国鉄の再建

昭和45(1970)年出版の「国鉄の再建」を古書店で見つけた。日本国有鉄道審議室編で、交通協力会出版部の発行。
前年の「日本国有鉄道財政再建特別措置法」(S44.5.9法律第24号)の施行を受け、運輸省の「日本国有鉄道の財政の再建に関する基本方針」(S44.9.12閣議決定)に基づき、国鉄は「日本国有鉄道の財政の再建に関する経営の基本的計画」(S45.2.19)を策定した。この本は、国鉄の基本的計画に関する部内向けの解説書として刊行されたようだ。
旅客運賃制度について、興味深い記述があるので紹介する。

 現在は上野から札幌へグリーン車で行く場合、札幌までの乗車券とグリーン券、青森までの特急券・寝台券、連絡線の座席指定券、函館から札幌までの特急券といった具合に、5枚もの切符をもたないと行けないし窓口もひとつの窓口では用が足りない場合が少なくない。最近、電算端局装置で乗車券と指定券が1枚の切符で売れるようになり、また手作業の場合にも乗車券と急行券の1枚化がすすめられたりしているが、まだ不十分な点が多い。また運賃・料金の制度上も、例えば急行列車を乗りかえるごとに別に急行料金がいるなどの問題もあって、旅客にとって不便であるのはもちろん、国鉄にとっても取扱いがそれだけ複雑となり、切符の発売を機械化する場合のあい路にもなっている。
 そこで、今後は切符類はできるだけ1枚で売れるように、運賃料金制度を検討して改善を図る。

ヨーロッパのようにインターシティ運賃と都市圏内運賃を分離して、都市間運賃は急行料金込みにする構想*1だと思うが、実現しなかった。実際に検討されたのだろうか。それをいうなら、特別措置法が成立した1969年5月9日の運賃改定時点に、運賃の等級制をやめてグリーン料金制度に変更したのも、切符の1枚化に逆行する動きだった。

 現在は、全国どこでもキロ当たりいくらという運賃制度(全国一律対キロ運賃制)を採用しており、この制度は、全国鉄道輸送網の確立、地域開発の促進等に大きな役割を果たしてきた。
 しかし近年、大都市の発展が著しく、対キロに基づく運賃制度では、同一都市内発着の場合でも、駅が異なることによって運賃が相異し、運賃算定上煩雑であるばかりでなく、今後輸送の近代化をはかる上にも障害となっている。
 したがって、今後の輸送体制の近代化に即した運賃制度を考える必要があるので、例えばゾーン運賃の拡大、線区内均一運賃制度等について検討することとする。

このページには「ゾーン運賃の拡大」と題した地図がある。都区市内発着の共通運賃の六大都市が「現行」として示され、他に「拡大」として旭川地区、札幌地区、函館地区、青森地区、盛岡地区、仙台地区、秋田地区、山形地区、新潟地区、長野地区、金沢地区、鳥取地区、島根地区、広島地区、高松地区、福岡地区、熊本地区、鹿児島地区が記載されている。このうち、1972年9月1日の旅規改定で実現したのは、札幌、仙台、広島、北九州、福岡の5市にとどまっている。市内共通運賃がなぜ「輸送体系の近代化に即した運賃制度」なのか、また「線区内均一運賃制度」が何を意味するのかも不明である。
なお、この法律は第一次「日本国有鉄道財政再建特別措置法」で、昭和44年度から10年間を再建期間とする再建計画を定めているが、赤字額の増加に歯止めがかからず、昭和51年11月5日廃止された。その後第二次「特別措置法」(S55.12.27法律111号)が制定された。新法で地方交通線における割増運賃が規定され、全国一律運賃が崩れた。

*1:都市圏内運賃は他の輸送モードとの共通のゾーン運賃