乗車券の発売日

JR各社の現行旅規は、国鉄時代の1958年に全面改訂されてから半世紀が過ぎ、有名無実化した条項が多い。その典型的な例は、自動券売機やマルス端末で発券される磁気券ばかりなのに、あいかわらず常備券・準常備券を規定している乗車券類の様式の条項だが、次の条項も現実とかなりかけ離れている。

(乗車券類の発売範囲)
第20条 駅において発売する乗車券類は、その駅から有効なものに限つて発売する。ただし、次の各号に掲げる場合は、他駅から有効な乗車券類を発売することがある。
(1) 指定券と同時に使用する普通乗車券を発売する場合。(後略)
(乗車券類の発売日)
第21条 乗車券類は、発売当日から有効となるものを発売する。ただし、次の各号に掲げる乗車券類は、当該各号に定めるところによつて発売する。 (中略)
2 前項の規定によるほか、次の各号に掲げる乗車券類は、当該各号に定めるところにより発売する。
(1) 普通乗車券又は普通急行券は、同時に使用する指定券を発売する日又は呈示した日から発売する。(後略)

駅に設置されている指定券券売機では、指定券と同時使用する場合でなくても、他駅発や翌日以降を有効開始日とする普通乗車券を単独で購入できる。おかげで乗車券の分割による運賃の節約が容易になったが、旅規上の取扱いはどうなっているのだろう。旅客営業取扱基準規程の第27条と第28条に、駅長において特に必要があると認めたときは、他駅から有効となるものや有効期間の開始日の1箇月前から発売することができる、との規定があるが、これを適用しているのだろうか。
こんなことを考えたのは、最長片道切符ルートの変遷1961-2011の読者からのメールがきっかけである。3月12日に九州新幹線が開業して最長ルートが延長となったが、前日の3月11日の大震災で運行が中止となった路線がルートに含まれており、実際に新ルートの最長片道切符が発売されたのか、時刻表をもとに作成した「机上の」最長きっぷではないか、という疑問が書かれていた。
旅規の根拠は定かではないが、乗車券は有効開始日の1箇月前から発売されることがあり、少なくとも九州新幹線博多・新鳥栖間の指定席特急券とともに購入すれば発売されたから、3月11日以前に新最長ルートの乗車券が発売された可能性がある。また、旅規第7条のただし書きに、旅客が不通区間を任意に旅行し、払いもどしの請求をしないことを承諾する場合は、不通区間を経路に含む乗車券を発売することがある、という規定があり、この発売に関する決定は、基準規程の第11条で不通区間を所管する支社長(JR東日本の場合)が行うこととなっている。実際の運用がどうなっているかわからないが、不通特約の最長片道切符が3月12日以降に発売されたか、今後発売される可能性もある。読者にはこの趣旨の回答をしたが、どちらのケースも、発売される最長片道切符は3月12日以降有効となる。最長ルートが経由する不通の路線を乗車することは当分できない。
ところで、旅規に規定は見当たらないが、有効期間中に開業する新線を経路とする乗車券を開業前に発売しても問題ないように思う。運用上発売されることがあるなら、震災前に東北地方を通過し、新最長ルートを走破した人がいるかもしれない。
追記(4月24日):頂いたコメントの第5条とは、旅客と事業者との運送契約の成立時期に関する条項である。契約は「旅客等が所定の運賃・料金を支払い、乗車券類等その契約に関する証票の交付を受けた時に成立」し、「契約の成立した時以後における取扱いは、別段の定めをしない限り、すべてその契約の成立した時の規定による」となっている。
九州新幹線開業に係る旅規の一部改正は、1月31日に公告され、「3月12日乗車となるものから施行します」と書かれている。屁理屈を言わせてもらうと、「3月12日以降有効となる乗車券類に適用します」ではない。東京から佐賀に旅行する旅客が前日博多に泊り、3月12日の一番列車に乗車したいと、博多・新鳥栖間新幹線経由の3月11日有効開始の乗車券の発売を請求したとき、これを拒否する合理的な理由はないと思う。なお、選択乗車区間の博多・鳥栖新鳥栖間は、新鳥栖以遠(肥前麓方面)には適用されないから、在来線経由の乗車券で選択乗車もできない。