1円刻みより1キロ刻みに

JR東日本など首都圏の鉄道事業者は、2014年4月の消費税率の引き上げに際し、ICカード乗車券利用の運賃を1円刻みとする方針を示している。増税額をきめ細かく、利用者に平等に転嫁するためとされる。これに対して、IC乗車券の普及率が低い他の地区の事業者は、二重運賃を回避するため、10円刻みの運賃を継続する方針。報道では、1円刻みか10円刻みかという言葉だけが先行し、消費税の転嫁がどのように行われ、実際の運賃がどうなるか示されていない。
JRの旅客営業規則は、JR本州三社幹線の運賃計算方法を次のように定めている。

  • 発着区間営業キロを300キロまで、600キロまで、601キロ以上に3区分し、それぞれの営業キロに対する賃率を乗じた額を合計し、発着区間営業キロが100キロメートル以下のときは、10円未満の端数を10円単位に切り上げ、100キロメートルを超えるときは、100円単位に四捨五入する(第77条第1項第1号)。
  • 算出した額に消費税5%を乗じ、10円単位に四捨五入する(第77条第1項第2号)。
  • 発着区間営業キロは、各キロ地帯(11キロから50キロまでは5キロ刻み、51キロから100キロまでは10キロ刻み、101キロから600キロまでは20キロ刻み、601キ以上は40キロ刻み)の中央値を適用する(第77条第2項)。
  • 営業キロが10キロメートルまでの運賃は、賃率によらず特定する(第84条第1号)。

本州3社幹線の100キロまでの運賃を試算すると、次のようになる。1円刻みというが、各段階を1円単位で計算するか、消費税のみを1円単位で計算するかによって運賃は異なる。
Aは現行計算方法で、税率を8%として計算したもの。Bは税前運賃までは現行方法で計算し、消費税だけを1円単位としたもの。Cは税前運賃を賃率にしたがって計算し(0.1円単位)、消費税を上乗せし1円単位に切り上げたものである。なお、10キロまでの運賃は税込運賃が特定されているので、斜体字で示した税前運賃は税込運賃から逆算した。この方法では、従来通りの10円刻みの券売機の運賃(A)がBまたはCより安いキロ帯もあり、IC乗車券の利用がつねに得になるわけではない。

営業キロ中央値税前運賃現行運賃ABC
1-3130140150141144
4-6170180190184186
7-10180190200195196
11-1513220230240238228
16-2018300320320324315
21-2523380400410411403
26-3028460480500497490
31-3533540570580584578
36-4038620650670670665
41-4543700740760756753
46-5048780820840843840
51-6055900950970972963
61-706510601110114011451138
71-807512201280132013181313
81-908513801450149014911488
91-1009515401620166016641663
税前運賃を10円単位(100キロ超は100円単位)で計算し、さらに10円単位で四捨五入する現行の計算方法は、対キロ運賃とのかい離が広がる原因になる。とくに、100キロ超の税込運賃を10円単位とするならば、税前運賃の計算を100円単位で四捨五入する必要はない。
この運賃計算方法が乗車券を分割したほうが運賃が安くなる矛盾の原因となっている。私鉄シフトの区間特定運賃などの個別の理由でなく、キロ地帯制を併用した対キロ制運賃というJRの運賃計算ルール自体に矛盾の根源がある。本州三社幹線の25-30キロ帯の運賃は、中央値の28キロで計算するから、10-15キロ帯(13キロで計算)の2区間に分割できれば、26キロ (13キロ x 2)の運賃でよいことになる。実際に25-30キロの運賃は480円であり、10-15キロの運賃230円を2倍した460円よりも高い。電車特定区間で賃率は異なるが、東京・横浜間450円を蒲田で分割すると、210円x2の420円となる。
1円刻みとするのではなく、1966年以前の1キロ刻み運賃を復活すべきではないか。11キロから30キロまでの運賃を試算すると次のとおり(消費税を加算して、10円単位、1円単位に切り上げ)、分割購入問題は解消する。現行運賃から10%以上値上げとなる営業キロがあるが、これは理解を求めるしかない。10円刻みと1円刻みの消費税額の差は小さく、IC乗車券の運賃を券売機運賃と同じ10円刻みとしても問題はないだろう。
営業キロ現行運賃税前運賃10円刻み1円刻み
11230178.2 200-30193-37
12230194.4 210-20210-20
13230210.6 2300228-2
14230226.8 2502024515
15230243.0 2704026333
16320259.2 280-40280-40
17320275.4 300-20298-22
18320291.6 3200315-5
19320307.8 3402033313
20320324.0 3503035030
21400340.2 370-30368-32
22400356.4 390-10385-15
23400372.6 410104033
24400388.8 4202042020
25400405.0 4404043838
26480421.2 460-20455-25
27480437.4 4800473-7
28480453.6 4901049010
29480469.8 5103050828
30480486.0 5305052545
ちなみに、1キロ刻みはJRの通学定期運賃に採用されている(1-3キロの初乗り運賃を除く)。なぜか、35キロあたりまでの対キロ運賃が割高で、それ以降はほぼ距離比例的な特殊な運賃体系である。