続・モノクラス制移行半世紀

5月10日の記事モノクラス制半世紀に、「国鉄がモノクラス制に移行したのは運賃法定制の制約を逃れるため」というコメントがあった。現在発売中の「鉄道ファン」9月号の特集は「グリーン車50年」で、須田寛氏のインタビュー記事が掲載されている。須田氏は1969年当時国鉄旅客局調査役*1で、このコメントを裏付ける証言をしている。

当時は一等運賃と二等運賃が両方とも法律で決まっていました。一等運賃は二等の1.66倍、通行税を入れて2倍と決まっていたのです。この一等運賃を法律から外して設備利用料金にすることによって、それは認可制になりますから、線区によって料金を変えることができるわけでしょう。そういう弾力的に運用することも考えてモノクラス制に移行したのです。

鉄道ファン記事の聞き手は福原俊一氏。同じコンビの「須田寛の鉄道ばなし」(JTBパブリッシング、2012年)を読み返すと、須田氏は同じ話をしていた(p83-84)。この箇所が頭に残っておらず、前記事には「日本国有鉄道百年史」に記載されていた「設備格差の縮小、利用実態の変化等を考慮して、1本立ての制度に改めたという」という国鉄の公式見解を記した。国鉄の正史である「百年史」の刊行が開始されたのは1972年。国鉄時代に法定運賃の緩和策などという、あからさまな表現はしなかったということか。

須田氏は、鉄道ファンの記事で、モノクラス制移行の前段階として、昭和30年代初めに国鉄が外部の有識者により設置した鉄道運賃制度調査会について話している。調査会は次のような答申を出したたとのこと。

  • 遠距離逓減制から距離比例制へ
  • 三等級制から二等級制またはモノクラス制へ
  • 近距離の特急急行料金の弾力運用
  • 運賃を法律で規定するのはなじまない
  • 定期券割引率の低下
その結果、1960年7月の運賃の二等級制への移行と合わせて、遠距離逓減運賃が4段階から2段階となり*2、また料金については、法定から大臣による認可制となった。

ところで、線区別のグリーン料金の弾力的運用について須田氏は、

総武快速横須賀線が直通するとき、横須賀線グリーン車総武線にそのまま入っても乗ってもらえないだろうと言われました。実際に当初は乗車率がよくなかったので、総武線だけ安いグリーン料金を作ったりしましたが、そのうち多くのお客さまに乗ってもらえるようになりました。

と述べている。記事には「快速のグリーン料金が大巾に割引になりました」という総武快速データイムグリーンきっぷの案内チラシの画像が掲載されている。画像は小さくて読み取りにくいが、

  • 10時以降快速電車のグリーン車を往復ともご利用になる場合に発売します。
  • 発駅*3~品川駅において快速電車のグリーン車に乗車できます。
  • 途中下車しない場合は後続のグリーン車に乗車できます。
  • 発売当日のみ有効です。
  • 途中下車はできません。

が発売条件のようだ。後続のグリーン車乗車は、グリーン券は1列車に有効という原則に反している。しかし、1枚のグリーン券による首都圏の普通列車間のラッチ内乗継は、2004年に基準規程101条の2に規定される以前から、ローカルルールとして認められていた。

データイムグリーンきっぷをウェブで検索しても「データイムグリーン料金回数券」ばかりで、ヒットしない。一つだけ見つけたのが、Google Booksの総武線120年の軌跡の次の箇所。

横須賀線では特にラッシュ時など立ち客も出るほどの乗車率のグリーン車であるが、これが総武線に直通した場合に乗客がつくのか心配された。当初こそデータイムグリーン券などの割引きっぷで乗客増が図られたが、次第に乗客も増え、この懸念は払しょくされた。

この「データイムグリーン券」が「データイムグリーンきっぷ」のことだろう。「当初」というから、1980年10月の横須賀線直通開始時点から発売されていたようだ。

追記(8月11日):コメントにあったように「データイムグリーンきっぷ」は、あまり知られていなかったようだ。筆者も「鉄道ファン」の記事で初めて知った。須田氏は「須田寛の鉄道ばなし」でも、「総武線だけ安いグリーン料金を作った」と同じことを言っているが、「データイムグリーンきっぷ」については書かれていない。

筆者は、これが「データイムグリーン料金回数券」の前身だったのではないかと思う。しかし、「グリーン回数券」がいつから発売されたのかもはっきりしない。Wikipediaには、「2004年10月15日限りで廃止」とあるだけで、発売開始日については書かれていない。

2004年10月16日は、湘南新宿ラインの全列車にグリーン車を連結し、南北直通運転を開始した日である。「グリーン回数券」使用範囲の拡大の前に廃止されたことになる。最低運賃による近郊区間大回り乗車でこれを使ってみようと考えていた*4が、実行しないうちに廃止されてしまった。

またこの日は、首都圏の普通列車グリーン車のラッチ内乗継が旅規58条3項と基準規程101条の2に規定された日でもある。

追記2(8月12日):8月11日のコメントについて追記する。

総武快速データイムグリーンきっぷ」が料金券なのか、乗車券一体型なのかは、筆者も気になっていた。鉄道ファン掲載のチラシに料金欄があるが、字が小さくて読み取れない。これが解読できれば、どちらかわかる。

コメントに書かれている「グリーン回数券」は、旅規に規定されていた「特別車両普通回数乗車券」のことだろう。従来の一等回数券の代替として、乗車券と特別車両券とを1券片として発売したもので、1969年7月1日旅規に規定され、これも2004年10月16日削除された。旅規規定の「特別車両普通回数乗車券」があったから、特別企画乗車券である「データイムグリーン料金回数券」は、「料金」を挿入し、料金券であることを示したと思われる。

なお、昨日の追記で「データイムグリーン料金回数券」を「グリーン回数券」と略記したために、誤解を生じたかもしれない。昨日書いたのは、あくまでも「データイムグリーン料金回数券」のことである。

*1:その後国鉄旅客局長、JR東海社長・会長などを歴任、現在はJR東海相談役

*2:その後1979年5月、現行の3段階となる

*3:発売駅は千葉、稲毛、津田沼船橋

*4:その後ホリデーグリーン券で実行した。2013年12月16 日記事参照。