日本鉄道旅行地図帳

「日本初ありそうでなかった正縮尺の鉄道地図」というキャッチコピーの新潮社「日本鉄道旅行地図帳」全12巻が完結し、累計135万部を突破したそうだ。単純に12冊で割ると、日本には10万人以上の乗り鉄がいるということになる。
鉄道地図の代表は、時刻表の索引地図だろう。青木栄一氏の「鉄道の地理学」には、「鉄道路線の地図を読む」と題した補章があり、

鉄道で旅をする人にとっては、線路の曲線や列車の進行方位などは特に知る必要はない。何よりも目的とする駅に行くのに、利用する経路や線名、どの駅で乗り換えるのか、何番目の駅で降りるのか、といったことがわかれば、鉄道路線図への最低限の要求は満足されるのであって、これさえ正しく表現してあれば、縮尺や方位は無視してもよい要素といえる。
そうであるならば、鉄道の地図は鉄道路線と駅、路線の交差点や分岐点がすべて漏れなく、かつ駅などの相対位置が正確に表現されていればよいことになる。場所によって縮尺を変え、位置関係をデフォルメした地図でも、鉄道路線図としては十分役立つのである。

と、位相図としての鉄道地図の特徴を記している。
現在発売されているJTBの時刻表5月号には、通巻1000号記念の別冊特別付録として、昭和21年2号の索引地図がついている。B6判見開き2ページ5枚の全国版地図と東京附近と京阪神名附近の拡大図各1ページからなる。この地図は、現在の時刻表の索引図と比べると、デフォルメの度合いが強い。索引地図は、その後全国版2ページ見開き6枚という構成になり、現在まで続いているが、1967年10月号からB5版に大型化したことにより、北海道、東北、中国・四国、九州のページは、実際の形にかなり近くなった。
ところで、一般人が旅行するのには、青木氏が書いているとおり時刻表の索引地図で十分だろう。しかし「線路の曲線や列車の進行方位」を無視できない乗り鉄にとっては、これでは満足できない。宮脇俊三氏は、車窓観察用に、国土地理院の20万分の1地勢図を携行したという。また、北海道の索引地図が実際の形に近くなったとはいえ、これから新札幌・厚別間などのいわゆる「鉄のぬけ道」を探すことはできない。新潮社のシリーズは、このような乗り鉄の要求にこたえ大ヒットとなった。