「乗車船」から「乗車」へ

4月1日の宮島口・宮島間航路の子会社移管に伴って改定された旅規がJR西日本JR東日本のウェブに掲載された。JRの直営航路が廃止され旅規の対象から外れたため、第72条(鉄道・航路の相互にまたがる旅客運賃・料金)、第82条(航路の大人片道普通旅客運賃)、第99条の6(航路の大人定期旅客運賃)が削除された。実質的な改定はこの程度であるが、「乗車船」を「乗車」に改定するなどの字句の変更により、影響を受けた条文の数は100に迫る大改定となった。今回の改定で「乗車船」はすべて「乗車」となったが、1958年10月1日の旅規全面改定以降、「乗車船」を「乗車」と改定したのは、次の5回ある。
1960年7月1日
3等級制を2等級に変更した旅規改定。第22条で「異級乗車」を定義したため、第89条第4項の「異級で乗車船する」が「異級乗車をする」に変更された。なお、逆に第115条及び第161条の見出しは「乗車」が「乗車船」に変更になった。
1965年10月1日
第157条が「選択乗車船」から「選択乗車」に変更となり、これに関連して第252条(特定区間等の途中駅が変更の開始又は終了となる方向変更又は経路変更の場合の旅客運賃の計算方)、第253条(特定区間等の一部を異級とする乗車券で他の一方の経路を乗車する場合の取扱方)、第281条の2(特定区間等における下級変更の場合の旅客運賃の払いもどし額計算方)も改定された。航路がらみの選択乗車区間が廃止されたのは、1958年10月の旅規全面改定時である。それ以前は、次のとおり

(15) 下関以遠(幡生方面)の各駅と、門司以遠(小倉方面)の各駅との相互間(ずい道線経由・下関門司港間航路及び鹿児島本線経由)。ただし、下関・門司港間相互発着となるものを除く。
(16) 下関以遠(幡生方面)の各駅と、門司港駅との相互間(下関門司港間航路・下関門司間ずい道線及び門司門司港間)

と、関門トンネル経由の鉄道と関門航路の選択乗車船区間があったが、1958年10月改定時に、旧15号が

(21) 下関以遠(幡生方面)の各駅と、門司以遠(小倉方面)の各駅との相互間(ずい道線経由下関・門司間、鹿児島本線経由門司港・門司間)

と改定され、旧16号が削除されて、関門航路が選択乗車区間から外れた。このとき「選択乗車船」を「選択乗車」に変更しなかったのは、復活する可能性があったためか。関門航路自体が1964年11月1日に廃止され、1965年10月1日の改定で「下関以遠(幡生方面)と門司以遠(小倉方面)」の選択乗車区間も廃止(廃止時は第24号)されたので、これにあわせて見出しと本文を改定したものと思われる。
1974年10月1日
「旅客および荷物営業規則」が「旅客営業規則」に変更になった大改定である。第236条の2 (座席指定券の改札及び引渡し)の「当該旅客車又は船室に乗車船したときは、直ちに、その乗車に必要な」が「当該旅客車に乗車したときは、直ちに、その乗車に必要な」に変更になった。このとき連絡船の特別船室に自由席を設けており、指定席特別船室券を座席指定券と区別するための改定だろう。
このときは、逆に「乗車」が「乗車船」に変更された例のほうが多い。72年11月8日の「急行連絡船」設定時に変更漏れだった条項を後追いで改定したためである。
1988年9月19日
青函連絡船は、3月13日限りで定期運航がなくなったが、正式に廃止され、旅規に反映されたのはこのときである。連絡船寝台と特別船室が廃止され、これに関連する次の条項で「乗車船」を「乗車」に変更した。
第13条(乗車券類の購入及び所持)、第43条(団体乗車券の発売)、第58条(特別車両・船室券の発売)、第175条(特別車両・船室券の効力)、第236条(寝台券の改札及び引渡し)、第266条(乗車船駅等が不明の場合の旅客運賃・増運賃等の計算方)、第275条(不乗区間等に対する旅客運賃・料金の払いもどしをしない場合)、第282条の2(旅行中止による旅客運賃及び料金の払いもどし)、第284条(無賃送還の取扱方)、第285条(他経路乗車船の取扱方)
1991年3月16日
1988年4月10日の宇高連絡船廃止後もJR四国直営の宇高高速艇が運航され、旅規に「宇野高松間航路」と「急行連絡船」が残っていた。91年3月16日の宇高高速艇の廃止(90年3月から休止)に伴い、「急行連絡船」が旅規から削除され、これに関連する次の条項の「乗車船」が「乗車」に変更となった。
第57条(急行券の発売)、第161条(定期乗車券による急行列車等への乗車船禁止)、第172条(急行券の効力)、第234条(急行券の改札及び引渡し)、第249条(区間変更)、第273条(指定券に対する料金の払いもどし)、第273条の2(旅行開始前の団体旅客運賃・料金又は貸切旅客運賃・料金の払いもどし)、第282条の2(旅行中止による旅客運賃及び料金の払いもどし)
なお「乗車」が「乗車船」に変更された例は、上述した以外にも、61年6月28日(134、175)、62年4月1日(48)、69年9月1日(111)、72年11月8日(57)、74年4月1日(234)と何度かある(カッコ内は条番号)。主として連絡船の座席指定券や急行連絡船の設定時の改定である。