約款類の著作権

3月26日の記事のコメントで、catalytic氏からJR東日本旅客営業取扱基準規程の公開は、著作権上問題ないのかとの指摘を受けた。私は、基準規程は著作権法が保護する「著作物」に該当しないと解釈、中央書院の倒産、日本鉄道図書の廃業で意義が高まったと判断し、公開に踏み切った。
著作権法2条1号は、「著作物」を

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

と定義しているが、基準規程は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないだろう。また10条は、「著作物」を次のとおり例示している。

(著作物の例示)
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
  一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  二 音楽の著作物
  三 舞踊又は無言劇の著作物
  四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
  五 建築の著作物
  六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  七 映画の著作物
  八 写真の著作物
  九 プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
3 (プログラムに関する規定−略)

基準規程は上記のいずれにもに該当しない*1
catalytic氏は、国鉄時代の規程は、著作権法第13条の国の告示、訓令、通達等に該当し、著作物として保護される対象にはならないが、民営化後はJRが著作権を主張する可能性がある、との見解を示されている。旅規ポータルには、国鉄時代の旅規(1952年現行版、1958年施行版)に加え、民営化後の旅客営業規則(新会社版)JR東日本周遊割引乗車券発売規則を掲載しているが、国鉄時代も民営化後も約款類は「著作物」に該当しないという解釈からである。前者は公開して4年、後者は2年以上経過したが、JRからクレームを受けていない。
約款類が著作物ではないという積極的な議論がないかと、ウェブで検索してみたが、そのようなページは見つけられなかった。しかし、「契約書の著作権」で検索したら、著作権専門行政書士という方のブログに契約書は著作物?という記事があった。東京地裁判例が引用され、「契約書は、ほとんどのものが著作物には該当しない」と書かれている*2
約款は、付合契約の契約条項であり、むしろ積極的に周知されるべきものであるから、「著作物」ではないといえるだろう。基準規程は鉄道事業者の部内通達であるが、このブログでしばしば指摘しているように、旅客と事業者との権利義務関係を定めた条項を含んでいるのだから、契約書・約款に準じて「著作物」ではないといってもよいだろう。
なお、catalytic氏の

日本鉄道図書の規程には、条文の後ろに(問)(答)の形で同社が加筆したと思われる箇所が複数あり、同社の著作に該当しそうです。

は、知らなかった。条文の解釈としてJRが書いたのでなければ、削除する必要があるかもしれない。なお、各条末尾の【 】内の関連条文の解説は、著作権問題を懸念して記載しなかった。

*1:著作権法の解説には、限定列挙ではなく例示列挙とされているが

*2:判例検索システムでトライしたが、昭61(ワ)8498号事件は検索できなかった