IC乗車券の運賃計算経路

読者から2013年11月10日の記事IC定期乗車券の別途乗車について、メールでコメントと質問を受けた。
前記事は、IC定期乗車券の券面表示区間区間外とをまたがって乗車する場合は、別途乗車として、ラッチ通過にかかわらず定期券区間外の最低廉運賃を減算する取扱い(JR東日本ICカード乗車券取扱規則66条*11項)について、津田山・津田沼間を例に書いたもの。この記事に対しコメントがあり、定期券面区間外から乗車した場合のシステム設計上の制約があり、往復とも同一運賃を適用するための取扱いである、とのことだった。
今回の質問者がJR東日本に問い合わせて確認した例は、新鎌ヶ谷・新松戸間(東松戸接続)のpasmo定期券を所持する旅客が、都営浅草線三田、三田線白金高輪、メトロ南北線永田町、半蔵門線大手町、千代田線北千住と、ノーラッチで乗り継いだときの減算運賃は、券面外最低廉運賃のJR新松戸・北千住間のIC運賃302円であること。前記事の例で、武蔵小杉経由でノーラッチで、JRのみを利用したときに小田急、メトロ経由の最低廉運賃が減算されたと同じ取扱いである。「このルートを逆向きに乗った場合も同じか」という質問を受けたが、前記事のコメントからむしろ逆方向のための措置であり、同額と回答した。
もう一つの例は、定期券ではなくSF利用で、JR武蔵野線市川大野駅で入場し、新松戸、北千住、茅場町と乗り継いで西船橋で下車したときの運賃が市川大野・西船橋間のJRのIC運賃154円というもので、これはメトロに確認したという。西船橋駅はJRとメトロとの間に中間ラッチが設置されたが、メトロ側から出場してもノーラッチ最低廉運賃が適用されたことになる。これに関連して、「武蔵野線各駅から西船橋経由で京葉線各駅までの定期券において定期券区間内で乗車して新松戸駅乗換・北千住駅経由で東京メトロ線の駅で下車した場合において乗り越し計算の起点が新松戸駅でなく西船橋駅から地下鉄東西線に乗車したとみなして計算される可能性はあり得るのでしょうか」という質問。これもICカード乗車券取扱規則66条は連絡定期券に限定していないので、西船橋経由の低廉となる運賃が減算されるだろうと回答した。そういえば、2007年6月18日の記事で書いた、メトロ直通津田沼行きに乗り継ぐために中間ラッチを通過するとJRの運賃が打ち切りになるバグは解消されたのだろうか。
3番目の質問は、市川大野(武蔵野線)新松戸(常磐線)北千住(東京メトロ千代田線)表参道(東京メトロ半蔵門線)渋谷(東京メトロ副都心線)和光市(東武東上線)朝霞台とノーラッチで乗車した場合の運賃。西船橋を経路に含む定期券で乗車した場合は、市川大野(武蔵野線)西船橋(東京メトロ東西線)飯田橋(東京メトロ有楽町線)和光市(東武東上線)朝霞台の経路の低廉運賃が減算されるが、SFの場合は、乗車経路の、JR、メトロ(北千住・和光市間の最低廉経路)と東武の運賃の合算となるだろう。

追記1(8月20日):中野・西船橋間の運賃計算経路について多くのコメントを頂いたが、乗車区間別に整理すると次のようになる。

乗車区間 西船橋ラッチ IC運賃 運賃経路 Suica規則
高円寺―船橋 中間非通過 637円 JR 63条2号(38条)
高円寺―船橋 中間通過 574円 JR-メトロ-JR 63条1号
高円寺―西船橋 JR出場 550円 JR 38条
高円寺―西船橋 メトロ出場 441円 JR-メトロ 63条1号
中野―船橋 中間非通過 441円 メトロ-JR
中野―船橋 中間通過 441円 メトロ-JR 63条1号
中野―西船橋 JR出場 550円 JR 38条
中野―西船橋 メトロ出場 308円 メトロ メトロ規則

やまやまさんの

減額すべきIC運賃の計算経路上に「JR(西船橋接続)メトロ」を含む場合、運賃計算区間が「JR+メトロ」の2社(以内)完結ならば西船橋の連絡改札が存在しないものとして判定、「JR+メトロ+他社(再度JRの場合を含む」のように3社以上*2に跨る場合は西船橋の連絡改札を通ったか否かによって厳密に判定

がポイントで、中野・船橋間を西船橋駅の中間ラッチ非通過で乗車した場合もメトロとJR運賃の合算となるようだ。ところが、ジョルダンの乗換案内で中野→船橋を検索すると、御茶ノ水乗換え、中央・総武緩行線直通、東京乗換えのいずれも、全線JRのIC運賃550円で、東西線西船橋まで行き総武線に乗換えたケースのみがメトロ+JRの441円となっている。乗換案内のバグだろうか。
上記の「2社以内ならば連絡改札が存在しないものとして判定」を本文の3番目の質問「市川大野(武蔵野線)新松戸(常磐線)北千住(東京メトロ千代田線)表参道(東京メトロ半蔵門線)渋谷(東京メトロ副都心線)和光市(東武東上線)朝霞台」にあてはめると、和光市までのIC運賃は、SFのみの利用のときでも、西船橋経由の運賃462円(市川大野・西船橋間154円+西船橋和光市間308円)が減算されることになる。これも乗換案内では市川大野(西船橋)飯田橋間の464円と飯田橋和光市間の237円の合算額の701円になっている。なぜ飯田橋で打ち切るのだろう。
注:表にIC運賃を追加した(8月22日)
追記2(8月22日):紙の乗車券とIC乗車券は、基本的に運送契約が異なる。紙の乗車券は、あらかじめ乗車区間と経路を定めて所定の運賃を支払い、乗車券の交付を受けて契約が成立する。したがって、旅客営業規則に途中下車や選択乗車などの乗車券の効力や、購入後または乗車後の乗車変更の規定が必要になる。
一方IC乗車券は、自動改札から入場したときが契約成立時点であり、旅客が当初想定していた目的地とルートにかかわらず、下車駅の自動改札から出場した時点で、乗車区間の最低廉運賃を減算する。一乗車一契約である。このため、乗車変更という概念は存在しない。大都市近郊区間Suica区間はほぼ等しいが、大回り乗車において前者が最短ルートの乗車券でう回乗車を認める乗車券の効力(選択乗車)の規定であるのに対し、後者は最短ルートの運賃を減算している。Suica乗車券の効力規定は、第40条の「片道1回、環状線1周にならない」という非常にシンプルなものである。
だから、バスさんのコメントにあるような

ICの普及が進むと旅客営業規則のような分厚い本が、全く別のものとしてできるのでしょうか。(現在のIC規則が徐々にページ数が増していって、旅規の方が廃止になるのでしょうか?)

ということにはならないはずである。
相互乗り入れが進展している首都圏において、最低廉運賃ルートは、一事業者だけでなく、複数事業者間にまたがるノーラッチ・ルートに拡大した。これがIC乗車券の運賃計算ルールを複雑にしているが、その一つの要素としてJRの対キロ制運賃がある。300キロまで同一の賃率で遠距離逓減効果が働かないから、対キロ区間制運賃を採用している私鉄各社に比べ、中長距離の運賃が極めて割高になる。このため、「IC定期乗車券の別途乗車」で書いた津田山・津田沼間や、今回話題になった東西線経由など、JR一社だけの運賃が複数事業者を乗り継ぐ連絡運賃よりも高くなる区間が頻出している。
この問題を抜本的に解消するためには、ヨーロッパの大都市圏で行われているゾーン制による、鉄道、地下鉄、路面電車、バスなど各輸送モードをまたいだ共通運賃に移行するしかないと思う。しかし、首都圏は鉄道事業者が極めて多く、そのほとんどが株式を上場している民間事業者で、ゾーン制移行に伴う利害関係を調整することは不可能だろう。日本の大都市圏は、鉄道事業者が税金による補助を受けず旅客輸送で採算が取れる、世界でもきわめて稀な地域なのである。
そこで、次善の策として、JRがIC乗車券に限り、首都圏の100キロ圏(熱海、大月、高崎、宇都宮、友部、佐原、大原、君津)において対キロ区間制運賃を採用することはできないだろうか。ヨーロッパでもゾーン制の都市圏内運賃と、急行料金と一体化した都市間運賃との二重運賃になっているから、その応用である。すでに、IC運賃と乗車券の運賃とには、格差があるのだから。

*1:当時は54条

*2:のちに「JR+メトロ+JR」のみに限定と訂正