京成成田新高速鉄道の運賃・料金

成田高速鉄道アクセス株式会社は、北総鉄道印旛日本医大駅から延伸して成田空港高速鉄道接続点に至る路線を建設中である。2010年春に予定されている完成後、京成電鉄が第2種事業者として、新型スカイライナーおよび途中主要駅に停車する特急の運転を開始する。新線の運賃・料金には次の点が絡んでおり、どのように決まるか興味がある。
1.設備投資のリターン
新線開業によってスカイライナーの所要時間は、現在の日暮里・空港第2ビル間の最短51分が36分に短縮される。JRに対する競争力も格段に向上する。設備投資(京成は自ら投資を行わず、使用料を支払うだけだが)によって旅客の効用が増大するので、運賃・料金をJRの成田エクスプレス並みに値上げして回収したいところだ。
しかし次の表に見るように、短絡線の開業によって所要時間を短縮しても、運賃・料金は逆に値下げとなるのが過去の例である。鉄道が対キロ制や対キロ区間制によって、乗車距離に応じた運賃システムを採用しているためである。

路線 時期 区間 旧所要時間 新所要時間 旧運賃・料金 新運賃・料金
石勝線 1981/10 札幌・帯広 3:53 3:09 5,500 5,100
智頭急行 1994/12 大阪・鳥取 4:11 2:35 6,990 6,770

智頭急行のように賃率の高い第3セクターを経由する場合でも、値下げとなった*1。多額の設備投資をして旅客の便宜を図っても、事業者が報われないシステムなのである。新線開業による時間短縮効果で需要が増えることが、事業者にとっての投資のリターンなのだ。
京成の新線は、北総鉄道千葉ニュータウン鉄道成田高速鉄道アクセス及び成田空港高速鉄道が第1種又は第3種事業者として所有する路線を通過するので、この区間に自社の第1種区間の賃率以上の加算運賃を設定するだろう。しかし、2点目を考慮すると新線経由の運賃を現行ルートよりも高くすることはできず、特急料金を値上げすることになるのだろう。
2.環状線の運賃
新線の開通により、京成も環状線を有する鉄道事業者の仲間入りをする。環状線内においては乗車経路に関わらず最短経路で運賃を計算し、または最短経路の乗車券でう回乗車を認めるという取り扱いが一般的である。自動改札機は、ICカード乗車券を使用する場合、最短経路の運賃を引き落とすように設計されている。JR以外の環状線区間を有する事業者の路線では、東急渋谷駅、神戸市営地下鉄三宮駅三宮・花時計前駅(いずれもラッチ外乗継であり、乗車経路が確定できる)を経由する場合を除いて、すべてこの取扱がされている。
空港第2ビル駅と成田空港駅では、本線経由の列車と新線経由の列車が同じホームを使用することになり、乗車経路にかかわらず同一運賃とせざるを得ないだろう。
3.運賃の逆転
北総鉄道の運賃は、高砂・印旛日本医大間32.3キロ820円と高い。京成上野・印旛日本医大間は1,070円で、現行の京成上野・成田空港間の運賃1,000円よりも高い。新線経由の京成上野・成田空港間も現行運賃を踏襲すれば、長距離の運賃が安い逆転現象が生じる。ノンストップのスカイライナーだけならまだしも*2、印旛日本医大停車の特急も運転されるので、これは是正せざるを得ないだろう。
北総鉄道の運賃については、以前から値下げの要望があり、東京新聞の記事によると、9月5日、県と沿線六市二村の首長が北総鉄道に対し、2010年4月から5年間、5%の値下げ要請を行ったという。5%値下げしても、高砂・印旛日本医大間は780円、京成上野・印旛日本医大間は1,030円であり、逆転現象は変わらず、これでは不十分である。

*1:唯一の例外は1964年10月の東海道新幹線で、在来線の線増ということで運賃は変更しなかったが、特急料金を値上げした。

*2:フランスのTGVの運賃は、航空機との競合によって長距離区間のほうがやすく設定されている例がある(佐藤芳彦「図解TGV vs.新幹線」)。