた。
(損害の賠償)
第16条 旅客及び公衆は、その故意又は過失により、施設、車両又は他の旅客若しくは係員に損害を与えたときは、ただちに、これを賠償しなければならない。
損害賠償責任は、債務不履行に基づくものと不法行為に基づくものとがあり、民法に規定されている。契約当事者である「旅客」の債務不履行はともかく、契約関係にない「公衆」の不法行為に基づく損害賠償責任を約款に規定するのは違和感がある。また旅客の責任について書くなら、事業者の責任も書いて双務的にすべきだろう。
ダウンロードしておいた移管前の大阪市の規程と対比して、旅規ポータルに大阪市交通局・大阪メトロ旅客営業規則対比を掲載した。大阪メトロの第16条は、大阪市高速鉄道及び中量軌道乗車料条例施行規程の第16条と全く同じ条文だった。その他大阪メトロには引き継がれていないが、大阪市施行規程にはほかにも第4条(乗客等の義務)、第5条(乗車拒絶)、第6条(駅構内及び車内における禁止事項)などの旅客の義務規定があった。
これらの規定は、次のとおり公営地下鉄事業者の条例施行規則等にも存在する。
乗客の義務 | 乗車拒絶 | 禁止事項*1 | 損害賠償 | |
---|---|---|---|---|
札幌市*2 | 2条(法令等の遵守) | 10条(乗車できない者) | 9条 | |
仙台市*3 | 7条(旅客の義務) | 9条(乗車拒否) | 10条 | |
横浜市*4 | 2条(法令等の遵守) | 6条(乗車の拒絶) | 5条 | 12条 |
名古屋市*5 | 3条(乗客の義務) | 4条(乗車拒絶) | 5条 | |
京都市*6 | 8条(旅客等の義務) | 9条(乗車拒絶) | 10条 | 15条 |
神戸市*7 | 2条(乗客等の義務) | 10条(乗車拒絶) | 9条 | |
福岡市*8 | 4条(乗客の義務) | 5条(乗車の制限) | 6条 |
その他、横浜市高速鉄道乗車規程第13条には係員指示事項に対する服従義務が定められている。太字は、旅客等として公衆の義務も規定している条項である*9。約款ではなく、条例の施行細則という位置づけなのだろう。
そのなかで、東京都地下高速電車旅客営業規程は、これらを一切規定してない。第1条(目的)
この規程は、東京都地下高速電車条例(昭和三十五年十一月東京都条例第九十四号)その他関係法規に基き東京都地下高速電車(以下「地下高速電車」という。)の旅客運送及びこれに付帯する業務を合理的に行うため、その取扱方法を定め、もつて利用者の利便と業務の能率的な遂行を図ることを目的とする。
で条例に言及しているものの、「利用者の便利と事業の能率的な遂行を図ること」は各社の旅客営業規則と共通している。これに対し、大阪市の旧規程第1条(目的)は
この規程は、大阪市高速鉄道及び中量軌道乗車料条例(昭和39年大阪市条例第104号。第4条を除き、以下「条例」という。)の施行について必要な事項を定めることを目的とする。
と対照的である。 なお、大阪メトロの旅規第1条(目的)も
この規則は、大阪市高速電気軌道株式会社(以下「当社」という。)が経営する高速鉄道(中量軌道含む。以下「当社線」という。)における旅客の運送について 合理的な取扱方を定め、もって利用者の便利と事業の能率的な遂行を図ることを目的 とする。
と一般的な旅規の規定である。
旅客の義務規定は、公営交通の軌道条例の施行規則にはない。富山地鉄(軌道)と広島電鉄の旅規にもなかったが、長崎電気軌道の旅客運送規則には第6条(乗車の謝絶)や第8条(喫煙、飲食等の禁止)が存在する。第11条(安全等に関する係員の指示)は、旅客及び公衆を対象とする規定である。