続々・大正時代の環状線の運賃計算

最後に第3項

3 環状線の一部が他の環状線の一部となり二箇以上連続せる環状線の外郭を旅客が各箇に付四分の三以上に亙り迂回乗車するときは、其の外郭を以て一箇の環状線と看做す。

の例。
例4 長野−直江津米原−名古屋−塩尻−新宿−池袋−赤羽−大宮−篠ノ井

共通部分(塩尻篠ノ井)を経由せずA、Bの外郭のみを経由するのでA、Bの外郭を「一箇の環状線と看做」し、3/4ルールを適用する。

(1)乗車哩702.0
(2)A環状線480.8長野−直江津米原−名古屋−塩尻篠ノ井−長野
(3)同上3/4361.0(2)x3/4
(4)同上乗車哩432.9長野−直江津米原−名古屋−塩尻
(5)B環状線311.2塩尻−新宿−池袋−赤羽−大宮−篠ノ井塩尻
(6)同上3/4234.0(5)x3/4
(7)同上乗車哩269.1塩尻−新宿−池袋−赤羽−大宮−篠ノ井
(8) AB連続環状線707.8篠ノ井直江津米原−名古屋−塩尻−新宿−池袋−赤羽−大宮−篠ノ井
(9)同上3/4531.0(4)x3/4
(10)同上乗車哩702.0長野−直江津米原−名古屋−塩尻−新宿−池袋−赤羽−大宮−篠ノ井
(11)同上打切り哩171.0(10)-(9)
(12)通算哩531.0(1)-(11)
運賃:
打切り分(11)171.03円51銭
通算分(12)531.08円01銭
11円52銭
7段階の賃率という遠距離逓減運賃のもとで、これを本来の長距離乗車に適用しようとした制定の趣旨は理解できる。極端な迂回乗車を環状線運賃の3/4ルールと途中下車回数の制限によって、回避しようとしたのだろう。また環状線が連続する場合、ルート全体の迂回度によって3/4を判定するという規定もよく考えられており、それなりに合理的である。
しかしなんといっても複雑な規定である。コンピュータはおろか電卓もない時代に、そろばんでこんな計算をしたのだろうか。発券にはかなり手間取ったと思う。
いつ3/4ルールが廃止されたのかはさだかではない。一方途中下車回数の制限は、全く途中下車をしない旅客が総旅客の96%だったため、昭和7(1932)年8月1日の旅規改正の際廃止された*1。3/4ルールの廃止も、極端な迂回経路の乗車券を購入する旅客が少なかったため、複雑な規定を維持する必要性が薄れたということかもしれない。

*1:日本国有鉄道百年史」第8巻、p51