時刻表12月号に相鉄・JR連絡線掲載

JTB時刻表JR時刻表の12月号が店頭に並んだ。11月30日の相鉄・JR連絡線開業に伴う、ダイヤ改正号である。新ダイヤは、JR時刻表では本文に記載しているが、JTB時刻表別冊付録JR・相鉄直通列車時刻表」で、埼京線湘南新宿ライン相鉄線(大宮~新宿~海老名)の時刻を掲載している

巻頭地図はどちらも、羽沢横浜国大駅と鶴見駅太い黒線で結んでいる。非営業路線を二重線で記載するJTB時刻表では、羽沢横浜国大駅は羽沢貨物線の途中から分岐し、相鉄線とつながっている。2月28日の記事で書いたように、鶴見・羽沢横浜国大間は8.8キロ、現行の鶴見・横浜羽沢間よりも0.5キロ長い。分岐点は横浜羽沢駅構内で、分岐点から羽沢横浜国大駅までの0.5キロはJRの新線のようだ。

9月9日付のJR東海の運送約款の改正履歴は、旅規156条2号イを改定していなかったが、鶴見・羽沢横浜国大間は、東京近郊区間に含まれている。特定分岐区間は、次の3区間が追加された(JTB時刻表の表記による)。基準規程149条第4-6号として規定されると思われる。

  • 横浜以遠(保土ケ谷または桜木町方面)の各駅と羽沢横浜国大駅との各駅相互間(鶴見-武蔵小杉)
  • 新川崎駅と羽沢横浜国大駅との各駅相互間新川崎-武蔵小杉)
  • 鶴見、新子安、東神奈川または川崎以遠(蒲田または尻手方面)、国道以遠(鶴見小野以遠)もしくは大口以遠(菊名方面)の各駅と羽沢横浜国大駅との各駅相互間(鶴見-横浜、新子安-横浜、東神奈川-横浜、鶴見-武蔵小杉)
鶴見・羽沢横浜国大間のように鶴見・武蔵小杉間が区間外乗車区間のケースでは、区間外を往復することができないから、近郊区間の選択乗車との併用によって川崎、南武線経由の乗車を認めるということだろう。
 

 

国鉄の再建

昭和45(1970)年出版の「国鉄の再建」を古書店で見つけた。日本国有鉄道審議室編で、交通協力会出版部の発行。
前年の「日本国有鉄道財政再建特別措置法」(S44.5.9法律第24号)の施行を受け、運輸省の「日本国有鉄道の財政の再建に関する基本方針」(S44.9.12閣議決定)に基づき、国鉄は「日本国有鉄道の財政の再建に関する経営の基本的計画」(S45.2.19)を策定した。この本は、国鉄の基本的計画に関する部内向けの解説書として刊行されたようだ。
旅客運賃制度について、興味深い記述があるので紹介する。

 現在は上野から札幌へグリーン車で行く場合、札幌までの乗車券とグリーン券、青森までの特急券・寝台券、連絡線の座席指定券、函館から札幌までの特急券といった具合に、5枚もの切符をもたないと行けないし窓口もひとつの窓口では用が足りない場合が少なくない。最近、電算端局装置で乗車券と指定券が1枚の切符で売れるようになり、また手作業の場合にも乗車券と急行券の1枚化がすすめられたりしているが、まだ不十分な点が多い。また運賃・料金の制度上も、例えば急行列車を乗りかえるごとに別に急行料金がいるなどの問題もあって、旅客にとって不便であるのはもちろん、国鉄にとっても取扱いがそれだけ複雑となり、切符の発売を機械化する場合のあい路にもなっている。
 そこで、今後は切符類はできるだけ1枚で売れるように、運賃料金制度を検討して改善を図る。

ヨーロッパのようにインターシティ運賃と都市圏内運賃を分離して、都市間運賃は急行料金込みにする構想*1だと思うが、実現しなかった。実際に検討されたのだろうか。それをいうなら、特別措置法が成立した1969年5月9日の運賃改定時点に、運賃の等級制をやめてグリーン料金制度に変更したのも、切符の1枚化に逆行する動きだった。

 現在は、全国どこでもキロ当たりいくらという運賃制度(全国一律対キロ運賃制)を採用しており、この制度は、全国鉄道輸送網の確立、地域開発の促進等に大きな役割を果たしてきた。
 しかし近年、大都市の発展が著しく、対キロに基づく運賃制度では、同一都市内発着の場合でも、駅が異なることによって運賃が相異し、運賃算定上煩雑であるばかりでなく、今後輸送の近代化をはかる上にも障害となっている。
 したがって、今後の輸送体制の近代化に即した運賃制度を考える必要があるので、例えばゾーン運賃の拡大、線区内均一運賃制度等について検討することとする。

このページには「ゾーン運賃の拡大」と題した地図がある。都区市内発着の共通運賃の六大都市が「現行」として示され、他に「拡大」として旭川地区、札幌地区、函館地区、青森地区、盛岡地区、仙台地区、秋田地区、山形地区、新潟地区、長野地区、金沢地区、鳥取地区、島根地区、広島地区、高松地区、福岡地区、熊本地区、鹿児島地区が記載されている。このうち、1972年9月1日の旅規改定で実現したのは、札幌、仙台、広島、北九州、福岡の5市にとどまっている。市内共通運賃がなぜ「輸送体系の近代化に即した運賃制度」なのか、また「線区内均一運賃制度」が何を意味するのかも不明である。
なお、この法律は第一次「日本国有鉄道財政再建特別措置法」で、昭和44年度から10年間を再建期間とする再建計画を定めているが、赤字額の増加に歯止めがかからず、昭和51年11月5日廃止された。その後第二次「特別措置法」(S55.12.27法律111号)が制定された。新法で地方交通線における割増運賃が規定され、全国一律運賃が崩れた。

*1:都市圏内運賃は他の輸送モードとの共通のゾーン運賃

和久田康雄氏逝去

鉄道ピクトリアル7月号の最終頁に

本誌編集委員として長年にわたりご指導をいただいてきた、私鉄史研究の第一人者和久田康雄さんが逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。次号で追悼文を掲載する予定です。

という、あまり目立たない記事が掲載されている。他のメディアに訃報は出ていないようだ。
和久田氏の著書はけっこう読んでいる。書棚にあったのは(単著のみ)

「私鉄史ハンドブック」は、1968年刊行の「資料・日本の私鉄」の増補版で、和久田氏のライフワークである私鉄史研究の集大成。副題に"Private railways of Japan, Their networks and fleets - 1882 to 1991" とあり、事業者ごとの路線と車両の変遷を記している。巻末に英語のIndexやNoteもある。さらに改稿して2014年に「鉄道ファンのための私鉄史研究資料 1882 to 2012」が刊行されたようだが、これはもっていない。
「日本の私鉄」と「日本の地下鉄」は、岩波新書には珍しい鉄道書である。同じく1980年代に刊行された原田勝正氏の「満鉄」(1981年)、「日本の国鉄」(1984年)と対をなす。当時編集部に「鉄」がいたのかと「あとがき」を調べたが、和久田氏と原田氏の担当編集者は別人だった。
「鉄道をよむ」は、所蔵する鉄道書コレクション*1から100冊を選び、解説している。自著は「日本の地下鉄」を選んでいる。「『日本の私鉄』の方が思い出は深いが、発行された時の反応は、この本のほうが大きかったように感じた」とのこと。「鉄道をよむ」刊行後も、鉄道ピクトリアルに毎号、新刊の鉄道図書を取り上げ、的確な書評を寄稿されていた。

*1:金沢文庫と称し、個人の鉄道関連蔵書としては国内最高を誇るものとして知られる。2009年NPO法人名古屋レール・アーカイブスに寄託された

JR北海道の路線・区間別収支

JR北海道は、4月留萌本線留萌・増毛間の廃止を届け出たのに続き、7月29日「持続可能な交通体系のあり方」についてを公表、輸送密度(人/キロ/日)の低い路線については路線廃止や上下分離の検討を進めるとした。これを受けて、石勝線夕張支線については夕張市長自らが廃止を提案するという事態になっている(夕張支線廃止「19年3月にも」 市長、JR社長と会談北海道新聞))。
JR北海道は、1月29日開催の北海道庁主催の地域公共交通検討会議において2014年度の路線・区間別の輸送密度と収支を開示した(資料は、地域公共交通検討会議の第二回議事概要の資料3JR北海道提供資料として掲載)。全路線が赤字という内容でJR北海道が道内全線区で赤字 14年度、札幌圏も26億円(日経)などと報じられた。
札幌圏を含めて、全線赤字というのは信じられない。資料では、札幌圏の路線・区間の数字が合計され、その営業係数が107、2,662百万円の営業損失となっている。これについては、次の注記がある。

札幌圏は、函館線(小樽〜札幌〜岩見沢)、千歳・室蘭線(白石〜苫小牧)、札沼線(桑園〜医療大学)であり、収入では、例えば札幌駅の券売機で発売した切符の多くは、金額表示であり、ご利用になった線区を特定することができません。一方、費用では、多くの電車が直通で運転していることや鉄道施設を管理する保守部門が線区を跨がっていることから、線区ごとに収入・費用を配分することが実態に則した線区の収支状況にはならないと考え、札幌圏を一まとまりとして公表することとしました。

これは他の地域でも同じだろう。輸送密度は区間ごとに記載しているのだかから、言い訳にしか聞こえない。
週刊東洋経済臨時増刊 「鉄道」全真相2016 [雑誌]週刊東洋経済の臨時増刊「鉄道完全解明全真相2016」は、JR北海道の上記資料を用いて路線・区間別収支を試算している。

今回の試算に当たり、各路線、区間の営業収益はJR北海道発表の数値を用いることとした。札幌圏での営業収益は旅客人キロの比で、各路線、区間に割り振っている。一方、営業費用は同社全体の1141億9400万円に対し、変動費部分は旅客人キロの比で、固定費分は営業キロの比で分配して求めることとした。

JR北海道東洋経済の数字を比較したのが次の表である。東洋経済は、営業費用、営業損益を示していないが、営業係数と営業収益から逆算した。四捨五入誤差で合計が若干異なっているが、大差はない。

    JR
路線・区間 輸送密度 営業収益 営業費用 営業損益 営業係数 営業収益 営業費用 営業損益 営業係数
 留萌線留萌〜増毛     39        5     232    -227  4,554      5     396    -391  7,911.2
札沼線医療大学〜新十津川     81       16     348    -332  2,162     16   1,137  -1,121  7,106.5
石勝線新夕張〜夕張    117      14     196    -182  1,421     14     387    -373  2,767.0
根室線富良野新得    155      60     952    -892  1,591     60   1,981  -1,921  3,301.0
留萌線深川〜留萌    177      46     693    -647  1,508     46   1,220  -1,174  2,651.8
日高線苫小牧〜様似    298     143   1,687  -1,544  1,179    143   3,652  -3,509  2,553.8
宗谷線名寄〜稚内    405     487   3,031  -2,544    622    487   4,661  -4,174    957.1
根室線釧路〜根室    436     247   1,247  -1,000    505    247   3,465  -3,218  1,402.8
根室線滝川〜富良野    460     120   1,148  -1,028    953    120   1,404  -1,284  1,169.6
釧網線東釧路〜網走    466     334   1,986  -1,652    594    334   4,277  -3,943  1,280.5
500人未満計    347   1,473  11,520 -10,047    782  1,472  22,579 -21,107  1,533.9
 室蘭線沼ノ端〜岩見沢    516     124   1,255  -1,131  1,011    124   1,740  -1,616  1,403.4
江差線木古内江差    618      27      84     -57    314     27   1,114  -1,087  4,126.3
函館線長万部〜小樽    675     439   2,506  -2,067    570    439   3,749  -3,310    853.9
石北線上川〜網走  1,051   1,278   4,185  -2,907    327  1,278   5,397  -4,119    422.3
室蘭線室蘭〜東室蘭  1,342       91     404    -313    445     91     210   -119    230.3
富良野線富良野旭川  1,406     338   1,236    -898    366    338   1,657  -1,319    490.3
石北線新旭川〜上川  1,489     389   1,062    -673    273    389   1,376   -987    353.7
宗谷線旭川〜名寄  1,512     724   2,643  -1,919    365    724   2,344  -1,620    323.7
500人以上〜2,000人未満計  1,027   3,410  13,375  -9,965    392  3,410  17,586 -14,176    515.7
根室線帯広〜釧路  2,259   2,217   5,451  -3,234    246  2,217   4,405  -2,188    198.7
函館線函館〜長万部  3,765   4,566   8,848  -4,282    194  4,566   6,703  -2,137    146.8
海峡線木古内〜中小国  3,851   3,333   4,216    -883    126  3,333   3,686   -353    110.6
2,000人以上〜4,000人未満計  3,255  10,117  18,515  -8,398    183 10,116  14,794  -4,678    146.2
石勝・根室線南千歳〜帯広  4,270   6,337   8,266  -1,929    130  6,337   7,750  -1,413    122.3
江差線五稜郭木古内  4,377   1,261   3,125  -1,864    248  1,261   1,682   -421    133.4
室蘭線長万部東室蘭  5,022   2,836   3,833    -997    135  2,836   3,673   -837    129.5
室蘭線東室蘭〜苫小牧  7,736   3,113   4,769  -1,656    153  3,113   3,515   -402    112.9
4,000人以上〜8,000人未満計  5,023  13,547  19,993  -6,446    148 13,547  16,620  -3,073    122.7
函館線岩見沢旭川  9,320   5,889   8,407  -2,518    143  5,889   6,560   -671    111.4
札沼線桑園〜医療大学 16,873  39,721  42,383  -2,662    107  4,546   4,732   -186    104.1
函館線札幌〜岩見沢 43,025         11,592  10,410   1,182     89.8
千歳・室蘭線白石〜苫小牧 43,433         11,702  10,497   1,205     89.7
函館線小樽〜札幌 44,099         11,881  10,646   1,236     89.6
8,000人以上計 28,519 45,610  50,790  -5,180    111 45,610  42,844   2,766     93.9
合計  4,791 74,157 114,194 -40,037    154 74,155 114,423 -40,268    154

全体として、輸送密度の低い路線の営業係数は発表数値より高く、高い路線は低い結果になっている。営業費用の変動費部分を旅客人キロ比、固定費分を営業キロ比で一律に分配しているところが、各路線の実態を正確に反映していないかもしれない。しかし纏められていた札幌圏のうち、函館本線小樽・岩見沢間と千歳線室蘭本線白石・苫小牧間が黒字というのは実感に会う。

なにしろ12年度の全線旅客密度が4万0314人と札幌圏にほぼ等しい名古屋鉄道は、同年度に鉄道事業で107億円余りの営業利益を計上しているからだ。札幌圏が黒字でもおかしくあるまい。

と書いているとおりである。この数字は「持続可能な交通体系のあり方」の議論の前提となるものだから、JR北海道には納得できる情報の開示を期待したい。

『空の上の格差社会』

6月28日付で平凡社のサイトに掲載されたお詫びと訂正に、旅規ポータルの等級制からモノクラス制へが引用されている。

平凡社新書779『空の上の格差社会』(杉浦一機著)の中に、以下の不適切な部分がありましたので、おわびして訂正します。
41頁11―12行目 
×:東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九六倍から一・六八倍に縮小している。
○:東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九四倍から一・五一倍に縮小している(『デスクトップ鉄のデータルーム』「等級制からモノクラス制」http://www.desktoptetsu.com/ryoki/monoclass.htmを参照)。

これだけでは何のことかわからないだろうから、経緯を書く。
『空の上の格差社会』は、航空機のファースト・ビジネス・エコノミークラスの「クラス分け」の経緯、現状及び将来の方向について書いており、国鉄の等級制がモノクラス制になった経緯についても言及している(p41)。

 その経緯について日本国有鉄道百年史修史委員会編纂による「日本国有鉄道百年史」では次のように説明している。「一等車と二等車の設備格差の縮小、利用実態の変化等を考慮して、一等運賃・料金を廃止して、従来の二等運賃・料金による一本立ての制度に改め、等級呼称を廃止することにした」(第一三巻)。
 ここで指摘している「利用実態の変化」とは、(1)*1一等車の利用の減少のほか、(2)航空との競合の影響を考慮しているものと思われ、改定後のグリーン車の運賃・料金は長距離を中心に割安に設定されている。たとえば、東京―大阪間(「ひかり」指定席)の格差は二・〇一倍だったものが一・四八倍に、上野―札幌間(特急「はつかり」「あおぞら」乗継)は一・九六倍から一・六八倍に、東京―博多間(寝台特急「あさかぜ」)では一・九六倍から一・六八倍に縮小している。

どこかで見た数字だと思い調べてみたら、「等級制からモノクラス制へ」の表2で比較した、1969年5月の制度変更によって1、2等の運賃・料金格差が縮小したことを示した数字だった。『空の上の格差社会』は、表2に記載している4例のうち、東京・藤沢間の普通列車以外の3例を使っている。東京―博多間の数字は上野―札幌間と同じで、転記ミスだろう。杉浦氏が独自に計算したものとは思われない。平凡社のwebmasterあてに「無断引用の疑いがある」とメールした。
さすがに一流出版社で、翌日には担当編集者から、著者に連絡し現在事実関係・経緯について調査中である、との返信があった。翌週、調査結果について、「著者が表2の数字を参照したことを認め、参照元を明記することが適当であった」との回答が来た。

そこで、小社は著者の杉浦氏とともに、参照元を明記しなかったことをデスクトップ鉄様におわびし、増刷の際には、ご指摘の数字の間違いを訂正するとともに、当該箇所の末尾に「(『デスクトップ鉄のデータルーム』「等級制からモノクラス制」http://www.desktoptetsu.com/ryoki/monoclass.htmを参照)」と注記いたします。また、小社のホームページに、以下の訂正文を掲げます。

の「以下の訂正文」が冒頭に引用した「お詫びと訂正」である。訂正文に「参照元を明記しなかったことをデスクトップ鉄様におわびし」の趣旨を表現してもらえないかと重ねて依頼したが、

この告知は読者に向けたものであり、このような文言自体は記入できません。しかし、訂正文の「以下の不適切な部分がありましたので」の「不適切な部分」という言い方は、そうした「趣旨」を含みこんで表しています。他の訂正文では、「以下の誤りがありましたので」と「誤り」という表現となり、それは区別されます。今回のホームページでの訂正の告知でも区別して表示するつもりです。

との返事だった。「不適切な部分」と「誤り」の区別を読者が認識するかどうか疑問だが、早期に増刷が実現することを期待して、これで決着することにした。あわせてメールのやり取りをもとにブログ記事を書くことを通知した。
杉浦氏の本は、1988年の『利用者のための最新航空事情大研究』以来ほとんど読んでおり、航空運賃等についての利用者の立場に立った執筆姿勢は好感がもてる。その著者にウェブページを参照されたのは、ある意味では名誉なことだが、参照している他の文献*2と同様、デスクトップ鉄をクレジットしてほしかった。

*1:原文は環境依存文字の○1。(2)も同じ

*2:小島英俊『鉄道という文化』、近藤喜代太郎・池田和政『国鉄乗車券類大事典』など

2015年の回顧

2015年は、北陸新幹線、仙石東北ラインなどの新線開業があった。2011年3月27日の名古屋市営地下阿哲桜通線の延伸開業以来4年ぶりである*1。また上野東京ラインの開業により、首都圏の鉄道ネットワークが大きく変わった。
このブログで書きもらしていたが、8月作家の阿川弘之氏が亡くなった。メディアの訃報は、海軍三部作や阿川佐和子の父親といった紹介が主で、内田百輭阿川弘之宮脇俊三と三代続いた鉄道紀行作家の二代目であることに触れたものはなかったように思う。鉄道紀行文集の第一作「お早く御乗車願います」(昭和33(1958)年中央公論社刊)は、あとがきに

この本は、中央公論社出版部の宮脇俊三さんという、奇特な汽車気狂い*2のお陰で陽の目を見ることになったので、私にとっては思いがけぬ臨時電車を出して貰ったようなもので、感謝しています。

とあるように、宮脇氏の編集になるものである。宮脇氏が「時刻表2万キロ」でデビューする20年も前のことだった。阿川氏には海外の鉄道紀行「南蛮阿房列車」の正・続二部作がある。また米国人作家ポール・セル―(Paul Theroux)の鉄道旅行記「鉄道大バザール」(講談社、1977年)の翻訳者であり、「ブルートレイン長崎行」(講談社、1979年)という共著もある。
今年もこのブログに多くのコメントをいただいた。8月15日のIC乗車券の運賃計算経路には、実に49件のコメントがあった。またコメントやメールで、ウェブサイトの記事の間違いの指摘を受けた。本日更新した市名と駅名の関係(市代表駅)も、西宮駅の表記を「西ノ宮」のままに放置していたのをメールで指摘を受けたものである。

*1:2014年に万葉線高岡駅前の0.1キロ延伸はあった

*2:原文のまま。今は「きちがい」と入力しても変換してくれない

続・IC乗車券の運賃計算経路

8月15日の記事に関連して、読者がメールで興味深いブログ記事を教えてくれた。千葉ニュータウン中央・舞浜間(経由北総鉄道、東松戸、武蔵野・京葉線)のIC定期券を所持する筆者が、東松戸で乗換えず、そのまま北総、京成、都営地下鉄で都内まで乗車する「実験」を行い、そのとき減額された運賃について書いている。前記事で書いた西船橋からメトロ東西線経由の最低廉運賃が、都営地下鉄の駅で乗降したときにも、メトロ都営乗継割引運賃として適用されていることが判明した。

定期券併用によって本来の運賃から39%〜68%減額されている。筆者は、この実験を行うまで都内に行くときは、北総鉄道の高額運賃を回避するために西船橋からメトロに乗車していたが、実験の結果「東松戸から先の北総線に乗り、都内へ出ることへの恐怖心が、かなり薄れてきました。これからも北総線を使い倒す!」と書いている。筆者がこの実験を思い立ったのは、「できるだけ乗らずに済ます北総線」の記事だったという(「できるだけ 乗らずに済ます 北総線」がおしえてくれた、ICカードのカラクリ)。
できるだけ乗らずに済ます北総線同書は、このブログで何度か書いた北総線値下げ裁判の会の編著で、月刊千葉ニュータウンが発行したもの。裁判原告の座談会で、千葉ニュータウン・千葉中央間(経由北総、新鎌ヶ谷新京成京成津田沼、京成)の定期券で通学していた高校生が北総線で都内に行ったときの履歴が京成津田沼から都内だったという発言があり、北総線沿線では知られた運賃節約の手段だったらしい。ブログの筆者は千葉ニュータウン・都営浅草間の例を書いているが、北総・京成・都営の770円*2に対し、減算額京成津田沼(京成)押上(都営)浅草の544円である。
この高校生は新鎌ヶ谷の中間ラッチを通らなくても最安ルートの運賃が引かれることを知った後、千葉中央から新京成経由ではなく、京成高砂経由のノーラッチルートで帰ったことがある。このときは、千葉ニュータウン中央の改札で「定期券のルートと異なります」という表示がでて出場できず、結局京成津田沼京成高砂−新鎌ヶ谷の運賃を取られたという(pp196-198)。定期券の区間外へは、ラッチ通過にかかわらず低廉な運賃が減額されるのに、定期券の区間内駅相互間では経路中にあるラッチを通過しないと、実乗車ルートの運賃が課されるようだ。
IC乗車券の運賃減額ルールでは、乗客が利用しているのに運賃収入が得られない事業者や、逆に利用していなくても運賃の分け前に与る事業者がでてくるが、定期券が絡むと矛盾が一層拡大する。北総鉄道は未収運賃の補填を受けているのだろうか。

*1:原文の42円は間違い

*2:筆者は889円と書いているが、三社割引が反映されていない