貨物運送約款

規則鉄ではあるが、貨物運送約款にはなじみがなかった。最大の理由は、荷主として契約の当事者となる機会がなかったからだが、旅規のように容易に条文が入手できなかったためでもある。冊子版の規則集が発行されているわけでなく、「貨物運送規則」・「貨物営業規則」改正の国鉄公示は、官報では常に内容省略となっている*1
最近、日本通運のサイトにJR貨物貨物運送約款(2007年10月現行)が掲載されているのを見つけた。また、古書店で購入した、府川正勝「貨物営業規則逐条解説」(中央書院、昭和46年9月3版)に、国鉄の貨物営業規則の全条文と関連する貨物営業取扱基準規程の条項が記載されていた。
両者を比較するとなかなか興味深い。貨物運送契約の最も重要な条項は、貨物運賃であるが、「貨物営業規則」は

(一般運賃の計算方)
第55条 貨物の運賃は、特に定める場合を除いて、扱種別、等級(車扱貨物に限る。)、重量及び発着駅間の運賃計算キロ程に基づいて、1口ごとに、別表の貨物賃率表により計算する。この場合、自動車線にまたがり運送する車扱貨物にあつては、自動車線と鉄道又は航路とを各別に計算して、これを合算する。

と、運賃計算の方法を示している。国鉄時代、鉄道の貨物運賃は、鉄道・航路の普通旅客運賃とともに国有鉄道運賃法で定められ、運賃改定は国会の議決を必要とした。廃止直前の貨物運賃の条項は次の通りである。

(貨物運賃)
第7条 貨物運賃は、車扱貨物運賃及びコンテナ貨物運賃とする。
2 車扱貨物運賃は、貨物等級表の等級に従い、別表第2の賃率による。
3 コンテナ貨物運賃は、車扱貨物運賃の賃率を参しやくして日本国有鉄道の定める賃率による。

別表第2には、キロ程・等級ごとのトン当たり運賃が掲載されている。「逐条解説」では省略されているが、これが「貨物営業規則」別表の貨物賃率表に相当するのだろう。
民営化後、貨物運賃は鉄道事業法運輸大臣の認可を受けることになったが、2003年4月施行の改正で、届出だけでよくなった。そのためか、JR貨物約款の運賃の規定は

(運賃及び料金)
第60条 車扱貨物及びコンテナ貨物(以下「貨物」といいます。)の運送については、当社で定めた運賃及び料金を収受します。
2 前項の運賃及び料金は駅頭に掲示します。

とそっけない。民営化当初の約款の規定は不明だが、届出制になってからこのように単純化されたのだろうか。なお、運賃及び料金を駅頭に掲示するのは、鉄道営業法第3条「運賃其ノ他ノ運送条件ハ関係停車場ニ公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス」による。
また、約款第1条は、

(適用の範囲)
第1条 日本貨物鉄道株式会社(以下「当社」といいます。)の経営する鉄道における貨物の運送については、この約款によります。
2 一定期間継続的に出貨される貨物であって、あらかじめその貨物の荷送人が同意した場合は、貨物の出貨の状態に適合した能率的な運送を行うことを目的として、その貨物についての取扱条件及び適用期間を荷送人と協定して、その協定したところにより貨物の取扱いをすることがあります。
(第3項以下略)

と規定している。多品種少量輸送から大口大量輸送という鉄道貨物輸送の変化によって、鉄道と荷主の運送契約も、不特定多数の荷主に対する約款による統一的な取扱から、少数大口顧客に対する個別契約への変化が伺える。
規則鉄としては、国鉄時代の運賃計算キロ程に興味がある。これについては、稿を改めて紹介する。

*1:鉄道公報にあたっても、大きな改正公示は号外に掲載され、国会図書館には所蔵されていない