公営バス事業者の運賃規定

前記事で予告した、公営バス事業者の運賃規定である。内容と構成は事業者によって異なり、ある意味で鉄道運賃の規定よりも興味深い。調査対象は、ウェブの例規集に掲載されている次の事業者の条例及び施行規程等である*1

事業者 条例 施行規程等
青森市 市営一般乗合自動車料金条例 市営一般乗合自動車料金条例施行規程
八戸市 自動車乗車運賃等条例 自動車乗車運賃等条例施行規程
花巻市 市営バス条例 市営バス条例施行規則
仙台市 乗合自動車運賃条例 乗合自動車運賃条例施行規程
東京都 乗合自動車条例 乗合自動車条例施行規程
八丈町 乗合自動車条例 一般乗合旅客自動車運送事業運送約款
三宅村 乗合自動車条例
横浜市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
川崎市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
南アルプス市 自動車運賃等徴収条例
伊那市 市営バス運賃及び料金等徴収条例 市営バス運賃及び料金等徴収規程
名古屋市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
京都市 乗合自動車旅客運賃条例 乗合自動車旅客運賃条例施行規程
大阪市 自動車運送乗車料条例 自動車運送乗車料条例施行規程
高槻市 自動車運送事業条例 自動車運送事業条例施行規程
神戸市 乗合自動車の乗車料金等に関する条例 乗合自動車の乗車料金等に関する条例施行規程
尼崎市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
伊丹市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程
松江市 乗合旅客自動車運送条例 乗合旅客自動車運送条例施行規程
宇部市 市営旅客自動車運送条例]
岩国市 乗合自動車等使用料条例
徳島市 市営旅客自動車運送事業条例 市営旅客自動車運送事業条例施行規程
小松島市 市営乗合自動車使用条例 市営乗合自動車使用条例施行規程
北九州市 自動車事業使用料及び手数料条例 自動車事業使用料及び手数料条例施行規程
佐賀市 自動車運送事業自動車の運賃及び使用料条例 自動車運送事業自動車運賃及び旅客の取扱い規程
長崎県 県営バス運賃等条例 県営バス運賃等規則
佐世保市 市営自動車条例 市営自動車条例施行規則
熊本市 自動車運送条例 自動車運送条例施行規程
鹿児島市 乗合自動車乗車料条例 乗合自動車乗車料条例施行規程

上記の事業者のうち、横浜市川崎市名古屋市京都市大阪市尼崎市伊丹市の普通運賃は均一制である。このほか、東京都、仙台市高槻市、神戸市、松江市徳島市が都心路線の均一運賃と郊外路線の対キロ区間制運賃を併用している。対キロ区間制運賃はこのほか、青森市八戸市花巻市八丈町三宅村南アルプス市伊那市宇部市、岩国市、小松島市佐賀市長崎県佐世保市熊本市鹿児島市で採用され、うち長崎県鹿児島市都心部の特殊区間*2との併用である。

東京都乗合自動車条例第3条は、

(普通旅客運賃)
第三条 普通旅客運賃は、次に定めるとおりとする。
一 十二歳以上の者 一人一旅客運賃区間一乗車につき二百十円以内で管理者が定める額
二 十二歳未満の者 前号に定める額の五割の額(計算上十円未満の端数を生じた場合は、その端数を十円を単位として切り上げて得た額)
2 管理者は、特殊な需要に応ずるため必要があると認めたときは、前項の規定にかかわらず、普通旅客運賃を定めることができる。
3 前二項の規定にかかわらず、旅客の同伴する一歳未満の者の旅客運賃は、無料とし、旅客の同伴する一歳以上六歳未満の者の旅客運賃は、旅客一人につき、二人までは無料とする。

と定めている。このように条例で上限運賃を定め、施行規則で実施運賃(ほとんどの場合上限運賃と一致)を規定するのが一般的である。都営バスの均一運賃は4種類あり、東京都乗合自動車条例施行規程は第8条第1項で

(大人の普通旅客運賃)
第八条 大人の普通旅客運賃は、一運行系統につき二百十円とする。ただし、別表第一に掲げる運行系統(以下「学バス系統」という。)においては百八十円、別表第一の二に掲げる運行系統においては百九十円、別表第一の三に掲げる運行系統においては百円とする。

と定めている。別表第一の二はCH01系統(新宿駅西口・都庁第一本庁舎循環)、別表第一の三はAL01系統(東大島駅前・小松川さくらホール前循環) である。
対キロ区間制運賃は青梅営業所所管の路線で、施行規程第9条に

第九条 前条の規定にかかわらず、大人の普通旅客運賃は、別表第二に掲げる運行系統にあつては乗車区間に対応して同表に定める額とする。(後略)

と定め、運賃は別表第二の三角表に記載されている。

対キロ区間制の事業者・路線のうち、花巻市伊那市は条例の別表で運賃を定めている。鹿児島市は、東京都と同様施行規程の別表に記載している。南アルプス市は、条例本文で区間ごとの運賃を規定している。区数による運賃を規定しているのが北九州市。神戸市は、対キロ区間区間の運賃について施行規程で初乗り区間の運賃だけを規定し、その他は「別に定める」として記載していない。

青森市営バスの対キロ区間制運賃規定は、条例で

(料金制度の形態及び基準賃率)
第三条 料金制度の形態は、対キロ区間制とする。
2 基準賃率は、一人一キロメートル当たり四十一円九十銭の範囲内で管理規程で定めるものとし、料金計算の賃率は、二キロメートルまでの区間については基準賃率の二倍とし、二キロメートルを超え、十キロメートルまでの区間については基準賃率とし、十キロメートルを超え、二十キロメートルまでの区間については基準賃率を一割逓減した賃率とし、二十キロメートルを超え、三十キロメートルまでの区間については基準賃率を二割逓減した賃率とし、三十キロメートルを超える区間については基準賃率を三割逓減した賃率とする。

と定め、基準規程で

(基準賃率)
第二条 条例第三条第二項に規定する基準賃率は、一人一キロメートル当たり四十一円九十銭とする。

と上限運賃と同一の賃率を規定している。この方法を採用しているのが、次表の各事業者。賃率とキロ帯ごとの倍率を比較すると次のとおり*3

上限賃率 実施賃率 -2キロ -10キロ -20キロ -30キロ 31キロ- 最低運賃 三角表
青森市 41.9 41.9 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70
八戸市 37.7 37.7 2.00 1.00 0.70 0.60 0.50
仙台市 38.1 38.1 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 150
松江市 36.7 2.00 1.00 0.90 0.85 0.80 150 あり
宇部市 37.7 37.7*4 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70
岩国市 34.1 34.1 2.00 1.00 0.80 0.70 0.60
佐賀市 40.7 2.00 1.00 0.85 0.75 0.65 150 あり
長崎県*5 32.4 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 あり
佐世保市 33.7 2.00 1.00 0.90 0.80 0.70 あり
熊本市 32.5 2.00 1.00 0.90 0.80 0.80

鉄道事業者の旅規に規定されていない対キロ区間制運賃の算定根拠が示されていて興味深い。基準賃率に対する倍率は10キロまでは全市同一だが、10キロ超が異なり、八戸市がもっとも遠距離逓減運賃である。

*1:名称中の自治体名は省略した。リンクがないものは、各自治体の例規集のトップページからからログインして入れば読める。

*2:対キロ区間制との相違がよくわからない。ご存知の方ご教示願いたい。

*3:このほか、八丈町三宅村高槻市が条例で基準賃率を定めているが、キロ帯ごとの適用倍率を規定していない。

*4:「交通局長が定める普通運賃の基準賃率に係る告示」で規定

*5:施行規程(長崎県営バス運賃等規則)で規定