乗車変更の差額精算

乗車変更の運賃精算は、変更区間の運賃(方向変更・経路変更は、変更区間の差額)収受が基本であるが、例外として発駅からの運賃の差額を精算する方式(差額精算・発駅計算)がある。旅規は第249条第2項第1号ロで、差額精算を適用する乗車券について、

(イ)大都市近郊区間内にある駅相互発着の乗車券で、同区間内の駅に区間変更の取扱いをするとき。
(ロ)片道の乗車区間営業キロが100キロメートル以内の普通乗車券で区間変更の取扱いをするとき。

と規定している。発売当日限り有効、下車前途無効の乗車券が対象だが、これは1976年11月6日の旅規改定以降であり、1958年10月の旅規全面改定以降次のような変遷があった。

施行日 乗越 方向変更・経路変更
1958/10/01 ・原乗車券区間と乗越区間が通算150キロメートル以内 電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の変更
1961/04/06 電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の乗越
・原乗車券区間と乗越区間が通算150キロメートル以内
同上
1966/03/05 電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の乗越
・原乗車券区間と乗越区間が通算200キロメートル以内
・地図式の乗車券(原乗車券の着駅が東京都区内/大阪市内の駅で、東京駅/大阪駅から乗越着駅まで200キロメートルをこえるときを除く)
電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の変更
・地図式の乗車券(原乗車券の着駅が東京都区内/大阪市内の駅で、東京駅/大阪駅から変更着駅までまたは変更経路が200キロメートルをこえるときを除く)
1968/10/01 電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の乗越
・発駅又は着駅が電車特定区間内の地図式の乗車券(原乗車券の着駅が東京都区内/大阪市内の駅で、東京駅/大阪駅から乗越着駅まで200キロメートルをこえるときを除く)
・原乗車券区間と乗越区間が通算200キロメートル以内
電車特定区間内相互発着の乗車券による区間内の変更
・発駅又は着駅が電車特定区間内の地図式の乗車券

乗越と方向・経路変更との微妙な差も気になるが、とくに注目するのは、66年3月5日の旅規改定で地図式乗車券が追加されたことである。それまで地図式乗車券の発売は、旅規第189条第4種の備考で、20キロメートル以内の区間電車特定区間内相互発着に限定されていたが、同日の改定でこの備考が削除されたため、追加されたものと思われる。
1970年10月1日に乗車変更を旅行(使用)開始の前後で区分する制度の抜本的な改定があった。乗越・方向変更・経路変更はまとめて区間変更となり、差額精算の対象は第249条第2項ロに次のように規定された。

(イ)電車特定区間内にある駅相互発着の乗車券で、同区間内の駅に区間変更の取扱いをするとき
(ロ)第189条に規定する矢印式及び地図式乗車券(これらの乗車券の発駅又は着駅が電車特定区間内にあるものに限る。)並びに同条に規定する金額式乗車券で、区間変更の取扱いをするとき。ただし、原乗車券(金額式乗車券を除く。)の着駅が特定都区市内の駅である場合で、変更着駅まで又は変更経路による着駅までの鉄道区間のキロ程が当該中心駅から200キロメートルをこえるときを除く。

とキロ基準に代わって、乗車券の券種によって取扱いを異にすることとなり、これまでの地図式に矢印式と金額式が追加された。金額式は、着駅の判定が地図式や矢印式よりも困難なのに、それまで規定されなかったのは不思議であるが、旅規第189条の片道乗車券の様式として金額式が規定されたのは、この時が初めてだったのである。「国鉄乗車券類大事典」によると、それまでは運賃改訂の前後に地図式の代用として発売されたもので、正式な様式ではなかったようだ(p108)。
これ以降は、73年4月1日電車特定区間が大都市近郊区間に変更となり、74年10月1日矢印式と地図式が削除され金額式だけとなった。75年1月1日、(ロ)が「片道乗車の区間のキロ程が40キロメートル以内の普通乗車券で、区間変更の取扱いをするとき」と変更になり、券種基準に代わってキロ基準が復活したが、当時の有効1日・下車前途無効区間であるの50キロ以内と一致しない。これが76年11月6日、50キロ以内に改定され、ようやく現行と同じ基準になった。
筆者の疑問は、券種の違いによって実際に精算額に差が生じたかどうかである。電車特定区間、キロ基準と地図式が併存していた、66年3月5日から70年10月1日までの間に、地図式乗車券が電車特定区間内以外の区間と30-50キロ超の区間で実際に発売されただろうか。「大事典」109ページの表8-2によると、首都圏では51キロ以上の列車区間は、一般式だけで地図式は発売されていない。
矢印式と金額式が追加され、キロ基準が撤廃された70年10月1日以降も、首都圏の51キロ以上の列車区間はすべて一般式である。しかし関西では異なっているかもしれない。筆者のコレクションには、70年9月6日(45.9.6)発行の飾磨港から姫路ゆきの一般式B型券(40円)と姫路から40円の矢印式券(最遠駅は太市、飾磨港、似豊野、曽根)がある。もしこれが10月1日以降も発売されていたとしたら、前者で宝殿まで乗越したときの精算額は姫路・宝殿間12.4キロの打ち切り計算で60円(計100円)、後者で東加古川まで乗越したときは差額精算で60円(計80円)となる。乗車区間は前者が18.2キロで後者が19.3キロ、16-20キロの同じキロ帯でも合算額は100円と80円と異なることになる。
もう一つは、矢印式・地図式と金額式との差異。川崎から蒲田までの乗車券で、東京駅から200キロを超える東北本線で矢吹まで乗り越すときは、地図式乗車券は東京駅からの打ち切り計算で30円+890円の計920円、金額式は差額精算で川崎*1・矢吹間の970円になる。なお川崎駅で同時に2種類の券種が発売されていたかは不明である。
追記(11月11日):キロ基準が券種基準に代わり、その後キロ基準が復活したと書いたのは、正確でなかった。70年10月以前のキロ基準は原券区間と乗越区間の通算キロであったのに、75年以降は原券の券面キロによる取扱いの差異である。乗越の差額計算は、電車特定区間(大都市近郊区間)基準を除くと、実乗車区間のキロ→実乗車キロと乗車券種の併用→乗車券種→原券の券面キロと変化した。
だから「66年3月5日から70年10月1日までの間に、地図式乗車券が電車特定区間内以外の区間と30-50キロ超の区間で実際に発売されただろうか」と書いたのは意味がなかった。この期間地図式乗車券(68年10月1日以降は電車特定区間発着に限る)は、その券面キロにかかわらず(電車特定区間相互発着でなくても、乗車区間が200キロ超の場合であっても)差額計算が適用された。
むしろ、70年10月1日以前、なぜ矢印式や、旅規に規定がなくても運賃改定の前後に発売されてた金額式乗車券に適用されなかったか、疑問である。ローカルルールがあったのかもしれない。

*1:横浜市内駅