IC定期乗車券の別途乗車

10月29日、国土交通省がIC乗車券で1円単位の運賃を認可するとしたのを受け、JR東日本は1円単位の運賃の導入を発表した。メディア等ではもっぱらIC乗車券と券売機の二重運賃について議論しているが、これは現在でも北千住・西日暮里間の通過連絡運輸など(パスネットの不思議参照)で存在し、本質的な問題ではない。
IC乗車券で同じ区間を乗車しても、IC定期乗車券とSFのみのIC乗車券で運賃の差が出ることがある。例えば、南武線津田山駅から総武線津田沼までのJR東日本の運賃は49.9キロ、780円。Suica乗車券で武蔵小杉乗り換えで乗車すればこの金額が減算される。しかし定期券区間内に津田山・登戸間を含むIC連絡定期乗車券(津田山・向ヶ丘遊園間など)で同区間を乗車すると、減算額は670円で110円安くなるはずである。この運賃計算の根拠は、JR東日本ICカード乗車券取扱規則第54条第1項である。

Suica定期乗車券の券面表示区間外を乗継ぐ場合の運賃の減算)
第54条 Suica定期乗車券(第49条第2項第1号から第3号に規定する発行会社のICカード乗車券でSuica定期乗車券に相当するものを含む。以下本章において同じ。)の券面表示区間区間外とをまたがって乗車する場合は、別途乗車として取り扱い、出場駅において、券面表示区間外に対して第51条から前条の規定を準用して算出した普通旅客運賃を減算します。

津田山は券面表示区間内、津田沼区間外であるが、いずれもJR東日本の駅である。条文が参照を重ねているのでわかりにくいが、準用される第51条は

(接続駅で改札を受けずに乗継ぐ場合の運賃の減算)
第51条 Suica乗車券(第49条第2項第1号から第3号に規定する発行会社のICカード乗車券でSuica乗車券に相当するものを含む。以下本章において同じ。)で入場し、接続駅において改札を受けることなく当社線を含む複数の鉄道会社線(合わせて4社以内に限ります。)を乗継いで乗車する場合は、出場駅において、次の各号に定める金額をSF残額から減算します。
(1) 第2号及び第3号に該当しない場合は、第27条の規定による当社の普通旅客運賃と鉄道会社毎に定める普通旅客運賃との合算額
(2) 乗車区間の入場駅及び出場駅が当社線となる場合は、両駅間の経路に他の鉄道会社線を含むときであっても、全乗車区間について当社線を利用した場合の第27条の規定による当社の普通旅客運賃
(3) 別に定める乗継割引適用区間又は他の鉄道会社が定める割引適用区間が乗車区間に含まれる場合は、第1号の規定により算出した金額から当該割引額を差し引いた金額

と、第27条を参照している。第27条は最低廉経路による運賃減算の規定である。
したがってIC定期乗車券の場合、券面区間外の津田山・津田沼間または登戸・津田沼間を別途乗車として扱い、その最低廉運賃を減算する。登戸で乗り換えていない(登戸駅のラッチを通過していない)にもかかわらず、津田山・津田沼間のJR東日本の運賃よりも低廉な登戸・津田沼間の最低廉運賃、小田急登戸・代々木上原(11.7キロ、210円)、東京メトロ代々木上原西船橋(29.5キロ、300円)、JR東日本西船橋津田沼(6.1キロ、160円)の合算額670円が別途乗車区間として減算されるのだ。
この例は、SuicaPASMOとの相互乗り入れが始まった2007年3月当時、想定していなかったのだろう。JR東日本1社だけの経路よりも、3事業者を乗り継ぐ運賃のほうが安いというのは、常識的には考えられないからだ。JR東が距離比例的な対キロ運賃を、東京メトロが運賃上昇勾配が極端に低い対キロ区間運賃を採用している(鉄道事業者の運賃比較参照)ため生じた事態である。明らかに、JR東日本線だけを経由したときまで、最低廉運賃を適用することはないと思うのだが。