鉄道会社の2020年度決算

日経の5月15日の記事。

鉄道大手21社、赤字1.5兆円 前期最終、移動自粛打撃に
JRや私鉄など主要鉄道大手21社の2021年3月期の連結決算が14日に出そろった。全社が最終赤字となり合計赤字額は1兆5000億円を超えた。(後略)

ウェブに決算短信を掲載しているJR4社と大手私鉄(非上場の東京地下鉄を含む)の19社について、各社の運輸事業の業績を比較してみた。日経の記事には、JR北海道JR四国も含まれているが、20年度の決算短信はウェブに未掲載である。運輸業売上高は各社のセグメント情報の運輸事業、都市交通事業など鉄道、バスを含む。西鉄はバス事業が大半と思われる。名鉄には運送業というセグメントがあるが、これは含めていない。利益率と比較するため、社内売上げを含む売上高とした。上段が2019年度、下段が2020年度の数字である(単位:百万円)。

会社 売上高 営業利益 純利益 運輸売上 構成比 増減率 部門利益 利益率
JR東日本 2,946,639 380,841 198,428 2,081,136 70.6%   250,575 12.0%
1,764,584 -520,358 -577,900 1,167,718 66.2% -43.9% -532,369 -45.6%
JR東海 1,844,647 656,163 397,881 1,431,266 77.6%   617,643 43.2%
823,517 -184,751 -201,554 533,006 64.7% -62.8% -183,328 -34.4%
JR西日本 1,508,201 160,628 89,380 949,811 63.0%   105,313 11.1%
898,172 -245,544 -233,214 489,609 54.5% -48.5% -252,168 -51.5%
JR九州 432,644 49,406 31,495 173,730 40.2%   19,848 11.4%
293,914 -22,873 -18,984 95,294 32.4% -45.1% -37,629 -39.5%
東武鉄道 653,874 62,653 35,530 215,427 32.9%   37,659 17.5%
496,326 -13,577 -24,965 159,122 32.1% -26.1% -5,224 -3.3%
西武ホールディングス 554,590 56,823 4,670 168,563 30.4%   22,829 13.5%
337,061 -51,587 -72,301 122,597 36.4% -27.3% -9,817 -8.0%
京成電鉄 274,796 28,320 30,110 161,089 58.6%   17,921 11.1%
207,761 -18,056 -30,289 104,642 50.4% -35.0% -25,677 -24.5%
京王電鉄 433,669 36,024 17,875 129,659 29.9%   13,345 10.3%
315,439 -20,866 -27,519 88,451 28.0% -31.8% -16,413 -18.6%
小田急電鉄 534,132 41,103 19,923 173,174 32.4%   21,641 12.5%
385,978 -24,190 -39,804 116,230 30.1% -32.9% -25,937 -22.3%
東急 1,164,243 68,760 42,386 213,647 18.4%   27,018 12.6%
935,927 -31,658 -56,229 151,972 16.2% -28.9% -26,014 -17.1%
京浜急行電鉄 312,751 29,489 15,650 121,024 38.7%   12,875 10.6%
234,964 -18,420 -27,211 78,553 33.4% -35.1% -21,434 -27.3%
相鉄ホールディングス 265,100 26,423 14,631 39,794 15.0%   5,844 14.7%
221,136 -3,148 -13,057 30,354 13.7% -23.7% -3,899 -12.8%
名古屋鉄道 622,916 47,363 28,879 163,544 26.3%   21,577 13.2%
481,645 -16,354 -28,769 104,995 21.8% -35.8% -17,866 -17.0%
近鉄グループホールディングス 1,194,244 49,380 20,561 221,711 18.6%   27,686 12.5%
697,203 -62,115 -60,187 150,218 21.5% -32.2% -24,670 -16.4%
南海電気鉄道 228,015 35,223 20,811 100,980 44.3%   12,953 12.8%
190,813 5,552 -1,861 66,566 34.9% -34.1% -13,599 -20.4%
京阪ホールディングス 317,103 31,123 20,121 93,365 29.4%   10,862 11.6%
253,419 -1,265 -4,574 65,694 25.9% -29.6% -9,658 -14.7%
阪急阪神ホールディングス 762,650 95,170 54,859 227,176 29.8%   40,056 17.6%
568,900 2,066 -36,702 156,926 27.6% -30.9% -5,108 -3.3%
西日本鉄道 389,446 16,411 6,678 86,676 22.3%   4,511 5.2%
346,121 -9,501 -12,074 59,812 17.3% -31.0% -11,838 -19.8%
東京地下鉄 433,147 83,917 51,391 383,889 88.6%   70,999 18.5%
295,729 -40,299 -52,927 255,784 86.5% -33.4% -50,791 -19.9%

全19社が赤字転落といっても、会社間で差がある。南海は全社の営業利益がプラスで、最終赤字額も19社のなかで最小の19億円にとどまった。運輸業のマイナスを、不動産、流通、レジャーなどがカバーした。西武と近鉄以外の17社が運輸事業の構成比率を低下させたことは、他のセグメントより運輸事業の減収率が大きかったことを意味する。西武と近鉄は、ホテル・レジャー事業が大幅に減収(西武:-60%、近鉄:-63%)となった影響で、運輸事業の構成比が高まった。なお、近鉄保有する24ホテルのうち8ホテルを米国の投資ファンドに売却すると発表した。

運輸業セグメントの減収が最大だったのは、JR東海で63%も下落した。新幹線を有するJR3社の下落率はのきなみ40%台と高い。空港路線を有する京成、京急名鉄、南海は、空港利用客の減少の影響もあったためか、30%台の下落。

一方、通勤輸送が主体の相鉄は、24%の下落にとどまり、東武、西武、東急、京阪も20%台。東京メトロは、テレワークの影響を受けたのか30%を超えた。東武運輸事業部門利益率が-3.3%にとどまり、西武も-8%と健闘しているが、他社との差異はよくわからない。

追記(5月19日):コメントがあった相鉄新横浜線の運賃収入のデータがないか探してみた。直接のデータはなかったが、決算説明資料の4ページに、輸送人員・運輸収入の対前年同月比の推移データがあった。これによると、2019年11月30日新横浜線開業した翌月の12月は、輸送人員1.0%増、運賃収入1.6%増、2020年1月はどちらも3.2%増、2月はそれぞれ1.3%増、0.1%増(3月以降はコロナの影響でマイナス)と大きくない。新線は増収にあまり貢献していないと思われる。

これは実感に合う。営業キロが2.1キロしかなく、2019年2月28日の記事に書いたように運賃が高く、列車本数が毎時2本と少ない。本命の相鉄・東急直通線が2022年度に開業するまで、新線に移行する旅客は多くないだろう。