続・JR定期運賃の不思議

通勤定期運賃の不規則なキロ刻みは、前記事へのコメントのとおり国有鉄道運賃法の定期運賃の限度額によるもので間違いないようだ。国有鉄道運賃法の5条は、

(定期旅客運賃)
第5条 定期旅客運賃は、日本国有鉄道がこれを定める。
2 日本国有鉄道は、通勤定期旅客運賃又は通学定期旅客運賃を定める場合には、左の各号の規定に従つてこれをしなければならない。
一 通用期間1箇月又は3箇月の通勤定期旅客運賃又は通学定期旅客運賃は、普通旅客運賃の100分の50に相当する額をこえることができない。
二 通用期間6箇月の通勤定期旅客運賃又は通学定期旅客運賃は、普通旅客運賃の100分の40に相当する額をこえることができない。

という条文であった。1カ月、3カ月、6カ月運賃は、普通運賃のそれぞれ30倍、90倍、144倍以下に制限されていたことになる*1
1966年3月改定の通勤定期運賃は初乗り区間以降1キロ刻みだったが、普通運賃に対する最大倍率は、1カ月が30倍、3カ月が81倍、6カ月が144倍(いずれも1-5キロの初乗り運賃)と法定限度額以内に抑えられていた*2
69年5月運賃改定で普通運賃のキロ地帯制が11キロ以上(11-50キロ5キロ刻み、51-100キロ10キロ刻み)に拡大した。この時点で6カ月通勤定期運賃は、23-25キロ、27-30キロを同額として限度額の144倍に抑えた。その後同額キロ帯は徐々に拡大し、82年4月改定によって50キロ以下のすべてのキロ帯で普通運賃と同じキロ刻みになった。51キロ以上では、74年10月改定で、はじめて59-60キロが同額となり、これが拡大していった。
民営化された87年4月以降の改定では、法定限度額の縛りがなくなったが、従来のキロ刻みを踏襲した。普通運賃に対する倍率は徐々に増加し、4月の改定で最大倍率は1カ月が32.43倍、3カ月が92.36倍、6カ月が155.43倍となった。普通運賃の上昇以上に通勤定期運賃が上昇したことになる。
割引率の高い通学定期運賃は事情が異なる。法定限度額は通勤定期運賃と同じなので、普通運賃に対する倍率がこれを超えることはなかった。しかし、11-15キロ帯の後半の14-15キロ(84年5月20日改定以降同額)は、国鉄が法定限度額とは別個に自主的に定めた一定の倍率以下に抑えたものと推定される。
その他のキロ帯の通学定期の同額運賃は、1966年3月以来である。これはほぼキロ比例で上昇する通勤定期運賃と比べて、極めて特殊な通学定期運賃の上昇カーブによる。グラフは66年の1カ月通学定期運賃(水色)と通勤定期運賃(オレンジ色)の、それぞれの初乗り運賃に対する倍率をプロットしたものだが、通学定期運賃は15キロ前後で上昇幅が大きく低下し、30キロ台後半から今度はほぼ比例的に上昇する。運賃は4キロ以降キロごとに20-50円の幅で上昇するが、15キロから37キロまでは10円刻みになり、22-23キロ、26-27キロ、28-29キロ、31-32キロ*3の各キロ帯では同額になっていたのだ。運賃改定の都度このキロ刻みを踏襲したので、現在もこれらのキロ帯では運賃が同額になっている。なお国鉄・JR定期運賃推移に、通学定期運賃の推移を追加した。
JRの通学定期運賃は、国鉄最後の1986年9月改定運賃に消費税を転嫁しただけで、通勤定期運賃のように割引率は低下していない。そして特殊な上昇カーブの傾向も変わらない。したがって、次なるJR定期運賃の不思議は、なぜ通学定期運賃の上昇カーブがこのようになったのか、ということである。識者のコメントをお願いしたい。

*1:1カ月30日で計算

*2:3カ月運賃が法定限度額の81倍だったということは、当時の3カ月定期運賃の法定限度額は100分の45だったのかもしれない。68年4月改定で3カ月運賃の最大倍率は85.67倍になり、国鉄時代にこの最大倍率を超えることはなかった

*3:普通運賃が異なる30キロも同額