連続乗車券の使用順序

往復乗車券の往片と復片、連続乗車券の第1券片と第2券片は、どちらを先に使用してもよいことになっている。旅規に明文規定はないが禁止規定もない。往復乗車券については基準規程279条3号イに「復片を先に使用して」という文言があり、これを認めていると解される。連続乗車券に関する同様な規定は見当たらない。
小布施由武著「JR旅客営業制度のQ&A」(中央書院)のQ&A161*1に本件が取り上げられている、と知人から教示を受けた。

旅客規則第167条第1項第13号で「乗車券をその券面に表示された発着の順序に違反して使用したとき」は無効として回収することとしているが、往復乗車券で復片を先に使用したり、連続乗車券の第2券片を先に使用することはどうか?

という設問である。回答は、167条1項13号は「券面発着順序の制限(着方駅から発方駅への使用はできない)で、券片ごとの使用順序の制約では」なく差し支えないとしている。基準規程279条3号イの往復乗車券の例を挙げているが、連続乗車券については条文の例示がない。連続乗車券の発売要件(旅規26条3号)は

前各号の乗車券*2を発売できない連続した区間(当該区間が2区間のものに限る。)をそれぞれ1回乗車(以下「連続乗車」という。)する場合に発売する。

であるから、第2券片から使用するときは「連続した区間」とならないという解釈もありうるのではないか。発売要件と使用条件は別の話と言われれば、そのとおりだが。
連続乗車券が3区間までに限定されたのは1969年5月10日、現行のように2区間になったのは1976年11月6日だが、それ以前の券片数に制限がなかったときも使用順序は自由だったのだろうか。なお現行体系になる以前の1952年1月1日現行の旅規は、33条で

乗車券は、その券面に表示された等級・通用期間・発着区間・発着の順序・経由すべき経路が表示されている場合は、その経路及び大人・小児の区別その他の指定事項に従つて使用する場合に限つて、これを有効とする。

と定めていたが、現行規定と同様の「券面に表示された」「発着の順序」であり、連続乗車券(当時は回遊乗車券)の券片順ではないという解釈だったのだろう。
誤解があると困るが、筆者は連続乗車券の使用順序を制限すべきであると主張しているわけではない。規定をあいまいにしたまま解釈で認めていることを問題にしている。往復乗車券の復券先行使用とともに、約款に明記すべきだと思う。
もう一つ、旅規が167条1項13号で券面の発着順序を制限する意味もわからない。これは旅規が現行の体系になった1958年10月1日以来の規定であるが、旅規188条1項9号には「片道乗車券2枚を発行し、往復乗車券に代用する」ことが規定されており、これも1958年以来変わっていない。基準規程192条3項は旅規188条1項9号を受けて、往復乗車券の代用として発行することができる乗車券を

(1) 一般式常備片道乗車券及び相互式常備片道乗車券
(2) 準常備片道乗車券
(3) 特殊共通券
(4) 車内片道乗車券

と定めている。相互式はもともと双方向に使用できるものだが、一般式も含まれている。地図式や金額式なら着駅が特定されず支障があるかもしれないが、「からゆき」の一般式乗車券を逆方向に使用することが「乗車券を無効として回収する」ほどの問題だとは思えない。なお前述の1952年の旅規の39条(乗車券が無効となる場合)には、

係員の承諾を得ないで、第二十三条の規定に違反して乗車券を使用したとき。

が規定されており、券面の発着の順序違反は1958年以前も乗車券無効・回収のトリガーだったようだ。
追記(2月18日):平林喜三造著「旅客営業規則解説」(中央書院、昭和37年10月15日再版)に、旅規147条1項

乗車券類は、乗車人員を記載したものを除き、1券片をもつて1人が、1回に限り、その券面表示事項に従つて使用することができる。但し、定期乗車券については、その使用回数を制限しない。

(当時の条文。現行と語順が異なるが趣旨は変わらない)の解説として、次の記載があった。

本条は、「1券片をもつて」というように券片を単位として規定している。従って、発着の順序に関する使用条件も券片単位によることになり、例えばA発B着の券片についてBからAに向けて使用することはもちろん、C・B間を使用した後、A・C間を使用することもできないのである。(Cは図に示されたA・Bの中間地点)
発着の順序は券片単位にみるのであるから、往復乗車券について、復片を先に使用した後、往片を使用する場合、連続乗車券について、第2券片を先に使用した後、第1券片を使用する場合は、いずれも有効として認められるとともに、復片又は第2券片を具備しない往片又は第1券片だけの旅客運賃の払いもどしの請求も認めるのである。

これは論理的でわかりやすい。第1券片と第2券片しか例示されていないが、連続乗車券の券片数に制限がなかった時代の出版であり、当時も認められていたことが分かった。旅規167条13号(当時は12号)の解説にも同じ内容が書かれている。小布施由武著「JR旅客営業制度のQ&A」は、167条についてだけで、147条の原則について触れていない。
なお、小布施由武氏のQ&A161は、佐々木健著「国鉄旅客制度のQ&A309」(中央書院、昭和59年1月1日初版)のQ&A116と同じだった。読点(、)の有無と、後段に記載の例外「ワイド・ミニ周遊券とか特別企画乗車券」からワイド・ミニ周遊券が削除されているのが違いである。著者が異なるのに同じ表現を使うとは、著作権はどうなっているのだろう。

*1:2015年3月発行の自由国民社版では、Q&A167

*2:片道乗車券と往復乗車券