国土交通省は10月29日、来年4月の消費税増税後のICカード乗車券の1円単位運賃を容認した。これを受けて、11月6日のJR東日本を皮切りに、東京メトロ、東急、東京都交通局など首都圏の鉄道事業者が相次いで導入を表明している。国土交通省のリリース鉄道・バスにおける具体的な端数処理の方法によると、ICカード乗車券の運賃は券売機運賃よりも安くするのが基本とのことである。
10円単位の現行運賃に108/105を乗じ、ICカード乗車券は1円単位に四捨五入、券売機運賃は切り上げて10円単位にすると、JR東日本の現行初乗り運賃130円は、ICカードが134円に、券売機が140円となる。鉄道事業者は、これによりICカード乗車券に誘導し、コスト削減につなげたいところだ。しかし、そううまくはいかないだろう。「ICカード運賃の方が現金運賃より安くて然るべきという消費者感覚」に反し、鉄道事業者みずからが磁気券を優遇する旅客運賃体系を定めているからだ。それは、回数券運賃、JRの乗車券分割購入と東京メトロ・都営地下鉄の特殊割引運賃である。
上述したJR東日本初乗り運賃のICカードと磁気券の格差は、わずか4.5%である。11枚つづりの普通回数券の割引額は、9.1%。JRにはないが、12枚の時差券は16.7%、14枚の土休日券は28.6%にもなる。特に東京メトロや東急の金額式回数券は使い勝手が良い。これに対し、クレジットカード機能付きICカードでは乗車ポイントの付与があるが、大きく見劣りする。東京メトロの一般カードは平日2ポイント(160円の初乗り運賃に対し1.25%割引)、土休日6ポイント(3.75%)である*1。
JRでは、指定席券売機で乗車券を分割購入するのが運賃節約に有効である。例えば御茶ノ水・横浜間を品川で分割すると、所定運賃540円に対し440円と18.5%の節減となる。ICカードではいったん品川駅で下車しなければならない。
東京メトロ・都営地下鉄の特殊割引運賃を利用すると、多くの区間で単純往復よりも割安になる。例えば、東京・新宿間を往復するとJRも、東京メトロも380円。これに対し東京(メトロ)新宿三丁目(都営)大手町と乗車すると、260円で済む*2。ICカードでは30分の乗換時間制限があるが、磁気券では制限がない。
鉄道事業者が100%ICカード化を目指すなら、回数券なみの多頻度乗車割引システムと、分割購入問題の是正を行うべきである。メトロ・都営特殊割引連絡乗車券の時間制限の撤廃は一番簡単だが、これらの対策がすべて終わってからにしてほしい。