前回の記事で、モノクラス制導入時のグリーン料金は、単に運賃を料金に変更しただけで、限りなく1等運賃に近かったと書いた。これに関連して、当時新聞でグリーン料金制度の矛盾が指摘されていたことを、知人から教示を受けて、知った。
1969年10月31日の読売新聞に掲載された「納得できぬグリーン料金」という記事である。図書館で読んだ縮刷版には、
長野県・戸倉から上野まで急行のグリーン車に乗った。戸倉−上野間の距離は197.7キロ。急行券は200キロ以内だから二百円。ところがグリーン券と乗車券の料金は、上野−東京間3.6キロが加算されて201.3キロで計算され、200キロ以内であれば八百円ですむグリーン料金を千四百円も支払わされた。
と書かれている。特定都区市内発着のグリーン料金が従来の1等乗車券制度を踏襲して中心駅からのキロ程で計算され、一方料金制度として急行料金と同様大刻みのキロ地帯別に定められため生じた矛盾である。同様の旅客が不利益を蒙るケースは、次のように、東京都区内と大阪市内に結構ある*1。
区間 | 駅間距離 | 計算距離 |
上諏訪・新宿間 | 191.8 | 202.1 |
泉・上野間 | 197.2 | 200.8 |
多気・天王寺間 | 399.7 | 410.4 |
新潟・新大阪間* | 597.1 | 600.7 |
八郎潟・上野間 | 599.6 | 603.2 |
弘前・新大阪間* | 1000.0 | 1003.6 |
* 当時湖西線は未開業 |
前回新旧制度の運賃・料金格差を比較したが、これらの区間について比較すると次のとおりである。
等級制 | モノクラス制 | ||||||
2等 | 1等 | 格差 | 普・B寝台 | G・A寝台 | 格差 | ||
戸倉・上野間 急行「信州」 | 運賃 急行料金 G料金 計 | 750 200 - 950 | 1,380 440 - 1,820 | 1.91 | 890 200 - 1,090 | 890 200 1,400 2,490 | 2.28 |
新潟・新大阪間 特急「白鳥」・「こだま」乗継 | 運賃 急行料金 G料金 計 | 1,840 700 - 2,540 | 3,380 1,540 - 4,920 | 1.94 | 2,310 1,200 - 3,510 | 2,310 1,200 2,600 6,110 | 1.74 |
八郎潟・上野間 急行「津軽1号」寝台下段 | 運賃 急行料金 寝台料金 計 | 2,850 1,000 1,000 4,850 | 5,230 2,200 1,980 9,410 | 1.94 | 2,310 300 1,200 3,810 | 2,310 300 4,200 6,810 | 1.51 |
前回比較した3ケースは、いずれも格差が縮小し、うち優等列車利用の2ケースでは、運賃料金の値上げにもかかわらずグリーン車・A寝台利用時の絶対額が減少した。これに対し、戸倉・上野間では格差も絶対額も増加、新潟・新大阪間では格差は縮小したが、絶対額は増加した。寝台利用の場合は、寝台料金が乗車キロにかかわらず一定なので、格差・絶対額ともに低下した。
運賃の場合は、特定都区市内制度によって、損も得もある。ところがクリーン料金で旅客が得をするケースは、三宮発着の山陽・九州方面だけだと思うが、キロ地帯区分の境界となる優等列車停車駅を見つけることはできなかった*2。
これも知人から教示を受けたのだが、グリーン券に特定都区市内制度を適用する問題点がこのように表面化していたため、1972年9月1日施行の改定で特定都区市内制度が広島市内、北九州市内、福岡市内、仙台市内、札幌市内に拡大された際、旅規第132条は、
(特定都区市内等にある駅に関連する特別車両・船室料金の計算方)
第132条 第86条第1号から第6号まで、第87条及び第88条の規定は、特定都区市内及び東京山手線内にある駅に関連する特別車両・船室料金を計算する場合に準用する。
と、新規の5特定市内(7−11号)を除外した*3。旧6都区市内の矛盾が解消するのは、1974年10月1日施行の旅規改定でグリーン券制度が抜本的に改定されるのを待つことになる。