片道乗車券の発売要件のただし書きと運賃計算キロの打切り規定の対応関係をまとめると次のとおりになる。
事業者 | 片道乗車券の発売要件ただし書き | 運賃計算キロの打切り |
JR | キロを打ち切る場合は、打切りとなる駅まで | 環状線一周、復乗、新幹線と在来線を新下関・小倉・博多で直接乗継ぐ場合 |
東武、西武、名鉄*1、近鉄 | 折返し・環状線一周を除く | 環状線一周、復乗 |
阪急 | 折返し・環状線一周を除く | 環状線一周、折返し |
東京都 | 折返しを除く | 環状線一周、復乗 |
京成 | 折返しを除く | 復乗、千原線・成田空港線と他路線との乗継 |
東京メトロ、神戸新交通 | 折返しを除く | なし |
神戸市 | −(片道乗車券の発売要件の規定なし) | 環状線一周、復乗 |
東急 | なし | なし |
JRは、ただし書きが「キロを打ち切る場合は、打切りとなる駅まで発売」であるから、片道乗車券の発売区間と運賃計算キロの通算区間が一致するが、その他の事業者では必ずしも1対1の対応関係にない。運賃計算キロを打ち切っても片道乗車券が発売される例があり*2、一般的には「片道乗車券の発売区間>=運賃計算キロ通算区間」という関係になる。
ただし書きの「折返し」は、打切り規定の「復乗」に対応して規定されているのだろう。阪急の打切り規定は、そのままずばりの「折返し」である。しかし、折り返せば「運賃計算経路が連続した区間を片道1回乗車」という片道乗車券の発売要件を満たさず、往復乗車券または連続乗車券になるから、ただし書きで「折返し」を除外する意味があるとは思えない。意味があるのは「環状線一周を越える場合」である。環状線の1周以上の繰り返し、8の字・9の字経路やラケット型経路の乗車には、片道乗車券を発売しないと規定しているのである。また、環状線一周で運賃計算キロの打ち切りを規定していれば、環状線一周を越えた経路は「運賃計算経路が連続した区間」にならず、片道乗車券の要件を満たさない。
東武、西武、近鉄、阪急は、この両面から規定しており、JRと同様「片道乗車券の発売区間=運賃計算キロ通算区間」である。都営地下鉄は、発売要件のただし書きで環状線一周を越える場合を除外していないが、環状線一周の前後で運賃計算を打ち切るから、「運賃計算経路が連続した区間」を満たさず、片道乗車券は発売されない*3。
発売要件のただし書きにも運賃計算キロの打切りにも、「環状線一周」を規定していない各事業者は、これらの連続経路の片道乗車券の発売を否定していないことになる。東京メトロや神戸新交通は、運賃計算の打切り規定がないから、環状線を何周しても運賃計算キロを通算した片道乗車券が発売されるという解釈も可能である。東急は、ただし書きも打切り規定もない上に、次の規定がある。
(一周を越えて乗車する場合の旅客運賃計算の特例)
第70条の2 第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を一周し、さらに乗車する場合の普通旅客運賃は渋谷駅にて前後のキロ程を打ち切って計算する。
図の太線区間:東横線渋谷・自由が丘・二子玉川・田園都市線渋谷間
この規定は、ラッチ外接続の渋谷駅で前後のキロ程を打ち切ることに意味があるのだろうが、この規定の存在によって、他の環状線区間では、環状線一周を越える乗車券が発売されると解釈できる。
これらの事業者は、旅客から環状線一周を超える経路の片道乗車券の発売を請求された場合*4、旅規の規定からこれを拒否できないだろう。環状線一周を越える片道乗車券を発売する意図がないのなら、すみやかに旅規を改定すべきだろうと思う。
なお、2006年10月4日の記事で東急の旅規の環状線関連の条項を紹介した。今回閲覧したところ、第70条第1項が次のとおり変更されていた(赤字部分追加)。
(旅客運賃計算の特例)
第70条 第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間内にある駅発または着もしくは太線区間内を通過となる場合の普通旅客運賃または回数旅客運賃は、太線区間内の最も短いキロ程によって計算する。この場合、太線内は、経路の指定を行わない。
図の太線区間:旗の台−蒲田−多摩川−自由が丘−大岡山−旗の台を外周とする区間
また、同記事に記載した第158条の条文は、次の下線部が脱落していた。
(特定区間発着の場合の選択乗車)
第158条 前条に規定する区間にある駅あるいは次に掲げる区間(略図中太線区間)にある駅発または着の乗車券(定期乗車券を除く。)を所持する旅客は、その区間においてはいずれか一方の経路を選択して乗車することができる。
図の太線区間:旗の台−蒲田−多摩川−田園調布−大岡山−旗の台を外周とする区間
同記事で指摘した、環状線区間内各駅発着の最短距離による運賃計算とう回乗車の非整合性を覆すものではないが、記載ミスであった。