「むさしの」と「しもうさ」の運賃計算経路について書いた2014年8月2日の記事のコメントで、非営業線区を経由する臨時列車に関する国鉄時代の基準規程20条の教示を受けた。「しもうさ」の運賃計算経路について新たなコメントがあった機会に、民営化時に廃止された旧国鉄の旅客営業取扱基準規程20条(1974年4月現行)を紹介する。
(旅客の非営業線区における臨時取扱方)
第20条 旅客の非営業線区を経由する臨時列車を運転し、旅客の取扱いを行う場合は、順路による旅客の営業線を経由したものとして取り扱うものとする。ただし、次に掲げる旅客の非営業駅に着発する場合は、各そのかつこ内のキロ程によりその取扱いをするものとする。
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(参考) |
(1) 塩釜港 |
(陸前山王・塩釜港間 |
4.9km) |
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(1) 塩釜港 |
(陸前山王・塩釜港間 |
4.9km) |
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(2) 東新潟港 |
(越後石山・東新潟港間 |
6.0km) |
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(3) 沼垂 |
(越後石山・沼垂間 |
4.0km) |
(2) 隅田川 |
(三河島・隅田川間 |
3.2km) |
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(4) 隅田川 |
(三河島・隅田川間 |
3.2km) |
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(北千住・隅田川間 |
4.3km) |
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(北千住・隅田川間 |
4.3km) |
(3) 小名木川 |
(小岩・小名木川間 |
8.6km) |
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(5) 小名木川 |
(亀戸・小名木川間 |
2.1km) |
(4) 越中島 |
(小岩・越中島間 |
11.7km) |
(5) 汐留 |
(品川・汐留間 |
4.9km) |
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(6) 汐留 |
(品川・汐留間 |
4.9km) |
(6) 名古屋港 |
(名古屋・名古屋港間 |
8.0km) |
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(7) 名古屋港 |
(名古屋・名古屋港間 |
8.0km) |
(7) 白鳥 |
(名古屋・名古屋港間 |
4.9km) |
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(8) 白鳥 |
(名古屋・名古屋港間 |
4.9km) |
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(9) 浜大津 |
(膳所・浜大津間 |
2.2km) |
(8) 浪速 |
(大正・浪速間 |
3.1km) |
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(10)浪速 |
(大正・浪速間 |
3.1km) |
(9) 大阪港 |
(大正・大阪港間 |
6.6km) |
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(11)大阪港 |
(大正・大阪港間 |
6.6km) |
(10)高砂港 |
(高砂・高砂港間 |
1.7km) |
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(12)高砂港 |
(高砂・高砂港間 |
1.7km) |
(11)浜多度津 |
(多度津・浜多度津間 |
2.2km) |
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(13)浜多度津 |
(多度津・浜多度津間 |
2.2km) |
(12)坂出港 |
(坂出・坂出港間 |
2.9km) |
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(14)坂出港 |
(坂出・坂出港間 |
2.9km) |
(13)門司埠頭 |
(門司・門司埠頭間 |
5.2km) |
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(15)門司埠頭 |
(門司・門司埠頭間 |
5.2km) |
(14)博多港 |
(香椎・博多港間 |
7.8km) |
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(16)博多港 |
(香椎・博多港間 |
7.8km) |
参考として右側に記した区間は、「旅客及び荷物営業細則」8条(1962年現行)のものである*1。1962年現行の細則8条は平林喜三造「旅客営業規則解説」に記載されていたもので、同書はこの規定について次のように解説している。
旅客の非営業線区に団体又は貸切運送若しくは引揚者等の特殊運送が、臨時列車を運転して行われる場合、いかなる運賃計算をするかについては、すべて順路による旅客営業線*2を経由したものとして取り扱うこととしている。この順路による旅客営業線とは、その臨時列車による運送が行われなければ当然経由するであろう通常の定期列車による運送経路によるのである。
とし、例として、東海道線から千葉方面への臨時列車(東海道線→品鶴線→山手貨物線→金町→新小岩→千葉)は、東海道線→東京→秋葉原→千葉の順路で運賃計算するとしている。さらに、
旅客の非営業線区を経由する臨時旅客列車による運送営業は若干あるが、まれにはこの非営業線区に発着する臨時列車による旅客運送営業が行われることがある。例えば、小名木川発成田行の臨時列車とか上野発沼垂行の臨時列車等である。
これらの場合には、対応する旅客キロ程がないので、それぞれ貨物キロ程を使用することとしているが、便宜上具体的にその区間とキロ程が本条に明示されている。
旧20条は当時の旅客営業規則14条の「旅客運賃・料金の計算その他の運送条件をキロメートルをもつて定める場合は、別に定める場合を除き、鉄道営業キロ程・航路営業キロ程又は自動車線営業キロ程による。」の「別に定める場合」を規定したものだった。解説から分るように、団体等の臨時列車の運転ルートのキロ程に関するきわめて特殊な規定である。例に挙げている区間は、実乗キロよりも「順路」の運賃計算キロが短い区間であり、旅客にとって有利な取扱いを内規で定めたともいえる。
JR化後、営業キロが「順路」よりも短い短絡線を経由する定期列車が運転されるようになった。旅規は67条で「旅客運賃・料金は、旅客の実際乗車する経路及び発着の順序によって計算する。」と定めているが、短絡線を経由する運賃計算の例外規定は存在しない。
現行の旅規14条は、
(営業キロ)
第14条 旅客運賃・料金の計算その他の旅客運送の条件をキロメートルをもって定める場合は、別に定める場合を除き、営業キロによる。
2 前条の営業キロは、旅客の乗車する発着区間に対する駅間のキロ数による。
1項に「別に定める場合」が残っているが、現在は運賃計算キロ又は擬制キロを指すと解釈される。2項は、1980年4月20日「キロ程」を「営業キロ」に改定したときに挿入されたものである。「駅間のキロ数」は、営業キロが存在しない短絡線を意識しているのかもしれない。湘南新宿ラインは旧蛇窪信号場の短絡線を経由するが、大崎・西大井間に「駅間のキロ数」は存在せず、大崎・品川・西大井間のキロ数を使用すると、読ませようとしているのか。「旅客の乗車する区間」ではないのだが。
しかし、「むさしの」が経由する西浦和・与野間には4.9キロの駅間の営業キロが設定されている、JR東日本の第1種事業区間である。「むさしの」の運賃計算経路(西浦和・武蔵浦和・中浦和・大宮)は、実乗ルートよりも1.8キロ長い。2014年8月2日の記事に「西浦和・与野(短絡線)経由の運賃計算を認めてしまうと、武蔵浦和経由の運賃計算が有名無実化してしまうので、それを避ける意図があるのでは」とのコメントがあった。たしかに西浦和・与野間を運賃計算経路とすると、東京近郊区間内相互発着の乗車券では、「むさしの」の乗車だけでなく武蔵浦和で乗継ぐ場合にも適用されてしまう。
これを回避するには、旅規の明文規定が必要である。旅規に頻出する「旅客運賃計算経路」を定義し、非運賃計算経路を明示すべきである。6月1日の記事にコメントがあった、新垂井線を運賃計算経路から除外する根拠規定としての意味もある。