『空の上の格差社会』

6月28日付で平凡社のサイトに掲載されたお詫びと訂正に、旅規ポータルの等級制からモノクラス制へが引用されている。

平凡社新書779『空の上の格差社会』(杉浦一機著)の中に、以下の不適切な部分がありましたので、おわびして訂正します。
41頁11―12行目 
×:東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九六倍から一・六八倍に縮小している。
○:東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九四倍から一・五一倍に縮小している(『デスクトップ鉄のデータルーム』「等級制からモノクラス制」http://www.desktoptetsu.com/ryoki/monoclass.htmを参照)。

これだけでは何のことかわからないだろうから、経緯を書く。
『空の上の格差社会』は、航空機のファースト・ビジネス・エコノミークラスの「クラス分け」の経緯、現状及び将来の方向について書いており、国鉄の等級制がモノクラス制になった経緯についても言及している(p41)。

 その経緯について日本国有鉄道百年史修史委員会編纂による「日本国有鉄道百年史」では次のように説明している。「一等車と二等車の設備格差の縮小、利用実態の変化等を考慮して、一等運賃・料金を廃止して、従来の二等運賃・料金による一本立ての制度に改め、等級呼称を廃止することにした」(第一三巻)。
 ここで指摘している「利用実態の変化」とは、(1)*1一等車の利用の減少のほか、(2)航空との競合の影響を考慮しているものと思われ、改定後のグリーン車の運賃・料金は長距離を中心に割安に設定されている。たとえば、東京―大阪間(「ひかり」指定席)の格差は二・〇一倍だったものが一・四八倍に、上野―札幌間(特急「はつかり」「あおぞら」乗継)は一・九六倍から一・六八倍に、東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九六倍から一・六八倍に縮小している。

どこかで見た数字だと思い調べてみたら、「等級制からモノクラス制へ」の表2で比較した、1969年5月の制度変更によって1、2等の運賃・料金格差が縮小したことを示した数字だった。『空の上の格差社会』は、表2に記載している4例のうち、東京・藤沢間の普通列車以外の3例を使っている。東京―博多間の数字は上野―札幌間と同じで、転記ミスだろう。杉浦氏が独自に計算したものとは思われない。平凡社のwebmasterあてに「無断引用の疑いがある」とメールした。
さすがに一流出版社で、翌日には担当編集者から、著者に連絡し現在事実関係・経緯について調査中である、との返信があった。翌週、調査結果について、「著者が表2の数字を参照したことを認め、参照元を明記することが適当であった」との回答が来た。

そこで、小社は著者の杉浦氏とともに、参照元を明記しなかったことをデスクトップ鉄様におわびし、増刷の際には、ご指摘の数字の間違いを訂正するとともに、当該箇所の末尾に「(『デスクトップ鉄のデータルーム』「等級制からモノクラス制」http://www.desktoptetsu.com/ryoki/monoclass.htmを参照)」と注記いたします。また、小社のホームページに、以下の訂正文を掲げます。

の「以下の訂正文」が冒頭に引用した「お詫びと訂正」である。訂正文に「参照元を明記しなかったことをデスクトップ鉄様におわびし」の趣旨を表現してもらえないかと重ねて依頼したが、

この告知は読者に向けたものであり、このような文言自体は記入できません。しかし、訂正文の「以下の不適切な部分がありましたので」の「不適切な部分」という言い方は、そうした「趣旨」を含みこんで表しています。他の訂正文では、「以下の誤りがありましたので」と「誤り」という表現となり、それは区別されます。今回のホームページでの訂正の告知でも区別して表示するつもりです。

との返事だった。「不適切な部分」と「誤り」の区別を読者が認識するかどうか疑問だが、早期に増刷が実現することを期待して、これで決着することにした。あわせてメールのやり取りをもとにブログ記事を書くことを通知した。
杉浦氏の本は、1988年の『利用者のための最新航空事情大研究』以来ほとんど読んでおり、航空運賃等についての利用者の立場に立った執筆姿勢は好感がもてる。その著者にウェブページを参照されたのは、ある意味では名誉なことだが、参照している他の文献*2と同様、デスクトップ鉄をクレジットしてほしかった。

*1:原文は環境依存文字の○1。(2)も同じ

*2:小島英俊『鉄道という文化』、近藤喜代太郎・池田和政『国鉄乗車券類大事典』など