国鉄・JR回数券制度の歴史

このところ回数券関連の記事が続いているが、「日本国有鉄道百年史」と「国鉄乗車券類大事典」(近藤喜代太郎・池田和正著、JTB、2004)を参考にして、国鉄・JRの回数券制度の歴史を調べた。国鉄が初めて回数乗車券を発売したのは、1900(明治33)年11月1日であるが、それ以前、1891(明治24)年7月19日讃岐鉄道が、1897(明治30)年5月1日甲武鉄道が回数券を発売していた。讃岐鉄道の回数券は、30回乗車、25%割引、2ヶ月有効、記名式で「定数乗車券」と称していた(「大事典」p154)。甲武鉄道は、「従来の定期乗車券を廃し、回数乗車券を設けた」(「百年史」第4巻、p359)とあるが、その詳細は書かれていない。
1900年以降の国鉄・JRの回数乗車券について、発売条件(発売区間、券片数、割引率、有効期間等)の変遷を年表にまとめた。

1900/11/01 京浜・京阪神等の指定17区間*1・等級、50券片、20%、90日有効。無記名式。大人のみ
1903/03/16 25券片、20-30%*2。記名本人および家族・家事使用人(僕婢)に限る。大人用を小児2名が使用可
1913/01/01 各駅相互間・各等
1918/08/01 「回数券規程」施行。関門航路等の航路回数券発売
1920/02/01 「家族・家事使用人」を、「同行者四名以内」に変更
1921/01/11 1等回数券廃止
1921/01/11 国有鉄道旅客及荷物運送規則・国有鉄道旅客及荷物運送取扱細則施行*3

この旅規の第47条は、回数券の効力規定であるが、

第四十七條 大人用回数乗車券ハ其ノ一片ヲ以テ小児二名、小児用回数乗車券ハ其ノ二片ヲ以テ大人一名之ヲ使用スルコトヲ得ルモノトス

となっている。前段は、後述のとおり1957年4月復活し、現行の旅規に継承されている。後段の規定は、「百年史」にも「大事典」にも記されておらず、いつまで存続したのか定かでない。

1924/04/17 特殊回数乗車券(東京電車特定運賃区間、10・20券片、無割引*4、無記名)
1930/04/01 普通回数乗車券を16券片、10-20%割引に変更
1932/08/01 特殊回数乗車券を16券片、10%割引に変更
1937/06/01 普通記名回数乗車券(460km以内、2・3等、16券片、20-28%、3ヶ月有効)
特殊記名回数乗車券(定期乗車券使用の家族および農夫・漁夫限定。20-100km、16券片、3等、34-40%引、3ヶ月有効)
無記名回数乗車券(電車特定運賃区間、2・3等、16券片、10%、3ヶ月有効)
1942/04/01 100キロメートル以内、20券片、5%、6ヶ月有効。すべて無記名式

戦時中及び終戦直後は、「百年史」と「大事典」とで、記述が異なる。「百年史」(第11巻、p56)は

昭和19年4月「旅客及荷物戦時特例」の実施により廃止された。昭和24年5月10券片制、通用1か月、1割引として復活された。

となっているが、以下の年表は「大事典」によった。

1944/04/01 特殊回数乗車券(東京・大阪の省電区間20km・25銭まで、20券片、無割引、3ヶ月有効)
1944/07/01 「旅客及荷物戦時特例」の実施により廃止
1945/04/01 東京環状線内均一回数券(15券片、3ヶ月有効)
1945/11/10 電車区間に回数券復活(10券片、無割引)
1946/03/01 一般回数乗車券(20券片、3ヶ月有効、無割引)、都区内均一回数乗車券(10券片、3ヶ月有効)、電車環状線内回数乗車券(15券片、3ヶ月有効)、宇品線均一回数乗車券(20券片、3ヶ月有効)
1947/07/07 大阪市省線電車均一回数乗車券を加え、各均一回数乗車券を10券片、3ヶ月有効に変更
1948/07/18 普通回数乗車券(電車区間内相互、10券片、10%、1ヶ月有効)。大阪市省線電車均一回数乗車券廃止
1949/07/30 横須賀線2等、電車区間3等、自動車線(10券片、10%、1ヶ月有効)
1949/12/21 東京電車区間(横須賀・中央線)2等回数乗車券(10券片、30%、1ヶ月有効)
1951/11/01 3等:100キロまで、青函・仁堀を除く航路、自動車線内、11券片・10券片分の運賃、1ヶ月有効。2等:国鉄指定区間、22券片・20券片分の運賃、2ヶ月有効

1951年時点で、現行の10回分の運賃で11券片という普通回数券の運賃が確立した。その後の変化は、効力規定の改定と均一回数券、急行回数券等の改廃である。

1957/04/01 大人用普通回数乗車券1券片を小児2名が使用可。4券片分を同時に使用可
特殊回数乗車券(都区内(含む吉祥寺)の20円区間、10券片、150円、1ヶ月有効)発売
宇品線内均一回数乗車券廃止

以下は、旅規ポータルの旅規改訂履歴1958-1987(日付順)JR東日本旅規改訂履歴(日付順)で、旅規条文の変遷を確認できる*5

1960/07/01 等級制変更(旧1等廃止、2等→1等、3等→2等)
1961/04/06 特殊回数乗車券廃止。東京都区内均一回数乗車券の範囲に吉祥寺を追加
1965/06/15 2等は2ヶ月有効(自動車線内各駅相互間は3ヶ月有効)、1等4ヶ月有効
1965/10/01 普通回数乗車券の発売区間(鉄道)を200キロまで拡大、同時使用4人までの制限を撤廃
自動車線特殊回数乗車券(金券式、無期限有効)発売
1966/03/05 通学用割引普通回数乗車券(通信制高校生用、11券片・5券片分の運賃(50%引)、6ヶ月有効)及び自由席特急回数乗車券(新幹線、10券片、10%引、2ヶ月)発売
1967/03/01 普通回数乗車券は1・2等とも、11券片・10券片分の運賃、3ヶ月有効に変更
均一回数乗車券を11券片・10券片分の運賃、3ヶ月有効に変更
自由席特急回数乗車券を11券片・10券片分の運賃料金、3ヶ月有効に変更
1967/08/01 普急・準急回数乗車券(11券片・10券片分の運賃料金、3ヶ月有効)発売、自由席特急回数乗車券と併せて急行回数乗車券と総称
1968/04/01 1等普通回数乗車券の有効期間を1ヶ月に短縮
1969/05/10 モノクラス制の採用により、旧1等普通回数乗車券を廃止、旧2等普通回数乗車券を普通回数乗車券と改称
特別車両急行回数乗車券(新幹線・普通急行、11券片・10券片分の運賃料金、3ヶ月有効)発売
1969/07/01 特別車両普通回数乗車券(11券片・10券片分の運賃・料金、1ヶ月有効)発売、普通回数乗車券を一般普通回数乗車券と改称
1981/04/20 特別車両普通回数乗車券を6券片、10%引、1ヶ月有効に変更
1985/04/01 通学用割引普通回数乗車券を放送大学生向に発売(11券片・8券片分の運賃(20%引)、6ヶ月有効)
1988/10/01 回数券の同時使用条項廃止
1992/09/15 急行回数乗車券廃止
2000/02/01 均一回数乗車券廃止
2002/10/01 自動車線特殊回数乗車券廃止
2004/10/16 特別車両普通回数乗車券廃止

*1:京浜・京阪神が中心だが、名古屋・一ノ宮間、金沢・松任間が含まれている。区間ごとに発売等級が定められていた

*2:距離により割引率が異なった

*3:それまでの単行規程を整理統合。これに伴い、回数券規程は廃止

*4:特定運賃が割引運賃であり、重複割引を避けたためとされている

*5:国鉄時代は鉄道広報に掲載された旅規改正公示による。民営化以降は各社の社報に掲載される旅規改正公告が公開されていないので、小布施由武著「JR旅客営業制度のQ&A」(中央書院)の巻末に掲載されている旅規の改定日と条番号から、その前後の冊子版旅客営業規則を読み比べて、改定内容を特定したもの