続・連絡運輸の8の字切符

7月17日の記事に追加する。
なぜJRは8の字ルートの片道乗車券を発売しないのか
JR各社の旅規26条1号は、片道乗車券の発行要件を

(1)片道乗車券普通旅客運賃計算経路の連続した区間を片道1回乗車船(以下「片道乗車」という。)する場合に発売する。ただし、第68条第4項の規定により鉄道の営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切つて計算する場合は、当該打切りとなる駅までの区間のものに限り発売する。

と定めている。これを受けた68条4項は、第1号で

鉄道・航路を通じた計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間の鉄道の営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。

と定め、環状線を一周した時点で運賃計算のキロが打ち切られることになる。「運賃計算の通算区間=片道乗車券の発売区間」であるから、8の字の第一のループが完了するまでの区間しか、片道乗車券は発売されない。しかし、JR単独の8の字切符が発売されないから、連絡運輸の8の字切符も発売されないということはない。
連絡運輸の場合はどうか
連絡運輸とは、複数の鉄道事業者が連絡運輸契約を締結し、目的地の駅まで1枚の乗車券で複数の鉄道を利用できるようにした制度である。その運賃は、原則としてそれぞれの事業者の運賃を合算する。連絡運輸では、もともと事業者にまたがってキロを通算しないのだから、8の字ルートで別の事業者の同じ駅に到達しても、運賃計算のキロが打ち切られることはない。そこで、前にも引用したとおり、連絡運輸規則第16条は、片道乗車券の発売条件を

普通旅客運賃計算経路の連続した区間を片道1回乗車船(以下「片道乗車」という。)する場合に発売する。ただし、旅客規則第68条第4項の規定により鉄道の営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切つて計算する場合は、当該打切りとなる駅までの区間のものに限り発売する。

とし、発売しないケースを旅規68条によるキロの打切り、すなわちJR線区間環状線1周等に限定しているのである。
連絡運輸の場合であっても、事業者ごとに合算した運賃から一定額を割り引くことがある。よく知られているのは、東京メトロ都営地下鉄の乗り継ぎの70円引きである。東京都地下高速電車連絡運輸規程は、

第四条 旅客運賃は、地下高速電車で定める旅客運賃と当該連絡運輸機関で定める旅客運賃との合算額とする。
 東京メトロ線との連絡運輸の旅客運賃は、前項の規定にかかわらず、次のとおりとする。
一 片道普通旅客運賃
イ 大人
それぞれの大人片道普通旅客運賃を合算した額から七十円を差し引いた額。この場合、発着駅間の経路が二以上あるときは、旅客運賃が最も低額となる経路を乗車するものとみなして計算する。

と規定している。連絡きっぷの乗車ルートが東京メトロ都営地下鉄の接続駅で交差しても、各事業者のルートが重複しなければ問題ない(メトロ・都営全ラッチ外接続駅全制覇260円最長ルート参照)。まして、運賃を単純に合算する連絡運輸で、事業者間の接続駅での交差禁止を定める理由がない。
通過連絡運輸の場合はどうか
通過連絡運輸の場合は、ルートの中間に別の事業者をはさむ連絡運輸で、同一事業者の前後の運賃計算キロを通算する。このケースでは、前後の運賃キロを通算する事業者の判断で、通過連絡の8の字きっぷを発売しないことを正当化できるかもしれない。しかし、前に述べたようにJRの旅客連絡運輸規則には、単純連絡・通過連絡にかかわらず、8の字連絡乗車券を発売しないという規定はなく、運賃計算についても

(中間に連絡会社線が介在する場合における旅客会社鉄道線営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロの通算)
第44条 旅客が連絡会社線を通過し、前後の旅客会社鉄道線にまたがって乗車船する場合の旅客会社鉄道線の旅客運賃・料金は、その前後の旅客会社鉄道線の営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを通算して計算する。

と、何らの制限を設けていない。
鉄道事業者の内規や事業者間の契約で定めているのでは
連絡運輸規定では禁止されていないが、JRの内規または連絡運輸契約に別の規定があるのかもしれない、という疑問がある。しかし、鉄道会社は、公表しない内規等で、約款の規定よりも旅客にとって不利なルールを定めることはできない。鉄道事業者と旅客との関係を定めた鉄道営業法及びその運賃その他の運送条件を定めた国土交通省令鉄道運輸規程は、次のように鉄道事業者に対し、運賃その他の運送条件を公示するよう求めている。

鉄道営業法第三条
運賃其ノ他ノ運送条件ハ関係停車場ニ公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス
鉄道運輸規程第四条
鉄道ハ停車場ニ運賃表、料金表、旅客列車(混合列車ヲ含ム以下同ジ)ノ時刻表其ノ他運輸上必要ナル諸表規則等ヲ備附クベシ

これらに基づき、JR各社は運送約款としての旅客営業規則を公示しており、その内規である旅客営業取扱基準規程は、約款である旅規に追加して、旅客の便宜を図る取扱を定めている。たとえば、基準規程110条の列車特定区間の制度は、旅規69条の経路特定区間を拡張する形で、旅客にとって有利な取扱を定めてたものである。
万一、JRが内規で、約款で禁止していない8の字連絡切符を発売しないと定めていても、それは鉄道営業法に照らして無効である。