非鉄の旅客運送約款

JR東日本のBRT約款からはじまり、バス事業者の約款、公営バス事業者の運賃規定と鉄路からの脱線が続いているが、脱線ついでにもう1回非鉄の旅客運送約款について書く。
バス事業者の運送約款が国土交通省の標準約款をそのまま使用しているのは、道路運送法の規定によるもののようだ。道路運送法11条は、一般旅客自動車運送事業者に対し、「運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受ける」義務を課しているが、3項で

国土交通大臣が一般旅客自動車運送事業の種別に応じて標準運送約款を定めて公示した場合(これを変更して公示した場合を含む。)において、当該事業を経営する者が、標準運送約款と同一の運送約款を定め、又は現に定めている運送約款を標準運送約款と同一のものに変更したときは、その運送約款については、第一項の規定による認可を受けたものとみなす。

と規定している。バス事業者の約款が必ずしも自社の事業内容に即していないのは、この条項のためだろう。なお、一般旅客自動車運送事業には、一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス)のほかに、一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)及び一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー)があり、それぞれ国土交通省の標準約款*1が定められている。9月8日の記事八丈町仙台市京都市が条例・施行規程とは別に運送約款を定めていると書いたが、道路運送法11条1項の規定に基づいているのだろう。佐賀市自動車運送事業自動車運賃及び旅客の取扱い規程にも

(運送約款)
第14条 運送約款は、別にこれを定める。

という条項があった。これまでの記事で条例・施行規程を約款とみなしていたが、これらは自治体が定めて一般に公示したもので、旅客と事業者間の運送契約とは異なるということか。
海上運送法9条の一般旅客定期航路事業者の約款の制定・認可の規定は、道路運送法とまったく同じで、国土交通省標準約款がある。フェリーの船室に掲示されているものである。
航空法も106条で約款の制定・認可について定めているが、標準約款の規定はない。しかしJALANAの国内旅客運送約款はよく似ており、違いは第2章第3節(手荷物)の条文構成だけのようである。JALは超過手荷物料金を第39条として別建てにしているが、ANAは第37条(無料手荷物許容量)の一項とし*2、条文の順序・構成が異なり、JALが全52条、ANAが51条となっている。JALの子会社日本トランスオーシャン航空などと、ANAコードシェアを行なっているAIRDOスターフライヤーなどはそれぞれ、JALANAの約款を使用している。独立系のスカイマークフジドリームエアラインズFDA)も、概ねJALANAの約款と同じ*3だが、FDAの航空券はすべてeチケットとして発行されていて、唯一「紙片の航空券の紛失」の条項がない。LCCジェットスターピーチ航空は国内と国際を兼用しており、これらとは全く異なる。「正文である英語の運送約款が優先」は共通だが、条文構成は互いにかなり違う。
なお、鉄道営業法は運賃その他の運送条件の公告義務*4を、鉄道事業法は旅客運賃等の上限の国土交通大臣による認可を規定しているが、道路運送法海上運送法及び航空法にある、旅客運送約款の認可についての規定はない。

*1:一般貸切旅客自動車運送事業標準運送約款一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款

*2:両社とも、超過手荷物料金は別に定めるとだけ規定

*3:3グループとも第5条(共同引受)と第6条(会社のいずれかと旅客との間の取扱い等の効力)がない

*4:第三条 運賃其ノ他ノ運送条件ハ関係停車場ニ公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス