対キロ区間制のルーツ

現在日本で採用されている鉄道旅客運賃の計算方法は、対キロ制、対キロ区間制、区間制と均一制の4種類がある。この中で最も古いのは区間制で、1872年京浜間の鉄道開業時に採用された。各駅間を1区(品川・川崎間は2区)として6区に分け、下等運賃は1区6銭2厘5毛とし、新橋・横浜間は6区37銭5厘とした(中等は2倍、上等は3倍)。その2年後に開業した阪神間は、1マイルあたり下等2銭、中等3.5銭、上等5銭の賃率による距離比例運賃であった。1889年7月の新橋・神戸間全通時に対マイル制に統一され、鉄道国有化法によって買収された私鉄にも適用された。1930年メートル法施行により対キロ制となり、JR各社に継承されている*1
その後開業した私鉄は、鉄道・関東系が主として対キロ制を、軌道・関西系が区間制を採用した。現在多くの私鉄が採用している対キロ区間制は、最も新しい運賃計算方法であり、1960年代以降他の制度から移行した。3月25日の記事関西私鉄の運賃制度で、阪神、京阪、近鉄は、1974年7月20日、対キロ区間制に移行したと書いたが、その他の私鉄の社史にあたって、対キロ区間制に移行した時期を調べてみた。

事業者 移行日 以前の制度 備考
東京メトロ 1961/11/01 均一制 線別均一運賃
都営地下鉄 1963/02/28 均一制
大阪市営地下鉄 1964/09/24 均一制 まず1、3号線が移行。64/10/31全線に適用
新京成 1965/09/01 対キロ制
東急 1966/01/20 対キロ制
名古屋市営地下鉄 1966/02/01 均一制
神戸電鉄 1972/06/25 区間
山陽電鉄 1972/06/25 区間
広島電鉄 1973/01/15 区間 軌道線は均一運賃
京王 1974/07/20 対キロ制
名鉄 1974/07/20 区間
近鉄 1974/07/20 区間 「一部区間」は対キロ制
南海 1974/07/20 区間 高野線河内長野極楽橋間は対キロ制
京阪 1974/07/20 区間 大津線は95/09/01移行
阪急 1974/07/20 区間
阪神 1974/07/20 区間
西鉄 1974/07/20 区間
相鉄 1974/08/03 対キロ制
小田急 1975/12/13 対キロ制 多摩線は開業時(74/06/01)から対キロ区間
東武 1979/01/08 対キロ制
京成 1981/05/06 対キロ制

対キロ区間制の採用は、地下鉄から始まった。路線網の拡大に伴い、従来の全線または路線ごとの均一運賃を対キロ区間制に改めたのである。営団東京メトロ)は、荻窪新中野南阿佐ヶ谷間の延伸開業に併せて線区別の均一運賃から、都営地下鉄は、人形町・東銀座間開業時に均一運賃からそれぞれ対キロ区間制を採用した。大阪市営地下鉄は、1964年9月24日の梅田・新大阪間開業時に1号、3号線を対キロ区間制とし、4号線九条・本町間が開業し、路線網がつながった10月31日全線に拡大した。
関西五社と名鉄西鉄が1974年7月同時に区間制から対キロ区間制に移行したのにくらべ、関東各社の移行時期はばらつきがある。大手私鉄よりも準大手の新京成神戸電鉄山陽電鉄広島電鉄の移行時期が早いのも興味深い。
大手私鉄の中で、西武と京急の移行時期が不明である。西武は社史を発行していない。「京浜急行八十年史」には、79年1月8日の運賃改定まで記載されているが、当時はまだ対キロ制だった。「京浜急行百年史」には運賃制度に関する記述がない。

*1:JR九州の100キロまでは、対キロ区間