モノクラス制半世紀

50年前の1969年5月10日は、等級制が廃止され、モノクラス制となった、日本の鉄道開業以来最大の旅客制度変更があった日である。この制度改定についての国鉄の公式見解は、

1等車と2等車の設備格差の縮小、利用実態の変化等を考慮して、1等運賃・料金を廃止し、従来の2等運賃・料金による1本立ての制度に改め、等級呼称を廃止することとした。(「日本国有鉄道百年史」第13巻p104)

ということである。

本音は、航空機との競合等を意識して、1等の運賃・料金を値下げしたかったのだろう。諸外国のように等級制を残して1・2等運賃の格差を縮小することもできたが、「金持ち優遇」と反発されるのを嫌って、運賃・料金体系を変更したのではないか。

初期の制度は、1等乗車券の実質を変えずに料金制度のなかに位置付けたものだった。グリーン券に特定都区市内制度を適用したため、大刻みのキロ地帯別料金によって、国鉄の意図に反して普通車との格差が拡大した例もでた(以上旅規ポータルの等級制からモノクラス制へ参照)。1974年10月1日の旅規改定で実質的な料金制となり、この矛盾は解消した。

それ以前の1960年6月1日のダイヤ改正で「つばめ」・「はと」の電車化により1等展望車が廃止され、7月1日の旅規改定で3等級制から2等級制になった。2011年3月東北新幹線に誕生したグランクラスは、3等級制時代の1等車の復活といえる。新幹線車両にも在来線と同じ形式番号が付番されるなら、「クイXXX」となっていたことだろう。

 

国鉄末期とJR発足時の旅規・基準規程対比

旅規ポータルに旅客営業規則対比(1985vs1987)旅客営業取扱基準規程対比(1985vs1987)を掲載した。国鉄末期の1985年7月10日現行の規則・規程とJR発足時の1987年4月1日施行のものとを対比したもの。なお、1985年時点の第9章旅行券はギフトカード及びオレンジカードに変更になり、第11章に旅行業務があったがこれらの章は対比していない*1

この間1986年9月に運賃・料金の改定があったが、旅客制度の大きな変更はなかった。このため、旅規の目次の変更は、次の条項だけである。

削除:第50条(団体旅客の提出する請書)、第56条(横が患者の運送)、第197条(準常備連続乗車券の様式)、第239条(手荷物託送乗車券の旅客運賃の払いもどし)、第325条(遺失物の回送)

新設:第14条の3(他の旅客会社線を通じて連続乗車する場合の営業キロ、賃率換算キロ又は運賃計算キロの通算)、第244条の2(新幹線の特別急行列車の個室に有効な乗車券類を所持する旅客に対する乗車変更の特殊取扱)、第263条の2(新幹線に乗車する場合の特殊取扱)

見出し変更:第78条(東京山手線内等の大人片道普通旅客運賃→電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃)、第326条(遺失物回送の特例→遺失物回送)

これらの変更条項のうち、JR発足時点のものは、旅客会社の分割による14条の3と263条の2*2。244条の2は100系新幹線グリーン個室が運転開始された1985年10月1日、78条は86年9月1日の運賃改定時、その他は国鉄最後の制度改定があった86年11月1日付である*3

基準規程の対比はもっと興味深い。旅規の変更に関連するものとともに、国鉄からJRへの組織変更に伴うものがある。後者はとくに興味深く、JRの基準規程で「別に定める」とされている条項が国鉄時代には具体的に記載されていた。たとえば、25条(定期乗車券等の発売駅の決定)は、旅客局長、鉄道管理局長、地方自動車局部長と、券種ごとの決定者を定めていた。また、245条(回収した乗車券類の処理方)など、「別に定める」を「運輸収入規程に定める」のように準拠規程の名称を記載している。国鉄時代は、内規の規程類の達示も「鉄道公報」に記載されており、情報公開という点では、国鉄時代のほうが進んでいた。

なお、国鉄時代の20条(旅客の非営業線区における臨時取扱方)や150条(新垂井駅発着の場合の区間外乗車の取扱いの特例)は、これまでにもこのブログで取り上げた規定である*4

 

*1:旅行券からギフトカードへの変更及びオレンジカードの新設は86/11/01、旅行業務の廃止は新会社発足時

*2:2007年12月30日記事参照

*3:以上国鉄旅規改訂履歴1958-1987(日付順)参照

*4:垂井駅は86年11月1日のダイヤ改正で廃止

国鉄連絡運輸規則(1986)掲載

2月13日記事で紹介した1970年の国鉄連絡運輸規則に続いて、旅規ポータルに日本国有鉄道連絡運輸規則(1986年11月1日現行)を掲載した。国鉄末期、民営化の4か月前の規則である。あわせて、国鉄連絡運輸規則(1986)別表国鉄旅客連絡運輸区域(1986)を掲載した。
連絡運輸規則は、本文よりも連絡運輸の対象を記載した「別表」に意味がある。JR東海が連絡運輸規則別表をウェブで公開しているが、JR全体にわたるものは1987年の民営化時点に市販されたものしかない。JR東海の別表も、旅客連絡運輸取扱基準規程別表で定めている、連絡運輸社線との連絡乗車券を発売する連絡運輸区域は記載していない(2015年8月21日記事参照)。
国鉄旅客連絡運輸区域(1986)」は、連絡運輸社線との連絡乗車券を発売する連絡運輸区域で、基準規程別表により作成した。国鉄から転換の第三セクターよりも、老舗の地方私鉄が広範囲の連絡運輸を行っている。社航路の連絡運輸区域が興味深い。島原鉄道とともに、九州商船下五島航路、上五島航路、三角・島原航路)や江崎汽船航路(水俣・牛深間航路)が阪和線和泉府中東岸和田、東貝塚和泉砂川などとの連絡乗車券を発売しているが、どういう関係があるのだろうか。また、東野交通(バス)の中央線の連絡区域が武蔵小金井だけというのも不思議である。

国鉄連絡運輸規則(1970)

旅規ポータルのアーカイブ日本国有鉄道連絡運輸規則(1970年1月1日現行)を掲載した。旅客連絡運輸規則ではなく、荷物・貨物も含めた規則だが、所持している資料に荷物・貨物編の記載がないため、旅客編のみを掲載した。
等級制からモノクラス制になった1969年5月の旅規改定直後の規則で、特別車両・船室券が旧1等乗車券に限りなく近かった時代である。当時の別表(赤表紙)は所持していないが、本文中に記載されている連絡会社線には多くの地方私鉄やバス、航路が含まれており、おそらく連絡運輸の最盛期の規則と思われる。19条の100キロ以上の乗車船に学割の適用がある社線区間には、現行規則にもある東武近鉄以外に名鉄が、また東海自動車の自動車線と関西汽船など多くの航路が含まれていた。第7章の2(連絡急行券等の発売)も興味深い。
だいぶ前に2010年10月30日の記事で書いた、連絡運輸規則の選択乗車が55条(乗車区間の選択)と56条(接続駅の選択)に規定されている。国鉄近鉄の鶴橋接続の連絡乗車券で、上本町駅から乗車できたというのは、資料を入手するまで知らなかった。
37条(特定都区市内にある国鉄線の駅に接続する社線及びその接続駅)の小田急の接続駅に、「新宿、渋谷」とあるが、渋谷は間違いだろう。その他、「但し」と「ただし」など表記の乱れがあるが原文に忠実に記載したつもりである。

旅規290条

読者からメールをもらった。JR西日本1月31日プレスリリースは、1月29日新大阪で運転取りやめになった特急サンダーバード4号について、指令員が特急料金を払い戻さないとしたのは誤りで、全額払い戻すとしているが、旅規290条に基づけば指令員の取り扱いは正当ではないかとの疑問である。
結論から言えば、本件に旅規290条は適用されず、289条2項の本則に従って全額払い戻しとなる。290条は「新大阪駅着となる急行券、特別車両券」で「大阪駅新大阪駅との区間が乗車できなくなった場合」は「すでに収受した急行料金又は特別車両料金とすでに乗車した区間に対する急行料金又は特別車両料金とを比較して過剰額の払いもどしをする」という規定であり、新大阪・大阪間で運転停止になったサンダーバード大阪駅着の特急券には適用されない。
旅規290条はもともと、東北本線常磐線にあった一部の東京駅着の急行列車が上野駅で打ち切りになったときに適用するため、1968年10月1日の旅規改定で規定された(当時の旅規290条5項として挿入)。大阪・新大阪間に旅規290条が適用されたのは、1970年3月10日の旅規改定時である。当時は、山陽本線の多くの急行列車が新幹線乗継のため、大阪経由新大阪まで運転されており、大阪まで正常に運転され、大阪・新大阪間が運行不能等になったケースに適用されたものである。その後新幹線の岡山・博多延伸開業及びブルートレインの全廃等により、新大阪発着の特急列車の多くが廃止され、現在290条の「新大阪着」が適用されるのは、新大阪発着の「こうのとり」と京都発着新大阪停車の「スーパーはくと」だけである*1
1973年4月1日の旅規改定で、本来の上野・東京間の特例が廃止*2、代わりに品川・東京間が規定され、現行の290条1項となった。民営化後、運転系統の変更にあわせて2、3項が追加され、2015年3月14日の上野・東京ライン開業により、4項としてもともとの東北本線の急行列車への適用が復活した。指令員が勘違いしたように、290条を大阪着の北陸本線特急に適用してもよいと思う。品川・東京間や上野・東京間と比べてバランスが取れていない。なぜ、現在まで旅規に規定されないのだろう。
上記の趣旨を読者にメールしたところ、読者からJR東日本「きっぷあれこれ」の事故などの場合の取り扱い

運転をとりやめた列車の特急・急行料金は全額お返しいたします。ただし、品川〜東京間(東海道新幹線を含む)、上野〜東京・品川間、大阪〜新大阪間及び東北、上越北陸新幹線の大宮〜上野・東京間または上野〜東京間のみ運転をとりやめた場合は、特急・急行料金の差額のみのお返しとなります。

と書かれている(下線筆者)ので、誤解していたと返事があった。JR西日本の説明も全く同じである。JR西日本の指令員が誤った案内をしたのも、情状酌量の余地がある。
追記(2月4日):混乱があるようなので、あらためて290条の差額払い戻しの適用範囲を整理する。

路線 下車駅 不乗区間
1項 東海道本線(含む新幹線) 新橋、東京 品川・東京間
1項 東海道本線 新大阪 大阪・新大阪間
2項 東北・上越新幹線 上野、東京 大宮・上野、上野・東京間
3項 東海道本線・山手線 品川・池袋間各駅 品川・池袋間
4項 東北本線東海道本線 上野・品川間各駅 上野・品川間

いずれも一方向のみの適用である。双方向であれば、サンダーバードにも適用されることになる。東京駅で下車する(東京駅までの特急券を所持する)成田エクスプレスの旅客はいないと思うが、品川で打ち切られば、1項を適用して差額の払い戻しとなる。
本文で「品川・東京間や上野・東京間と比べてバランスが取れていない」と書いたのは、1項の品川・東京間と2項の上野・東京間を意識していた。
3項は、池袋・新宿着のスーパービュー踊り子・踊り子で品川駅を経由しないが、ここでも仮想品川駅が想定されている。

*1:上りの「サンライズ瀬戸・出雲」は大阪に停車するが、新大阪に停車しない

*2:東北新幹線建設工事の開始に伴い、東京・上野間の回送線が使用できず、東北本線の特急列車が東京駅を発着することがなくなったたため

国鉄の再建

昭和45(1970)年出版の「国鉄の再建」を古書店で見つけた。日本国有鉄道審議室編で、交通協力会出版部の発行。
前年の「日本国有鉄道財政再建特別措置法」(S44.5.9法律第24号)の施行を受け、運輸省の「日本国有鉄道の財政の再建に関する基本方針」(S44.9.12閣議決定)に基づき、国鉄は「日本国有鉄道の財政の再建に関する経営の基本的計画」(S45.2.19)を策定した。この本は、国鉄の基本的計画に関する部内向けの解説書として刊行されたようだ。
旅客運賃制度について、興味深い記述があるので紹介する。

 現在は上野から札幌へグリーン車で行く場合、札幌までの乗車券とグリーン券、青森までの特急券・寝台券、連絡線の座席指定券、函館から札幌までの特急券といった具合に、5枚もの切符をもたないと行けないし窓口もひとつの窓口では用が足りない場合が少なくない。最近、電算端局装置で乗車券と指定券が1枚の切符で売れるようになり、また手作業の場合にも乗車券と急行券の1枚化がすすめられたりしているが、まだ不十分な点が多い。また運賃・料金の制度上も、例えば急行列車を乗りかえるごとに別に急行料金がいるなどの問題もあって、旅客にとって不便であるのはもちろん、国鉄にとっても取扱いがそれだけ複雑となり、切符の発売を機械化する場合のあい路にもなっている。
 そこで、今後は切符類はできるだけ1枚で売れるように、運賃料金制度を検討して改善を図る。

ヨーロッパのようにインターシティ運賃と都市圏内運賃を分離して、都市間運賃は急行料金込みにする構想*1だと思うが、実現しなかった。実際に検討されたのだろうか。それをいうなら、特別措置法が成立した1969年5月9日の運賃改定時点に、運賃の等級制をやめてグリーン料金制度に変更したのも、切符の1枚化に逆行する動きだった。

 現在は、全国どこでもキロ当たりいくらという運賃制度(全国一律対キロ運賃制)を採用しており、この制度は、全国鉄道輸送網の確立、地域開発の促進等に大きな役割を果たしてきた。
 しかし近年、大都市の発展が著しく、対キロに基づく運賃制度では、同一都市内発着の場合でも、駅が異なることによって運賃が相異し、運賃算定上煩雑であるばかりでなく、今後輸送の近代化をはかる上にも障害となっている。
 したがって、今後の輸送体制の近代化に即した運賃制度を考える必要があるので、例えばゾーン運賃の拡大、線区内均一運賃制度等について検討することとする。

このページには「ゾーン運賃の拡大」と題した地図がある。都区市内発着の共通運賃の六大都市が「現行」として示され、他に「拡大」として旭川地区、札幌地区、函館地区、青森地区、盛岡地区、仙台地区、秋田地区、山形地区、新潟地区、長野地区、金沢地区、鳥取地区、島根地区、広島地区、高松地区、福岡地区、熊本地区、鹿児島地区が記載されている。このうち、1972年9月1日の旅規改定で実現したのは、札幌、仙台、広島、北九州、福岡の5市にとどまっている。市内共通運賃がなぜ「輸送体系の近代化に即した運賃制度」なのか、また「線区内均一運賃制度」が何を意味するのかも不明である。
なお、この法律は第一次「日本国有鉄道財政再建特別措置法」で、昭和44年度から10年間を再建期間とする再建計画を定めているが、赤字額の増加に歯止めがかからず、昭和51年11月5日廃止された。その後第二次「特別措置法」(S55.12.27法律111号)が制定された。新法で地方交通線における割増運賃が規定され、全国一律運賃が崩れた。

*1:都市圏内運賃は他の輸送モードとの共通のゾーン運賃

基準規程旧20条

「むさしの」と「しもうさ」の運賃計算経路について書いた2014年8月2日の記事のコメントで、非営業線区を経由する臨時列車に関する国鉄時代の基準規程20条の教示を受けた。「しもうさ」の運賃計算経路について新たなコメントがあった機会に、民営化時に廃止された旧国鉄の旅客営業取扱基準規程20条(1974年4月現行)を紹介する。

(旅客の非営業線区における臨時取扱方)
第20条 旅客の非営業線区を経由する臨時列車を運転し、旅客の取扱いを行う場合は、順路による旅客の営業線を経由したものとして取り扱うものとする。ただし、次に掲げる旅客の非営業駅に着発する場合は、各そのかつこ内のキロ程によりその取扱いをするものとする。

        (参考)
(1) 塩釜港 (陸前山王・塩釜港 4.9km)   (1) 塩釜港 (陸前山王・塩釜港 4.9km)
        (2) 東新潟港 (越後石山・東新潟港間 6.0km)
        (3) 沼垂 (越後石山・沼垂間 4.0km)
(2) 隅田川 三河島隅田川 3.2km)   (4) 隅田川 三河島隅田川 3.2km)
  (北千住・隅田川 4.3km)     (北千住・隅田川 4.3km)
(3) 小名木川 (小岩・小名木川 8.6km)   (5) 小名木川 (亀戸・小名木川 2.1km)
(4) 越中島 (小岩・越中島 11.7km)
(5) 汐留 (品川・汐留間 4.9km)   (6) 汐留 (品川・汐留間 4.9km)
(6) 名古屋港 (名古屋・名古屋港間 8.0km)   (7) 名古屋港 (名古屋・名古屋港間 8.0km)
(7) 白鳥 (名古屋・名古屋港間 4.9km)   (8) 白鳥 (名古屋・名古屋港間 4.9km)
        (9) 浜大津 膳所浜大津 2.2km)
(8) 浪速 (大正・浪速間 3.1km)   (10)浪速 (大正・浪速間 3.1km)
(9) 大阪港 (大正・大阪港間 6.6km)   (11)大阪港 (大正・大阪港間 6.6km)
(10)高砂 高砂高砂港間 1.7km)   (12)高砂 高砂高砂港間 1.7km)
(11)浜多度津 多度津・浜多度津 2.2km)   (13)浜多度津 多度津・浜多度津 2.2km)
(12)坂出港 (坂出・坂出港間 2.9km)   (14)坂出港 (坂出・坂出港間 2.9km)
(13)門司埠頭 (門司・門司埠頭間 5.2km)   (15)門司埠頭 (門司・門司埠頭間 5.2km)
(14)博多港 (香椎・博多港 7.8km)   (16)博多港 (香椎・博多港 7.8km)

参考として右側に記した区間は、「旅客及び荷物営業細則」8条(1962年現行)のものである*1。1962年現行の細則8条は平林喜三造「旅客営業規則解説」に記載されていたもので、同書はこの規定について次のように解説している。

旅客の非営業線区に団体又は貸切運送若しくは引揚者等の特殊運送が、臨時列車を運転して行われる場合、いかなる運賃計算をするかについては、すべて順路による旅客営業線*2を経由したものとして取り扱うこととしている。この順路による旅客営業線とは、その臨時列車による運送が行われなければ当然経由するであろう通常の定期列車による運送経路によるのである。

とし、例として、東海道線から千葉方面への臨時列車(東海道線品鶴線山手貨物線→金町→新小岩→千葉)は、東海道線→東京→秋葉原→千葉の順路で運賃計算するとしている。さらに、

旅客の非営業線区を経由する臨時旅客列車による運送営業は若干あるが、まれにはこの非営業線区に発着する臨時列車による旅客運送営業が行われることがある。例えば、小名木川発成田行の臨時列車とか上野発沼垂行の臨時列車等である。
これらの場合には、対応する旅客キロ程がないので、それぞれ貨物キロ程を使用することとしているが、便宜上具体的にその区間とキロ程が本条に明示されている。

旧20条は当時の旅客営業規則14条の「旅客運賃・料金の計算その他の運送条件をキロメートルをもつて定める場合は、別に定める場合を除き、鉄道営業キロ程・航路営業キロ程又は自動車線営業キロ程による。」の「別に定める場合」を規定したものだった。解説から分るように、団体等の臨時列車の運転ルートのキロ程に関するきわめて特殊な規定である。例に挙げている区間は、実乗キロよりも「順路」の運賃計算キロが短い区間であり、旅客にとって有利な取扱いを内規で定めたともいえる。
JR化後、営業キロが「順路」よりも短い短絡線を経由する定期列車が運転されるようになった。旅規は67条で「旅客運賃・料金は、旅客の実際乗車する経路及び発着の順序によって計算する。」と定めているが、短絡線を経由する運賃計算の例外規定は存在しない。
現行の旅規14条は、

営業キロ
第14条 旅客運賃・料金の計算その他の旅客運送の条件をキロメートルをもって定める場合は、別に定める場合を除き、営業キロによる。
2 前条の営業キロは、旅客の乗車する発着区間に対する駅間のキロ数による。

1項に「別に定める場合」が残っているが、現在は運賃計算キロ又は擬制キロを指すと解釈される。2項は、1980年4月20日「キロ程」を「営業キロ」に改定したときに挿入されたものである。「駅間のキロ数」は、営業キロが存在しない短絡線を意識しているのかもしれない。湘南新宿ラインは旧蛇窪信号場の短絡線を経由するが、大崎・西大井間に「駅間のキロ数」は存在せず、大崎・品川・西大井間のキロ数を使用すると、読ませようとしているのか。「旅客の乗車する区間」ではないのだが。
しかし、「むさしの」が経由する西浦和・与野間には4.9キロの駅間の営業キロが設定されている、JR東日本の第1種事業区間である。「むさしの」の運賃計算経路(西浦和武蔵浦和中浦和・大宮)は、実乗ルートよりも1.8キロ長い。2014年8月2日の記事に「西浦和・与野(短絡線)経由の運賃計算を認めてしまうと、武蔵浦和経由の運賃計算が有名無実化してしまうので、それを避ける意図があるのでは」とのコメントがあった。たしかに西浦和・与野間を運賃計算経路とすると、東京近郊区間内相互発着の乗車券では、「むさしの」の乗車だけでなく武蔵浦和で乗継ぐ場合にも適用されてしまう。
これを回避するには、旅規の明文規定が必要である。旅規に頻出する「旅客運賃計算経路」を定義し、非運賃計算経路を明示すべきである。6月1日の記事にコメントがあった、新垂井線を運賃計算経路から除外する根拠規定としての意味もある。

*1:細則時代は見出しと本文の「旅客」が「旅客又は荷物」となっていた

*2:原文は下線ではなく、傍点