JR北海道の路線・区間別収支

JR北海道は、4月留萌本線留萌・増毛間の廃止を届け出たのに続き、7月29日「持続可能な交通体系のあり方」についてを公表、輸送密度(人/キロ/日)の低い路線については路線廃止や上下分離の検討を進めるとした。これを受けて、石勝線夕張支線については夕張市長自らが廃止を提案するという事態になっている(夕張支線廃止「19年3月にも」 市長、JR社長と会談北海道新聞))。
JR北海道は、1月29日開催の北海道庁主催の地域公共交通検討会議において2014年度の路線・区間別の輸送密度と収支を開示した(資料は、地域公共交通検討会議の第二回議事概要の資料3JR北海道提供資料として掲載)。全路線が赤字という内容でJR北海道が道内全線区で赤字 14年度、札幌圏も26億円(日経)などと報じられた。
札幌圏を含めて、全線赤字というのは信じられない。資料では、札幌圏の路線・区間の数字が合計され、その営業係数が107、2,662百万円の営業損失となっている。これについては、次の注記がある。

札幌圏は、函館線(小樽〜札幌〜岩見沢)、千歳・室蘭線(白石〜苫小牧)、札沼線(桑園〜医療大学)であり、収入では、例えば札幌駅の券売機で発売した切符の多くは、金額表示であり、ご利用になった線区を特定することができません。一方、費用では、多くの電車が直通で運転していることや鉄道施設を管理する保守部門が線区を跨がっていることから、線区ごとに収入・費用を配分することが実態に則した線区の収支状況にはならないと考え、札幌圏を一まとまりとして公表することとしました。

これは他の地域でも同じだろう。輸送密度は区間ごとに記載しているのだかから、言い訳にしか聞こえない。
週刊東洋経済臨時増刊 「鉄道」全真相2016 [雑誌]週刊東洋経済の臨時増刊「鉄道完全解明全真相2016」は、JR北海道の上記資料を用いて路線・区間別収支を試算している。

今回の試算に当たり、各路線、区間の営業収益はJR北海道発表の数値を用いることとした。札幌圏での営業収益は旅客人キロの比で、各路線、区間に割り振っている。一方、営業費用は同社全体の1141億9400万円に対し、変動費部分は旅客人キロの比で、固定費分は営業キロの比で分配して求めることとした。

JR北海道東洋経済の数字を比較したのが次の表である。東洋経済は、営業費用、営業損益を示していないが、営業係数と営業収益から逆算した。四捨五入誤差で合計が若干異なっているが、大差はない。

    JR
路線・区間 輸送密度 営業収益 営業費用 営業損益 営業係数 営業収益 営業費用 営業損益 営業係数
 留萌線留萌〜増毛     39        5     232    -227  4,554      5     396    -391  7,911.2
札沼線医療大学〜新十津川     81       16     348    -332  2,162     16   1,137  -1,121  7,106.5
石勝線新夕張〜夕張    117      14     196    -182  1,421     14     387    -373  2,767.0
根室線富良野新得    155      60     952    -892  1,591     60   1,981  -1,921  3,301.0
留萌線深川〜留萌    177      46     693    -647  1,508     46   1,220  -1,174  2,651.8
日高線苫小牧〜様似    298     143   1,687  -1,544  1,179    143   3,652  -3,509  2,553.8
宗谷線名寄〜稚内    405     487   3,031  -2,544    622    487   4,661  -4,174    957.1
根室線釧路〜根室    436     247   1,247  -1,000    505    247   3,465  -3,218  1,402.8
根室線滝川〜富良野    460     120   1,148  -1,028    953    120   1,404  -1,284  1,169.6
釧網線東釧路〜網走    466     334   1,986  -1,652    594    334   4,277  -3,943  1,280.5
500人未満計    347   1,473  11,520 -10,047    782  1,472  22,579 -21,107  1,533.9
 室蘭線沼ノ端〜岩見沢    516     124   1,255  -1,131  1,011    124   1,740  -1,616  1,403.4
江差線木古内江差    618      27      84     -57    314     27   1,114  -1,087  4,126.3
函館線長万部〜小樽    675     439   2,506  -2,067    570    439   3,749  -3,310    853.9
石北線上川〜網走  1,051   1,278   4,185  -2,907    327  1,278   5,397  -4,119    422.3
室蘭線室蘭〜東室蘭  1,342       91     404    -313    445     91     210   -119    230.3
富良野線富良野旭川  1,406     338   1,236    -898    366    338   1,657  -1,319    490.3
石北線新旭川〜上川  1,489     389   1,062    -673    273    389   1,376   -987    353.7
宗谷線旭川〜名寄  1,512     724   2,643  -1,919    365    724   2,344  -1,620    323.7
500人以上〜2,000人未満計  1,027   3,410  13,375  -9,965    392  3,410  17,586 -14,176    515.7
根室線帯広〜釧路  2,259   2,217   5,451  -3,234    246  2,217   4,405  -2,188    198.7
函館線函館〜長万部  3,765   4,566   8,848  -4,282    194  4,566   6,703  -2,137    146.8
海峡線木古内〜中小国  3,851   3,333   4,216    -883    126  3,333   3,686   -353    110.6
2,000人以上〜4,000人未満計  3,255  10,117  18,515  -8,398    183 10,116  14,794  -4,678    146.2
石勝・根室線南千歳〜帯広  4,270   6,337   8,266  -1,929    130  6,337   7,750  -1,413    122.3
江差線五稜郭木古内  4,377   1,261   3,125  -1,864    248  1,261   1,682   -421    133.4
室蘭線長万部東室蘭  5,022   2,836   3,833    -997    135  2,836   3,673   -837    129.5
室蘭線東室蘭〜苫小牧  7,736   3,113   4,769  -1,656    153  3,113   3,515   -402    112.9
4,000人以上〜8,000人未満計  5,023  13,547  19,993  -6,446    148 13,547  16,620  -3,073    122.7
函館線岩見沢旭川  9,320   5,889   8,407  -2,518    143  5,889   6,560   -671    111.4
札沼線桑園〜医療大学 16,873  39,721  42,383  -2,662    107  4,546   4,732   -186    104.1
函館線札幌〜岩見沢 43,025         11,592  10,410   1,182     89.8
千歳・室蘭線白石〜苫小牧 43,433         11,702  10,497   1,205     89.7
函館線小樽〜札幌 44,099         11,881  10,646   1,236     89.6
8,000人以上計 28,519 45,610  50,790  -5,180    111 45,610  42,844   2,766     93.9
合計  4,791 74,157 114,194 -40,037    154 74,155 114,423 -40,268    154

全体として、輸送密度の低い路線の営業係数は発表数値より高く、高い路線は低い結果になっている。営業費用の変動費部分を旅客人キロ比、固定費分を営業キロ比で一律に分配しているところが、各路線の実態を正確に反映していないかもしれない。しかし纏められていた札幌圏のうち、函館本線小樽・岩見沢間と千歳線室蘭本線白石・苫小牧間が黒字というのは実感に会う。

なにしろ12年度の全線旅客密度が4万0314人と札幌圏にほぼ等しい名古屋鉄道は、同年度に鉄道事業で107億円余りの営業利益を計上しているからだ。札幌圏が黒字でもおかしくあるまい。

と書いているとおりである。この数字は「持続可能な交通体系のあり方」の議論の前提となるものだから、JR北海道には納得できる情報の開示を期待したい。