回数定期乗車券と定期回数乗車券

9月4日の記事に追記したように、旅規の回数定期乗車券の規定は不十分なので、自動車線共通乗車規則(以下、共通乗車規則)を調べてみた。共通乗車規則が制定されたのは、昭和33(1958)年4月1日(3月12日付国鉄公示第78号)*1で、別表に岩手中央バスの盛岡・陸前高田間など13社局12区間が記載された。共通乗車旅客の範囲は、普通乗車券と回数乗車券がほとんどで、陸前乗合自動車の築館町・石越間だけ、定期乗車券が含まれていた。
旅規に回数定期乗車券が規定された昭和41(1966)年12月26日施行の改定(12月23日付公示第824号)時に、宮城バス陸前古川・仙台間が共通乗車規則別表に追加され(12月23日付公示第826号)、旅客の範囲は

陸前古川・大衡間と富谷・仙台間とにまたがる定期乗車券(自動車線通勤回数定期乗車券及び自動車線通学回数定期乗車券に限る。)を所持する旅客

と、回数定期乗車券が共通乗車の対象になった。なお、同日の公示第825号は、「自動車線通勤回数定期旅客運賃及び自動車線通学回数定期旅客運賃を次のように定める。」というものだが、「内容省略。ただし、関係の自動車営業所及び停車場に掲げる。」としか記載されておらず、どの程度の割引率だったかわからない。
国鉄バスの「回数定期乗車券」とバス標準約款の「定期回数乗車券」の違いも謎だったが、図書館であたった「国鉄自動車五十年史」(国鉄自動車局、1980年12月)に解決の手がかりとなる記述*2があった。

定期回数旅客運賃には「通勤」、「通学」の2種類があり、基本的な性格は定期旅客運賃と同一であるが、特に運賃算定の基礎である基準乗車回数(1箇月60回)を著しく上回って乗車すると認められる区間に限って毎日1往復に限定した定期回数乗車券(乗車回数52回)を事業者の任意で設定できることとしている。
国鉄バスでは、民営バスとの定期乗車券の共通乗車の精算等の必要性から、昭和41年12月古川線に採用したものを始めとして、現在全国7路線において「自動車線回数定期乗車券」として設定している。

要するに、運輸省のバス標準約款は、乗車回数を制限する「定期回数乗車券」を規定していたが、国鉄バスはこれを「回数定期乗車券」として共通乗車区間に設定したということらしい。乗車券の効力も様式も定期乗車券というよりも回数乗車券であり、「定期回数乗車券」というほうが正しそうだ。
9月4日の記事の追記で定期回数乗車券の画像を紹介したJRバス関東の「草津温泉長野原草津口」は、国鉄バスを引き継いだ路線だが、自動車線回数定期乗車券の共通乗車区間には含まれていなかった。乗車回数の制限だけが目的だろうから、裏面の回数チェック欄だけで十分だったのだ。
なお、「国鉄自動車五十年史」がいう1980年当時の7路線とは、事業者と路線のくくりがよくわからないが、おそらく次の区間だろう。

事業者区間設定日終了日
宮城交通陸前古川・仙台間1966/12/16
上田交通/千曲自動車上田・上和田間、大門落合・入大門間1970/02/161985/03/10
千曲自動車小諸・浅間山荘前間1967/02/271985/03/10
浅間橋・高峰温泉口間1969/07/011985/03/10
琴平参宮電鉄善通寺大通・高松間1967/05/011982/03/01
琴平・善通寺大通間1967/05/011982/03/01
川之江−仁尾−詫間善通寺通間1967/05/011982/03/01

追記(9月28日):1980年以降の共通乗車規則の変遷をたどってみたが、表の路線以外に自動車線回数定期乗車券の設定はなかった。また、表に追加した終了日のとおり、宮城交通との古川・仙台間を除いて分割民営化までに廃止されていた。
JRバス東北仙台・古川間は高速道路経由になり、普通運賃のほかには金券式回数券しかない。民営化以降廃止されたのだろう。なお、自動車線回数定期乗車券が旅規から削除されたのは、JR九州の自動車線が子会社に移管された2001年7月1日である。

*1:国鉄自動車五十年史」によると共通乗車そのものは、昭和24(1949)年12月20日遠州鉄道豊橋・浜松間で実施したのが始まり

*2:p234、第3章営業、第2節運賃、I旅客運賃、1乗合バス運賃、(4)現行運賃、(エ)定期回数旅客運賃