鉄道事業者の運賃体系比較

先日の記事で、京成空港線の極端な遠距離逓減運賃を分析するために、千葉県内を中心とした18事業者のキロと運賃の関係をy = a + bxの一次式に回帰して、a(初乗り運賃のレベル)とb(上昇勾配)の二つの要素に分けてプロットしたグラフで分析した。なお、前回は、y = ax + bと表示したが、統計学の教科書は回帰式をy = a + bx と書いているので変更した。ただし、本稿では、グラフのx・y軸を90度回転し、x軸をbの上昇勾配、y軸をaの初乗り運賃レベルとして、継続性を保持している。
グラフから、新規に建設された路線(事業者)は初乗り運賃レベルが高く上昇勾配が低い傾向が、これに対し高度成長期以前に開業した路線は、その逆の傾向が見受けられた。新規開業路線は、路線建設の初期投資を旅客から満遍なく回収するため、初乗り運賃のレベルを高く設定し、償却が完了した路線では、運賃でカバーする通常経費が距離比例的なコスト構造になっているのではないかとの仮説を立てた。
この仮説を検証するために、サンプル数を大幅に増やしてグラフ化した。路線長が10キロ未満の事業者及び純観光路線(黒部峡谷鉄道大井川鉄道井川線)を除く対キロ制・対キロ区間制を採用している日本の鉄軌道事業者*1をすべて網羅した。これをグラフ1に示す*2。プロットの色は、事業者の種別(紫:JR、青:大手私鉄、水色:準大手・中小私鉄、黄緑:国鉄転換第三セクター、赤:地下鉄、ピンク:モノレール・新交通システム)を、形状は路線の開業時期(▲1960年以降、◆1960年以前、■前後にまたがる)を示す。なお、加算運賃や特定割引運賃は無視して計算した。

左中段(運賃勾配小、初乗り運賃中高)に地下鉄とモノレール・新交通システムの新路線が並んでいる。運賃勾配上昇はモノレール・新交通システムの方が大きいが、初乗り運賃レベルは初期投資の絶対額が大きい地下鉄とほぼ同じである。これは、大量輸送機関である地下鉄は、初期投資の運賃による負担が薄められているためだろう。
一方右下(運賃勾配大、初乗り運賃低)に、開業時期が古い中小私鉄が並んでいる*3。その中で、JRと競合している広島電鉄宮島線の運賃が東急よりも安いことが注目される。宮島線の路線長16キロまでで東急の運賃が安いのは7キロ帯だけで、その他のキロ帯では同額か広電の方が安い。運賃勾配が東急よりも若干高いのは、東急の路線長が長く、全体として緩和されているためだろう。
グラフ1から、新規路線が初乗り運賃レベルが高いという傾向は、千葉県内の事業者だけでなく、全国的なものであることがわかった。しかし開業時期が古い中小私鉄の中に、運賃勾配小、初乗り運賃中高という特異な傾向を示す事業者がいくつかある。神戸電鉄長良川鉄道秩父鉄道近江鉄道などである。
これらの対キロ運賃をグラフ2にプロットしてみると、いずれも上昇勾配の屈折点が複数ある、対数関数が近似となる遠距離逓減運賃を採用していることがわかる。それぞれの近似直線を表示したが、プロットからかなり乖離し、a値が実際の初乗り運賃よりも高く表示される。統計学的に言えば標準誤差が大きいということになるらしい。

初乗り運賃レベルが高い対キロ区間制といっても、初乗り運賃の下駄を履いてほぼ直線的に運賃が上昇する大多数のタイプと、上昇勾配が屈折する遠距離逓減制のタイプがあり、後者は回帰式で評価すると、初乗り運賃レベルが高くなる。なお、グラフ2に示した遠距離逓減運賃の各社の中でも、京成空港線(33キロまでは北総の現行運賃)が際立っていることがわかる。

*1:キロ対応でない区間制運賃を採用している土佐電鉄筑豊電鉄も除いている

*2:今回は偏差値ではなく絶対値でプロットした。X軸が円/キロ、Y軸が円である

*3:うち、ひたちなか箱根登山鉄道松本電鉄上田電鉄しなの鉄道大井川鐵道遠州鉄道島原鉄道熊本電気鉄道は、対キロ制運賃を採用している